第2話発見、発掘、そして……。

なんだ?これは……。

剥がしたタイルの下に、光るものを見つけた。

タイルの下に敷き詰められた土から、埋もれているなにかの一部が見える。

タイルを剥がした部分を起点に、周辺を掘り起こす。

一枚目のタイルを剥がす時より、精神的にも肉体的にも難無く進んだ。

手は痛いけれど……。


埋もれている何かを掘り出した。

長方形のそれについた土を払う。

それは一冊の書物だった。

本の装飾に金属が施され、それが光を反射させたのだ。

本かよ、といささかガッカリしたが、表紙を読む。

「転生の書……」

転生の書?なんだ、それ。

いや、それよりも奇妙なのは、見覚えの無い文字で綴られた言葉を、俺が難無く読み解けたことだ。

しかし、今それを考えても仕方がない。

できることは読み進めることのみ。

本を開く。

すると本文の黒い文字とは別に、紫色の文字で書き込まれた文がある。


『転生の書をここに隠す。この書物はあまりにも危険だ。

しかし世界にとって、失うことができない重要な書物でもある。私はこの書物を破棄することができなかった。

願わくば、この書物が正しい者の手に渡ることを祈る……』


なによなによ、ずいぶん期待させてくれちゃうじゃない。

俺は本文を読む。


『この書物は生命の転生術を会得するためのものである。しかしそれは術と呼ぶのは正確さを欠くかも知れない。

この書物には転生の力が封印されている。

書物の最後に記された呪文を詠唱した時、封印は解かれ、詠唱者に転生の力が宿るだろう。

転生の力に付いて記述する。

転生の力は対象の命を奪うものではない。対象の命の形を変更する力である。

転生の力を宿す、転生使いが念じた形に変更されるのである。

転生の力は己自身に使うこともできる。

他者に使うこともできる。

回数に制限は無い。

任意の年齢に転生させることが可能である。

転生使いが触れた経験のない種族に転生させることは不可能である。

一例を挙げると、対象をドワーフに転生させる場合は一度ドワーフに触れた事がなければならない。

一度触れた種族には制限なく転生が可能。

同じ対象を転生させる回数に制限は無い。

他者を転生させる場合、半径10メートル以内の距離にいなければならない。

他者を転生させる場合、物理的距離が近いほど転生の速度が増す。

転生使いが己を対象に転生した場合、完全なる転生が可能である。

他者を転生させる場合、本来の姿が転生後の姿に影響を及ぼす可能性がある。

転生使いが念じることによって転生が発動する。詠唱は必要ない。

転生した対象は再び元の種族・年齢に転生し直さなければそのままである』


俺は興奮に打ち震えた。

なんて幸運なんだ。

これで現状を打開できる。

俺は書物の最終ページを開き、いざ呪文を詠唱せんと意気込んだ。

が、

見当たらない。

最終ページも、その前のページにも呪文など書いていない。

あるいは炙り出しにでもなっているのかと訝ったが、燭台が鉄格子の外にある以上、どうしようもない。

期待させやがって、と本を壁に叩きつける。

すると本の装飾部品が一部、外れてしまった。

落ち着きを取り戻し、外れた装飾部品と本を手に取る。


……。

まてよ?


俺は残りの装飾部品を剥ぎ取り、本のカバーを外す。

そして裏表紙を見ると……。


あたりだ。


呪文が書き綴られている。

裏表紙には右手を添える手形の窪みがあり、その中に転生の力を継承するための呪文が刻印されている。

やはり見覚えのない文字だが、解読できる。

手形の窪みに右手を嵌め込み、呪文を詠唱する。


「涅槃により吹き消されし輪廻転生に、今ふたたび光を流し込め!逆流せよ!


 ニルヴァーナ・サンサーラ!!!」


転生の書は黄金の光を放ち、金色の輪が出現する。大中小、三つの輪は重なりながら縦、横、斜めと別々の向きに回転する。

大きな輪に嵌め込まれた紅い玉が光る。

中ぐらいの輪に嵌め込まれた蒼い玉が光る。

小さな輪に嵌め込まれた緑の玉が光る。

そして三つの輪の中心から灰色に光る球体が現れ、俺の体に近づき、


入り込んだ。


気を失いこそしなかったが、茫然としていた。

いつの間にか、転生の書はその姿を消していた。

役目を果たしたのだろう。

試さねば。

俺が手にした一筋の光明を。

俺が一度は触れたことのある種族……。

決まっている。

エルフに転生だ。

年齢は二十代、いや、エルフは長命な種族とも聞く。

念のために三十代でいくか。

俺は念じた。

力む間もなく俺はエルフに転生していた。

年の程は判然としないが、体格に大きな変化がないことから問題とすべきでないことは分かった。

耳を触る。

尖っている。

手の傷が癒えていた。

嬉しい誤算だ。

さて、エルフになったんだ。魔法を使って脱出しなければ。

とはいえ、エルフは魔法を発動する際に呪文を詠唱していた。

俺はエルフが詠唱していた呪文を思い出す。


万象を形成する理の一角よ、胎動する炎よ、収束し我が敵を射ぬけ 紅蓮砲撃、だったな。


体の中に力を感じる。

これが魔力か。

多分、呪文を詠唱すれば問題なく発動できるだろうが、あの技を閉鎖空間に近い場所で使用するのは心理的抵抗が大きい。

どうするべきか……。

エルフの呪文について考察すると、同列にして別種の魔法が存在すると推測できる。

万象を形成する理の一角。

それが炎。

あくまでも一角な訳だ。

他の形成要素を用いれば、同列別種の魔法が発動できるはずだ。

≪炎≫ということは≪火≫だ。

≪火≫と来れば当然≪水≫≪風≫≪土≫だ。

どれを使うか。

一撃で鉄格子を破壊できない可能性を考慮すると、外にある燭台の炎を消したくない。

≪水≫は却下だ。

≪風≫も炎を消すだろう。

しかし≪土≫に威力があるか?

別の見方をすれば、鉄格子の外にある出口を塞がない魔法が好ましい。

つまり≪火≫と≪土≫は危険だ。

生き埋めになりたくは無い。

≪水≫も危うい。

溺死など、まっぴらごめんだ。

となると、必然的に残るのは……。

≪風≫か……。

詠唱する呪文の内容を同列のそれに置き換える。

紅蓮砲撃。

炎だから紅蓮。

風って何色だ?

まあいい。

やれば分かる。

魔法が発動しなければ順に試していけばいい。

砲撃よりも斬撃の方が好ましい。

我流でやる。

それで無理なら元の呪文を詠唱すればいい。

両手を鉄格子に向けてかざし、俺は息を深く吸い込む。

「万象を形成する理の一角よ、胎動する風よ、収束し我が敵を刻め!


 翠緑斬撃!!!」

両手に風が収束し、鋭利な一振りの剣と化す。

どうするばいいんだ?と困惑していると、風の剣は鉄格子に突撃した。


ズガッッッッ!!!!!!!


ガアン!!!!!!


間近で轟音が響き、とっさに閉じた目を開ける。


これはすごい。

鉄格子は切断され、外の壁に大きな斬撃の痕跡がある。

燭台の一つは切断され床に落ちた。

それでも明かりが失われていないのは他の燭台が無事だからだ。

やはり斬撃にして良かった。

鉄格子の切断にしてもそうだが、砲撃の風が弾けては他の燭台の灯火も消えていたかも知れない。思ったよりも風の剣は圧縮されていたのだ。

俺の詠唱した呪文は元から存在する魔法を発動させたのか。

あるいは俺が新しい魔法を創り出したのか。

まあいい。

俺は鉄格子の檻から外に出る。

なんだかいい気分だ。

自分に強大な力があることを実感する。

いや、愉悦に浸る場合ではない。

魔法の音に気付いたエルフがやってくるはずだ。

あるいは来ないかも知れないが、来るという前提で動くべきだ。

階段を駆け上がり、俺は外に出る。

自由と力の獲得に心を躍らせながら……。


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