第13話 聖剣の使い『足』 04
◆とある茶屋
一方。
外出していたユズリハはとある茶屋にて一人の男と会っていた。先程に声を掛けられていたのだが、荷物を持っていたが故に待っていてもらった人物であった。
その男は煌めくような綺麗な髪と長い
彼には大きな特徴が二つあった。
一つはかなり細身の刀を腰に携えているということだ。鞘を見てもかなり細い。
そしてもう一つ。
彼は全く目を開けていないのだ。目の前にユズリハという美女がいるのにも関わらず。
「久しぶりね。元気していた?」
「元気ですよ。このように姿を見せていることが証拠になると思います」
「相変わらずね、その固い口調も」
「昔からの口癖ですからね。直す必要もないですしこのままでずっといますよ。……そういうユズリハは大分柔らかい雰囲気になりましたね」
「……目を閉じたままでも分かるの?」
「ええ。十分に」
はあ、と溜め息をつくユズリハ。
「そんなに今の私って違う?」
「違いますね。昔に比べて落ち着きが増えましたね。また、美しさも増えています」
「あらあら。そういうお世辞は言えるのね」
言われ慣れているのか、軽くあしらう。
「そういえばここには一人で来たの? イサちゃんの立場だと護衛とか付いていそうだと思うのだけど」
「毎回、そんなものは付けていませんよ」
だって、と青年はたおやかに微笑む。
「護衛対象よりも弱い護衛が必要だと思いますか?」
「そうね。むしろ護衛の方が守られる立場になるわね」
「そういうことです」
頷いて青年はお茶を飲む。
合わせてユズリハも同じように飲む。
一息ついた所で、再びユズリハが話題を切り出す。
「ねえ、イサちゃんが今日ここに来たのは偶然?」
「はい? 偶然、とは何でしょう?」
「世界を巡回しているイサちゃんと会えるだけでも珍しいのに、同じくふらふらと世界を彷徨っている人も同時に会うだなんて」
「世界を彷徨っている……まさか?」
「その通り。セイちゃんよ」
「あの方が……」
青年は目を丸くする。
「生きておられたのか……今は何処に居られるのですか?」
「今は私の家にいるわ」
「そうですか。この時期にここにいるとは……いや、だからこそなのかもしれませんね……」
「え? 何のこと?」
今度はユズリハが目を丸くする番であった。
「まさか……セイちゃん関係で何かあったの?」
「……あまり騒がないでくださいね」
人差し指を口元に当て、眉間に皺を寄せて青年は告げる。
「最近ですが『魔物』の数が増えてきているようです」
「……『魔物』が?」
魔物。
人を襲う、人ならざる獣。
その姿は千差万別であるが、四足歩行の小型獣の姿が最も多い個体となっている。
通常の獣などと魔物の分別は簡単である。
――真っ黒。
形状は獣ではあるが何もかもが真っ黒なのである。
しかしながら『剣戟収攬の戦い』の少し前から魔物の姿はかなり減少し、そのあと数年は人が魔物に襲われたという報告はごくわずかしかなかった。
「『魔物』が増えているってことは……」
「ええ――あの人も動いている可能性が高いです」
「あの人が……ってことは」
ユズリハはハッとする。
「まさかセイちゃんに……」
「……まあ、彼はあの人のことを好き過ぎますからね」
でもまあ、とそこで青年は再び茶を喉に通す。
「その可能性は低いですよ。まだ彼が動いているという確証もなければ、目撃情報もないですから」
「ああ……だから私に会いに来たのね。ちょっかい掛けるとしたら私達の誰かの可能性も高いから」
「そういうことです。ですが、杞憂だったようですね」
ホッとしました――と青年は微笑むが、すぐに困り顔になる。
「ですが……あの人はそれとは関係なく、色々と厄介事を引きこんできますからね。今のあの人にとって大丈夫でしょうか?」
「えーっとね……多分、大丈夫じゃないかな」
ユズリハは小さく息を吐く。
「イサちゃんに会いにここに来る時にね、セイちゃんも誘ったの。だけどセイちゃんは断って『会いたいなら会いに来い』って言ってきたの。つまり――いつものように嫌な予感がしたんだと思う」
「ユズリハの家で何かが起こる、ってことですか?」
「そう。だから私と一緒にあの場を離れることが出来ない、ってことなんだと思う。――勘でしかないけれどね」
「だったら、何をゆっくりしているんです!? ユズリハの家が襲われるってことじゃないですか!」
青年は立ち上がって彼女に問う。
だが彼女はゆったりと茶を口に運ぶ。
「落ち着いて、イサちゃん。むしろゆっくりしなくちゃいけないのだと思うのよ」
「どうしてそんなことを……」
「だってもし本当に私も残っていた方がいいならば、彼はそう言うはずだもの。でもそういうことを言わずにイサちゃんと会うことに反対をしなかったということは、そういうことなのよ。ついでにイサちゃんを出来れば連れてきてほしい、ということなのでしょうね」
「そんなこと……いや、あの人はそういう人でしたね」
青年は肩を竦める。
「でも信じているのですね、彼のことを」
「まあ、そうよね。……もしかすると今も昔も盲目的に信じちゃっているのかもね。あれから色々なことが変わっているのにね。だけどそれでもね、セイちゃんならば何とかしてくれるって思うのよ」
だからこそ――と彼女は茶を置き、空を見上げる。
「この際だからついでにアカちゃん――妹の修練に使わせてもらおうという腹積もりなのよ。この私では――本当は剣士じゃない私では出来ない、本物の剣士の戦いというのを、しかとこの眼で見て感じ取ってほしいのよ」
「でも、妹さんが危険な目に……」
「そんな目には合わないと思っているわ」
もう一度、彼女は告げる。
はっきりと、自分の意思を――信頼感を言葉にする。
「だってあの場にいるのは――セイちゃんなんだから」
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