第3話脱出、衝突……。

地下から脱出し、一階に到着した。

廊下は三方向に伸びている。

前か。

右か。

左か。

取りあえず地下へ通じるこの場所から離れなければ。

右手の廊下へ早足で進む。

窓の外から景色が飛び込む。

もう夜になっていた。

この世界が一日二十四時間周期で推移するのかは分からないが、地動説の仕組みだと考えてよさそうだ。

俺が地下牢に収監されたのは処遇が保留だからだ。

つまり今、エルフ達は休息か、別の用件に着手しているはずだ。

休息の必要が無いならば、あのまま会議を続けたはずだ。

別の用件が無いのであれば、やはり会議を続けたはずだ。

会議を中断したということは、エルフにも休息が必要だからか、あるいは別件があるからだ。

その隙を逃すのは好ましくない。

俺の脱獄が知れ渡れば、エルフの縄張りから無事に抜け出すことが困難になる。

転生という現象をエルフ達が認知しているのかは分からないが、俺が転生を自在に行えることは知られていない。

さっき手に入れたのだから。

窮地は脱したが、今ここで時間や気力、体力を空費するわけにはいかない。

ここを抜けだした後、どんな状況になるか分かっていないのだから。

曲がり角を曲がる。


ドンッ!!!


何者かにぶつかった。

女エルフだ。

視線がぶつかる。

金色の眼が俺を射抜く。

もっとも、今は俺も金色の眼だが。

「失礼」

一言つぶやき歩き去る。

「……あの、あなた誰ですか?」

と女エルフ。

この集落は大規模と表現するほどではない。

全員が顔見知りなのか?

「あの……」

女エルフが困惑している。

思案する時間も無い。


女エルフを人間に転生させる!!!!


念じると、すぐに女エルフは薄明かりに包まれ人間に転生した。

年齢は変更しない。

金髪も金色の眼も白い肌もそのままだ。

これは俺が変更しなかったからというよりは、他者を転生させる場合に、元の姿が転生後の姿に影響を及ぼすことがあるという事例か。

エルフの尖った耳は縮んだようだが。

「君こそ誰だ?」

白々しくも俺は問い返す。

立場が逆転したのだ。

俺はエルフで、女エルフが人間なのだ。

しかしこの言葉に矛盾が潜むのは明白だった。

俺が彼女を知らないならば、視線が合った後、何事も無かったかのように立ち去ろうとしたのは不自然である。

考える間を与えない!!!

「人間が侵入して、捕縛されたんだよ!?」

時間は言わない。

今日と表現して、俺が捕まったのが昨日だったら話が合わない。

今朝と表現して、俺が捕まったのが昨日の朝では話が合わない。

この世界の時間概念が把握できていない以上、明確な表現は避けるべきだ。

彼女は俺の言葉に困惑している。

「君も、ここにいては危険だ。捕まるよ、人間は」

彼女は自分がエルフから人間に転生した事実を把握していない。

畳み掛ける。

「君は人間だろう?耳が短い」

「なにをいっているんですか!?」

語気強く返す彼女。

しかし自分の両耳を触り、狼狽する。

「なんでっ?わたしの耳が……!」

青ざめる彼女。

勝った。

彼女は自分の耳が短くなったことに困惑し、それを理解することが最優先課題になった。

俺は状況をすべて理解している。

この世界についての理解は途中だが、この場は支配していた。

「他のエルフに見つかったら、君も処刑される」

俺の言葉が彼女を射抜く。

「逃げた方がいい」

エルフの領域に侵入した人間は罰せられるはずだ。

もし侵入者を外へ追い払うだけならば、俺は地下牢に入れられる事もなかっただろう。

「俺は友に招かれ、この地へ赴いた。この屋敷の構造を把握していない。君が侵入した経路から帰るんだ。送るよ、血は見たくないからね」


さあ、俺を無事に外へと案内するんだ……!


「違うんです!わたしはエルフなんです!」

と彼女。

声が大きいよ、声が。

困ったな、しかし。

彼女は自分が人間に転生したことを受け止められないようだ。

そもそも転生という事象を知らないならば受け入れられないだろう。

さらに言えば、俺が転生の力を持っていることも、使ったことも知らない。

方針を変えるか……。


「君もなのか?」


理解者になる。

「最近、俺の集落でも、エルフが人間に変身してしまう現象が発生しているんだ。ここへ来たのは調査と報告を兼ねている。

この集落でも人間が捕まっただろう?その人間の処遇が保留されたのも、事件との関連性を調べるためだ。

しかし、俺の集落でもそうだったが、人間化したエルフの処遇は悲惨だよ。俺の知り合いが受ける待遇には我慢できない。だからここへ来たんだ」

彼女の正体がエルフであると認める。

そのかわり、彼女が今、人間であると認めさせる。

「そうなんですか……?」

彼女の理解は追いついていない。

時間と比例して状況の進展が鈍い。

強引に行くか。

「さあ、一旦、外へ行こう!」

彼女の肩を掴み、移動を促す。

エルフの外見的特徴である鋭利な耳が失われた事は彼女自身も確認した。

そして、人間からエルフに転生した俺が魔力を得たように、エルフから人間に転生した彼女は魔力を失ったはずだ。

彼女も薄々気づいているだろう。

冷静さを欠いた彼女は俺の指示にしたがい、外へ出る……。


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