第38話 思わぬ来訪者 02
唐突に、そんな底なしに明るい声が、道場内に響いた。
その声の先にいた人物。
褐色の肌に、胸元と腰元しか隠していない露出の高い服。しかしながら顔は幼く、恰好との不釣り合いさを感じさせていた。
そしてその少女の腰には、大きく湾曲した剣が左右に一つずつ掛かっていた。
その少女は、昨日に開けられた道場の壁から堂々たる様で入ってくると、中央できょろきょろと周囲を見回しながらぴょんぴょんと跳ねる。
「あれれー? 誰も来ていないにゃん? ってことはあたしがいっちばーん! にゃははははは!」
「誰だお前!? 道場に土足で入ってきて……」
途端に素振りをしていた門下生の中でも一番年上であろう男性が怒号を上げる。
少女は不思議そうな顔で首を傾げる。
「にゃ? 君がこの道場主にゃん?」
「いや、俺は」
「んじゃ――挨拶しなきゃにゃ!」
――次の瞬間。
「がはっ!」
先に声を上げて注意した男性が、地面に引っ繰り返っていた。
その腹には、褐色の少女が差していた剣の一つが押し付けられていた。
――逆刃で。
「あれれー? こんなに弱いのかにゃー? 聞いてたこととは違うにゃー。あの目を閉じた人と同じくらいって聞いていたのににゃあ」
何が起こったのか。
それが見えたのは二人だけだった。
ムサシとユズリハ。
だから二人は動いていた。
ユズリハは門下生を助けに入ろうと。
ムサシはそのユズリハの前に入ってそれを止めようと。
「……セイちゃん。どいて」
「どくよ。だけどその前に一つだけ聞かせてくれ」
「なに?」
短い確認の言葉に、ムサシも端的に問う。
「大丈夫か?」
「木刀だけで問題ないわ」
「そうか」
その言葉を聞くと同時に、ムサシは一歩身体を横にずらす。
それは肯定の合図だった。
「にゃっ!?」
――刹那。
褐色の少女はその場を飛び退く。
代わりにその位置にいたのは、木刀を手にしたユズリハだった。
「大丈夫、ゴトウ君?」
「先生……」
「先生!? ということはあんたが道場主かにゃん!?」
「ええ、そうよ」
左手で男性を起こしながら、右手に持った木刀の剣先を褐色の少女に向ける。
「あおぞら道場の主は私、ユズリハよ」
「ユズリハ! お前がかにゃ!?」
心底驚いた顔をしている褐色の少女。
というよりも、その名を聞いたことがあるような反応であった。
「ということはめっちゃ強いってことにゃん!?」
「……誰がそんなことを言ったのよ?」
「えっとね、ハーロ――ああ、これ言っちゃ駄目だったにゃ! あぶにゃいあぶにゃい」
「ねえ……今、何て言おうとしたの?」
「んー、知らないにゃ知らないにゃ。まあ、どうせもうすぐ分かるんじゃないのかにゃ?」
にしし、と褐色の少女は笑う。
「あ、でもあたしの方が早く着いたってことはあいつ、迷ってんじゃないかにゃ? あ、でもあいつ方向音痴だし、今頃は形振り構わずに聞きまわっているんじゃないかにゃあ?」
「……っ!」
ユズリハがハッとした表情になる。
そして彼女は鋭い声を投げる。
――ムサシに。
「セイちゃん! お願い!」
「いいのか?」
「私は道場主。ここに残らなきゃいけない。放り出すわけにいかないわ」
それに、とユズリハは片目を短く開閉する。
「セイちゃんなら安心して任せられる」
「あい、分かった」
頷きを一つ見せると、ムサシは、じゃらん、と音を鳴らして大きく空いた道場の所から外へと、あっという間に姿を消した。
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