第6話 サルべージャー任命
「回収って、簡単なことなんですか?」
「簡単なことかどうかは、お前には関係ない。やるんだ。」
「でも、百歩譲ってそれが俺のせいだとしても、あなたが回収する方が、楽なのでは?俺の能力って、せいぜい3センチ物事を動かすぐらいですよ」
「
「そんなぁ、なんでもできる神様的なポジションの人なんではないんですか?」
「神のようなそれぞれの世界ごとに居る、土着のものと我を同じにするではない。お前にも判り易く言えば、2㎞の指で3センチのモノをつかむことは困難なんじゃ。もういいから、はよ行け」
しっしっと手で振り払うようなしぐさをされるも、めげずに俺は食い下がった。
「そもそも回収って、どうやってすればいいんですか?そこからして分かりません。安全に回収できるような能力にも自信がありません。そして最後に、素っ裸では、明らかに不審者です」
「お前は厚かましいのう。じゃがまあ、回収をするつもりになったのは殊勝な心掛けじゃ。確かに無能な回収人を寄こしても、結局失敗に終わるだけじゃ。お前自身に存在する適性を拡張しておくぐらいならやってやろう」
「くだんの世界は剣と魔法の世界じゃが、・・・ふうむ、剣は・・・、普通ぐらいじゃな。魔法は・・・、おわ、なんじゃこりゃ。魔力の上限が常識はずれに高いにも拘らず、アウトプットは3センチ物事をずらすだけか。可笑しいからこのままにしておきたいのう」
ジトっとした目で美女を見る。
「冗談じゃ。まあ適性があるのは、次元・空間魔法系か。そのあたりの可能性を拡張しておいてやったぞ。あとは、、識別系も拡張して、、言語系も拡張して、、」
「適性を拡張というのは、つまりどういう事ですか?」
「要するに、適性のない技術は剣術であれ、魔術であれ獲得できん。お前の高が知れている適性を、少しだけ広げてやっているんじゃ。」
「それは、スキルのようなものを持って降りられるという事ですか?」
「違う。スキルを獲得できるかどうかは降りてからのお前の努力次第だ。経験を積んでいけばいずれ獲得できることもあろう。適性がないというのは、スキル獲得が最初から不可能だという事だ」
適正・・・前の世界で俺が苦しめられた言葉だが、それを拡張してくれるというのあらありがたい。まてよ?
「それでは、言葉で人を威圧したり、未来を予測したり、虫を使役したり、瞬間移動したりというのはどうですか?」
「ん?未来予測は識別系だから既に拡張してあるな。ただ、そのスキルを会得するまでの道のりは長いぞ。移動はお前の元々の得意分野だ。あとは操作系と使役系か。確かに無くはないが、元々の可能性は大きいものではないぞ」
「かまいません。できるだけ低い可能性のものでも、ありったけ拡張しておいてください」
「なんと、厚かましいのう。まあそれならまとめて拡充しておくか。これでよいか?」
ここは、食い下がれるだけ食い下がっておくべきだろう。
「あとは、経験を積むにも、体力も、先立つものも、ましてや衣服も武器もありません。そこも何とかお願いします。」
「基礎能力値は、面倒じゃ。普通にレベルアップしていけば上がる。」
「レベルアップする前に死にかねませんよ。箸より重いものを持ってない民族なので」
「ふーむ。ではそこらの地面を掘って、それを食らえ。身につく事があれば幾らかあるじゃろう」
「本当ですか?なんか適当な感じが?」
「我の言葉を疑うのか?」
ジト目で見られた。
「滅相もない。ちょうどお腹もすいていたので、頂きます。」
乳白色の地面をひとすくい手に取って、口に入れてみる。うーん、何というか、味のないマシュマロ的な・・・。まあでも、見た目は悪くないんだし、とりあえず食べてみよう。
うーん、まあ食べられなくないというか、お腹に溜まるんだか、たまらないんだか、判らない感じだ。
「はむはむ。ありがとうございます。食べながらですみませんが、お金と着るものと装備をください」
美女にジロリとみられたが、あきらめたのか、腕輪を外してひと撫ですると、白銀の剣と鎧が現れた。何というか、白いな。石膏みたいな白さの剣と鎧だ。
「これはお前が今から赴く世界には、元々ないものだ。絶対無くさないようにお前の魂にも紐づけておいた。この件で元々世界にはない魔力を帯びたものを切れば、その魔力を回収することができる。次元の壁を見つけた時は鎧にくっつければ、回収できる。服や金というものは持ち合わせておらぬから、自分で何とかせい」
もしゃもしゃ食べながら見ると、剣を掲げた彼女は周りの魔力を吸い込み始めた。
「こんな感じで吸い取ることができる。一応吸い込むほどに剣としての力は増すようにしてある」
なるほどーと、もしゃもしゃ食べながら見ると、懐から青いガラスの欠片のようなものを取り出して、鎧に押し当てると、鎧は少し輝いたのち、ガラスを吸収した。
「こちらも欠片を取り入れれば鎧の性能が上がる。大方の魔力と欠片を回収したら、知らせよ。もう一度釣り上げてやる。いつまで食べておるのじゃ!」
もしゃもしゃ。もしゃもしゃ。これ、あれだな。意外といけるな。しかもよく見ると、最初の方に食べたところがじわっと元に戻ってきている。
「だって食べて基礎能力が上がるなら、(もしゃもしゃ)なるべく食べてから行かないと。ていうか、これ、戻るんですね。」
「何とも浅ましいものだ。それは周囲から魔力を吸収して回復する。お前なんぞ埋もれてしまってれば、手間がかからなかったのに」
言われて初めて気が付いたが、最初調子に乗って掘っていってた時に、やけに上の方が遠く感じたが、あれは戻っていってたんだ。危なかった。
「(もぐもぐ)そうだったんですね。危ない所でした。それはそうと、その、漏れ出た魔力と欠片を回収し終えたら(もしゃもしゃ)、どうやってあなたを呼べばいいのですか?」
「喰いながら喋るな。落ちた時に空にみえた、お前の人型があっただろう。あそこに向かって剣から魔力を放てば、釣り糸を垂らしてやる。では、行くがイイ」
いささか粘り過ぎたのか、もうここらが限界みたいだ。片手をあげて、明らかに吹き飛ばそうとしている。
「最後に、最後にあなた様のお名前をお聞かせください。」
「我に名前などという、下等なものはない。administratorとでも呼べ。では、頑張ってこい」
美女が腕を一振りすると、再び先ほどの湖のほとりに座っていた。
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