第8話 疑念と下手な嘘
戻ってみると、ピディーさんが興奮してリュリュさん相手に早口でなにかをまくし立てている。
何だろう?と思ってみると、リュリュさんが手にしているのは、例のふわふわマシュマロ的な地面の一部であった。
「あ、すいません。それ、私のです」
通じないと思いつつ、声をかけると、こっちをキッとにらんで、手にしたマシュマロと俺を交互に見詰めたのち、たぶんさっきの呪文を唱えた。
「あ、すいません。それ、私のです」「これをどこで手に入れたのよ!」
声が同時にかぶった。リュリュとフィリスは顔を見合わせている。
「あー、まあ、なんというか、故郷の方で採れたというか」
「これが採れる?冗談でしょう?あなたどこから来たっていうの?」
「なんといいますか、そのー、結構遠い所です。」
「これがなんだか分かって言っているの?」
「いや、故郷の方ではポピュラーなもので、こっちではそんなに珍しいものとは思いませんでした」
「これが・・・珍しくない?これをあなたたちはどうしてたって言うの?」
うーん、全く分からないけれど、なんとなく嫌な流れだな。でも、なんていうのが正解なのか、見当もつかない。
「えーっと、・・・その・・・食べてたり、とか?」
「食べる!?これを?」
「まあ、まあ、ちょっと、リュリュもそんなに興奮しないの。ムツキさんも困ってるでしょ」
「そーですよ~。何がそんなにいつもは冷静なあなたを興奮させているんですか~?」
「あなたたち、これはね!」
言いかけて、ピディーは、ぴたりと止まって、しばらく考え込んだのちに、にっこり笑って言った。
「・・・そうね。確かに冷静さを欠いていたわ。魔術師はクールじゃなくっちゃね。ごめんねムツキ君」
「いや、いいんですよ。大事なものをそこらへんに放置しておいた俺も悪いんですから」
ふむふむ、とリュリュさんは頷き
「よーし、仲直りできたところで、お腹もすいたし、お昼ご飯にしよう」
********
「え?ムツキ君って、まだ16歳なの?どうりで人族にしては背が小さいなと思った」
「リュリュさん、ハッキリ言いますね。こう見えても気にしてるんですよ、そのことは」
「でも、いいじゃない。まだまだ成長の余地があるんでしょ~?若いってことですから~」
ニコニコしながらフィリスさんがとりなしてくれる。
「そうですねー。可能性に期待です。ところで皆さんの年齢は?」
「女性に年齢を聞くなんて、100年早いわよ」
「ほんの~ちょっとだけムツキさんより年上ですよ~」
だめだこれは。この話題からは速やかに撤退しないと。
「そういえば、このサンドイッチ、めっちゃおいしいですね」
「そうでしょ~。ピディーは実は料理も得意なのよ~」
当のピディーはどこか心ここにあらずといった感じで、考え事をしているように見える。
「おい、ピディー?どうしたんだ?」
リュリュの言葉にはっと気が付いて顔を上げた。
「なんでもないわ。それよりムツキ君。あなたのさっきのあれ、食べるって本当?」
「本当ですよ。あんまり腹持ちしないですけど。ちょっと食べてみますか?」
「いや、私はちょっと・・・」
「お、それも食い物なのか?じゃあアタシが試してみるかな?」
「また~そうやって~。こないだのきのこの時にひどい目に合ったのを、忘れてないんですか~?」
「あれは、ちょっとした気の迷いで」
「一晩中笑い転げるあなたを解毒しなかったら、今頃どうなってたんでしょうね~」
「もう、それはいいだろう。それはムツキ君も食べられるって言ってるんだし」
「本当ですよ、ほら」
マシュマロの端っこをちぎってパクッっと食べて見せる。・・・なんかピディーさんがものすごく凝視してるな。
「ほら、大丈夫だろう?ちょっとアタシにもくれないか?」
「そんなにおいしいものじゃないですよ?」
「いいんだよ。珍しものを食べたいってのも、あたしが冒険者になった一つの動機なんだから」
ちぎって渡すと、リュリュさんはひょいっと口に放り込んだ。
「もぐもぐ、うーん、確かに。何というか、味がないというか、こう、何かスープに混ぜるとかしないと、これだけでは味気ないな」
私もー、というので、フィリスさんにもちぎって渡す。
「なんか、味のないチーズみたいですね~。でもトマト煮込みとかに入ってたら合いそうです~」
「ピディーさんはどうですか?」
「私は・・・結構よ。その・・・魔術は繊細なものだから、変なモノ食べて調子を崩したくないの」
「ははは、ピディーは怖がりだなあ」
「慎重って言って!ていうか、とりあえずなんでも口にするあなたの方が私としては信じられないわ!」
そんな感じで、姦しくも楽しく昼食を終えたところぐらいで、また意思疎通の呪文が解けた。その後も三人はしばらく喋っているが、こっちはボッチ感ある。しかも時々こっちを見ては、くすくす笑ったり、ちょっとびっくりしたような顔をしたりされていて、妙に落ち着かない。
せめて言葉を覚えるか、この魔法を覚えるかしないと、ちょっと不便すぎるよ。
ご飯を食べ終えて片付けると、また採集に戻って、と思いきや今日はこれで撤収するらしい。
あれ?そんなものなの?と思っていると三度魔法がかかった。
「すまんね。そろそろ出発しないと、中継にしている洞窟にたどり着く前に日が暮れてしまうから、そうすると旅の危険度が増すんだ。ムツキ君が手伝ってくれたおかげもあって、依頼された分は採集を終えたし、自分たちで使う分もそれなりにあるから、ここらで潮時かなって思うんだよ」
リュリュさんが申し訳なさそうに言った。
「もちろん、こちらこそ、腰巻から、昼食までお世話になってありがとうございます」
「それで、ムツキ君はこの後どうするつもりなの?」
「あー、そうですね。実は宛も路銀もないので、もし良かったらどこか途中までご一緒させてもらえればと。厚かましいですか?」
「いやいや、そんなことはないよ。こっちとしても願ったりだよ。・・・その鎧や剣も故郷のものなのかい?」
「ええ、そうですね。この辺じゃ見かけないものですか?」
「それはそうだねえ。そんなに白い格好している奴はいないね」
たしかに、リュリュさんの格好は、動物の皮を堅くなめした感じで茶色いし、フィリスさんのチェインメイルは鈍色だし、ピディーさんに至っては灰色のローブだ。
「人数が増えると、夜の見張りが楽になりますしね~」
フィリスさんも問題なさそうだ。ピディーさんは、
「ま、いいんじゃないの?ずいぶん年も若いみたいだから、私たちがついてあげないと、また迷子になっちゃうでしょうから」
良かった。これで、なんとかもう少し面倒を見てもらえそうだ。でも、夜の番をしたところで、俺の戦闘力って皆無なんだろうけど。
土ごと採取されたオギリ草を大きな籠に小分けに詰めたものを、ロープで馬車の屋根まで次々に引っ張り上げる。ふと気が付くと、皆がまじまじとこっちを見ている。
「ムツキ君って意外と力持ちなんだねえ」
「そうは見えなかったですけど~、人族って筋力があるんですね~」
いやー、こんなことで褒めてもらえるなんて思ってもみなかったけど、一応お役にたてた様で良かった。
照れ笑いしている俺を見て、また考え込むようにピディーさんだけが黙っていた。
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