第16話 聖剣の使い『足』 07

 鎖で繋がれた剣。


 それを足に繋ぎ振り回す。

 確かに手は出していない。

 全て足のみで処理しているのだから。


「やってくれるねえ……」


 弾き飛ばされた剣を手に取って、青年は恨めしそうに彼を見た。


「まさか足にそんな特殊なおもちゃを隠していたとはね。油断していたよ」

「おもちゃじゃないんだけどねえ」


 無精ひげの男は頬を掻きながらも、足元を持ち上げて剣を見せつける。

 青年は顔を歪ませる。


「……威力だけはおもちゃじゃねえけどな。どういう仕組みだ、それ」

「さあねえ。俺にも分かっていないのよ」

「はあ?」

「でもさあ」


 にんまりと。

 無精ひげの男は笑って見せた。


「そういうのを持っているのが――『』って言うんじゃないのかなあ?」


「……っ! 意味分かんねえよ!」


 青年の苛立ちが大きくなる。

 彼にとってみれば、相手の男は先程から「お前は偽物だ」と言っているようなものなのだから。


「因みに本物の聖剣には名なんてないよ。知識不足だったねえ」

「知るか! てめえの偽物の知識なんて誰が知るもんかあああああ!」


 ついに青年の堪忍袋の緒が切れたようだ。

 彼は一目散に無精ひげの男に斬りかかった。


「――怒りは攻撃を単純にさせるねえ」


 ガキン!! と再び鈍い音が響いた。

 先の攻撃は無精ひげの男の方から仕掛けたので、当然、剣の勢いも彼の方が上であったはずだ。加えて、鎖の先に繋がれた剣というだけあって、その遠心力なども加えられて威力を出していたのだと推察できる。

 つまりは、受け側に回った際にその威力を減衰させることは出来ないだろうということが容易に想像できる。

 通常に剣を構えているのとは違い、剣を支えるモノが無いのだから。


 ――だが。


「なん……だと……?」


 青年が驚くのも無理はない。

 彼が振り降ろした剣。

 避けられたわけでも、ましてや弾かれたわけでもなかった。


 受け止められていた。


「やっぱり使い手自体は大したことないねえ」


 鎖に繋がれている剣は、まるで無精ひげの男の足の延長線上のように、ぴったりとその足にくっついていた。


「どういう理屈だよ……それ……」

「だから詳しいことは俺にも分からないってば。……ほいっ」


 キン、という甲高い金属音と共に、青年の剣が再び宙を舞う。

 くるくると舞った剣は、無精ひげの男の手へと――


「あ、重い」



 ――カランカラン。



 青年の剣は無精ひげの男の手に一度は握られたがすぐに零れ落ちて道場内に乾いた音を奏でた。


「……」


 冷たい空気が場を支配する。

 その中心人物となっていた無精ひげの男は、照れ笑いを浮かべながら頭を掻いた。


「いやあ、やっぱりおっちゃん、箸より重い物持てないわあ」

「……ふ、ざ、る、な、よおおおおおおおおおおお!」


 青年の怒りが頂点に達したのは誰の目で見ても明らかだった。彼は足元に転がる剣を凄まじい速さで取りに向かう。


「だから怒りは動きを単純にさせるって言ったばっかりなんだけどなあ」



 シャリン、という音が鳴ったのをアカネは聞いた。

 そこからの電光石火の展開が繰り広げられたのを、彼女はしかとその双眸で見ていた。



 無精ひげの男は振り上げていた足を降ろし、真横から弧を描くように足に付いていた剣を蹴り出す。

 剣は青年の身体へと向かうが、彼は咄嗟に身体を捻ってかわす。

 しかし、その剣には普通の剣とは違う特徴がある。

 ――鎖が付いているという特徴が。

 無精ひげの男が足を引いたと同時に、鎖がピンと張られる。


「なっ……!?」


 その鎖は取りに向かった青年の足に引っ掛かる。

 躓いた形で前のめりになる青年。


 その開いていた背中に向かって――無精ひげの男の左足が振り降ろされた。


「がは……っ!!」


 青年の身体が床に当たって跳ね戻るほどの勢いで叩きつけられた。

 そして青年はそのまま、ぐったりと動かなくなった。

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