異世界で転生しまくりさせまくり!!
@zinyouge-mu
第1話俺、異世界へ……。
俺の名前は翔。とりたてて目立つこともない学生。アラームで目を覚ましたがどうも乗り気にならない。今日はサボって二度寝しよう……。
二度寝は最高だ。いやホントに。
休日の二度寝や祝日の二度寝は時間の浪費だ。
でも、平日の二度寝ほど甘美な誘惑なんてある?ないよね。
他の奴らが時間に追われる中、俺は自由に寝過ごすワケ。
最高だろ?
つうワケで、二度寝します。
目の前が暗くなり、意識がまどろむ……。
ゴワゴワした寝心地と、いやに近く聞こえる鳥のさえずりが俺の眠りを妨げる。
うっすらと目を開けると、強烈な緑が飛び込む。
なんだ?これ?
飛び起きると、なんだ?これ?という疑問が間違いだと気づく。
鬱蒼と生い茂る草花。
高く空を押し上げる木々。
僅かな隙間から差し込む太陽の光。
鳥の歌声と吹きつける爽やかな風。
どこだ?ここ?
まさか俺は捨てられたのか?
それとも死んだのか?
嫌な汗が全身から噴き出す。
もっとも、好い汗なんて何年も流していないが……。
動悸が激しくなり、心臓の音が鳥の鳴き声をかき消す。
「なにをしている、人間」
背後から何者かに声をかけられた。
好意的でない声。
言葉の意味が呑み込めず、声に振り向く。
そしてすぐにその意味を知った。
エルフである。
金色の髪。
金色の眼。
白い肌。
そして鋭い両耳。
ああ、こいつはエルフに間違いないね。
俺の背後に三人のエルフが立っている。
一人は女、二人は男。
三人とも長い金髪から突き出る鋭利な両耳が人ならざる生き物であると物語っていた。
「目が覚めたらここにいたんだけれど」
と俺。
「見え透いた嘘を吐くな。我等の領域に立ち入る不届き者よ、その方を捕縛する」
俺は走り出した。
捕まっては駄目だ。
本能が告げる。
しかし、
「万象を形成する理の一角よ、胎動する炎よ、収束し我が敵を射ぬけ……」
なんか言ってるんですけど。
エルフがなんか詠唱するってヤバくない?
「紅蓮砲撃ッッ!!!」
うん、なにか分らんが背後からやけに眩しい光を感じる。
悪寒がして走る方向を右に逸らすと、間一髪で赤黒い光の玉が先ほどまで進んでいた方角に着弾し、火柱を上げた。
火は広がりもせず、限定された範囲だけを焼き尽くすと自らその姿を消した。
「なにこれ……」
呟くと、
「魔法だ。人間風情には珍しかろうがな」
エルフが答えた。
魔法かよ。
あるんだ。
俺の膝がガクガクと笑っている間に男のエルフに肩を掴まれた。
俺は二人のエルフに拘束され、連れて行かれた。
その二人ってのは勿論、男のエルフ。
どうせなら女にしてよ。
なんて考えている場合じゃない。
「離せよ」
抵抗するも、
「黙れ」
無駄だった。
太くうねる大樹を加工した無数の家々が集落を形成している。
その中心部に白亜の石で建造された巨大な屋敷が聳える。
「人間を捕らえた。議会の招集を申請する」
俺を捕縛したエルフが守衛にそう告げた。
「長老に報告します」
と守衛。
白亜の扉は開き、そこに俺は連れ込まれる。
悟った。
こいつらには話が通じない。
長老とか呼ばれる奴、多分そいつもエルフだろうけど、そいつに直訴するしかない。
どう説明するべきか。
いや、そもそも説明できるほど自分自身で状況を把握できていない。
「あんた達、エルフだよね?」
一応、確認しておかなければ。
「我等が人間に見えるか?」
ギロリと睨まれた。
「まあ、見ようによっては……」
と遠慮がちに返事をする。
「お前の眼は節穴だ」
吐き捨てるようにエルフは言った。
ここは俺の住んでいた世界とは異なるようだ。
いわゆる異世界……。
こんなことなら二度寝などしなければ良かった。
いや、そもそもこれは現実なのか?
夢という可能性も大いにある。
しかし夢でない可能性もある。
夢ならば覚めるのだからどう行動しようが問題ない。
夢ではないという認識で行動すべきだ。
これが現実ならば、失敗した時に取り返しがつかない……。
俺は巨大な円卓と椅子が並ぶ広間に連れて行かれた。
エルフ達が続々と集まりだす。
エルフ達は着席する。
そして残す空席が広間の中央にある荘厳なものだけになった時、コツン、コツンと杖が床を打つ音が響き寄る。
そのエルフは肌が乾燥し、皺が深く刻まれている。
混じりない白髪を後ろに流すそのエルフこそ、この集落の長であることが見て取れた。
周囲のエルフは立ち上がり、彼らの長老の着席を手助けする。
椅子ぐらい自分で座れよ。
俺なんか立ちっ放しだぜ?
長老エルフは俺に一瞥をくれると口を開く。
「ただいまより侵入した人間の処遇についての議会を開く」
白髪を後ろに流した老エルフが厳かに宣言した。
「俺を解放しろ!俺は……」
叫ぶも虚しく俺は猿轡を噛まされ喋れなくなる。
「よいかね?人間。これより始まる会議は我等の領域に侵入した罪人に、いかなる処罰を与えるのか、それを我等が話し合い、決定するために開かれたのだ。
我等とそなたが話し合うために開かれた会議では無い。そしてそのような会議はこれまでもこれからも開かれることなど有りはしないのだ」
長老の言葉に、俺は自分の世界を失ったことを痛感した。今更ながら。
「エルフと人間は相容れない。それが侵入者であれば尚更だ」
「そもそも人間とは他者の領域を侵すものだ。我等エルフが他者の領域を侵すだろうか?」
「処刑すべきだ。生かす利得がない」
「侵入経路と手法を白状させることが先決だ」
「そもそも、この人間は単独犯なのか?」
「今、警備隊が巡回している」
「処刑は報復を呼ぶ」
「逃がせば我等の情報が漏洩する」
議論は終息せず、俺の処遇は保留となった。
俺は地下牢の鉄格子の檻に入れられ、外から鍵をかけられた。
閉じ込められた。
最悪だ。
いや、猿轡は外されたし、手枷も足枷も付けられていない。
ここに打開の余地があるはずだ……。
……と意気込んだものの、鉄格子の内側には何もない。
鉄格子の外側にある燭台の明かりで地下牢が観察できる。
しかし、観察するほど物があるわけではない。
檻の中にはタイルが敷き詰めてある。
そしてそれは広間や廊下とは違い、均一性がない。
規格が統一されていない、このバラバラのタイルならば素手でも剥がせる筈だ。
それになんの意味があるのだろうか?という思いが頭をもたげたが、今できることはそれ以外になにもない。
鉄格子を壊すことができるとすれば、それは素手ではなくタイルのほうが僅かながら可能性が高いはずだ。
今は藁の細切れにでも縋るしかない。
どれぐらい時間が経過しただろうか?
指から血が滲み、心は折れかけていた。
もうやめようかな……。
きっと夢だよ、これは。
俺は夢を見ているに過ぎない。
目を閉じれば、ほら……。
拳を強く握った。
擦り傷の痛みで感覚に鋭敏さが戻る。
今、諦めるわけにはいかない……。
夢ならばここで作業を続けても問題ない。
たとえ手抜きであったとしても、タイルを剥がすという滑稽な作業を放棄するわけには行かない。
立ち上がり、かかとで目当てのタイルを踏みつける。
一度、二度、三度。
靴がずれているだけなのか、タイルが動き出した気がする。
繰り返しタイルを踏みつける。
何度タイルを踏みつけただろう?
タイルとタイルに顕著な隙間が生じた。
そこに右手の指を四本差し込み、その上から左手を被せて後ろへ全体重をかける。
剥がれろ、剥がれろ、剥がれろ。
剥がれろ!剥がれろ!剥がれろ!
バキッッ。
乾いた音が小さく響き、一枚のタイルが剥がれた。
俺は泣いた。
かつてないほど、自分史上最高に泣いた。
達成感と負の感情がない交ぜになり、とめどなく泣いた。
涙なのか、鼻水なのか、液体が俺の顔から滴り落ち、タイルの剥がれた部分へと付着した。
すると。
キラッ。
なにかが光った。
俺の涙か鼻水、この際、涙でいいや。
涙が付着し、鉄格子の外から入る蝋燭の炎が増幅された。
タイルの下には、土が敷き詰めてある。
その中に何かを見つけた……。
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