第12話窮困(決して・・・)Part4


 グラデュエルのシステムについて改めてここで軽く触れたい。

グラデュエルとは一言で言えば、決闘による進級試験だ。勝てば進級、負ければ落第。まあ学校としては少々厳しめだが、普通の学校では点さえ取れれば進級できるだろう。

 ここのシステムが鬼なのは、卒業のためにクラスメイトからボタンを奪い合わなくてはならず、さらに肝となるソウルボタンを失ったらグラデュエルへの参加資格が失われてしまう。グラデュエル初期の敗北は退学を意味する。まさにデスゲームなのだ。

 そして最大の特徴であるが、グラデュエルは『想像力』で闘う。想像により自分の武具を構築し、精神強度によりその硬さを確たるものにさせる。それを可能にするのが、アームズクリーチャーと呼ばれるボタン型の武具で、ソウルボタンがその中核を成している。

 アームズは、千年前天誅として人間を滅ぼすべく顕れた、幻獣たちの骸から作られる。それぞれがその幻獣に対応していて、怒竜の炳頭:ドラゴン・ヘッド、禰午の浮翅:デビル・ウイング、把蟲の編手:ワーム・アームズ、浬魔の帝尾:リヴァイア・テイル、空麗の黒爪:グリフォン・クロー、剛人の伏拳:ゴーレム・フィスト、奇目の豊体:キメラ・ボディの七種がベースとなる。といっても例外はあり、神の力に近いタイプの神聖、円世の天輪:エンゼル・リングがそれに当たる。

 といってもペーペーの学生たちにすぐアームズクリーチャーが遣えるわけはなく、補助を必要とする。強い武具を想像する方が強いのは当然だが、創造して確立するとなると難易度はハネ上がる。ヒトエ先生曰く、「それがあると信じられないと具現化できない」。そのため、形状に名前を付けて呼び出しやすくし、このとき学生は”承認”を必要とする。裁量者に名前と形状と能力をある程度結びつけてもらうのだ。そしてそれを行うものこそ、最強の裁量者にしてこの世界の支配者、最高大君主シムラだ。

 科学文明が崩壊し、神の物質、宇留久遠:ウルクオンにより想像が現実になり、夢が花開く反面悪夢が世界に影を落としている。この世界でウルクオンを遣えるのは裁量者のみ。その裁量者となるための学校がここリュケイオンであり、グラデュエルだ。


「愛しい人よ、君のためにも手加減はしないよ。把蟲の編手:ワーム・アームズ、銃型:ガンモード」

 キールの手に光が集まり、20世紀に流行ったようなリボルバー銃が形成され、即座に六発の弾丸が放たれる!!

「う、やるしかねえようね!怒竜の刃牙:ドラゴン・ファング!」

  俺は言葉遣いを乱しながら、ダガーを構える。この2年俺も自分の技を磨いてこなかったわけじゃない。

「ふ!」

 ダガーに半ば誘導される形で刀身を傾けると、弾丸を刃が迎え撃つ。間合いに入ってきたものは刀身に委ねることでいくらか迎撃する事ができる。意志を持った俺の家族、今はアームズとなってしまったミニドラゴンのミーンのおかげだ。これが他の形態を呼び出せず、ひたすらダガーで鍛え続けた俺の強み!

「アーッ!」

 弾丸をすべて切り落とし終える!

「次はどうかな?把蟲の編手:ワーム・アームズ、爆刑:ボムモード」

「ナッ!」

 キールの手に野球ボールほどの爆弾が次々と生成されていく!そして、

「これの連続投擲可能数は50だ。大丈夫、死にはしない威力だよ」

「ええいクソオオオ!!!」

 なりふり構わず、ひたすらにダガーを振るう。そしてキールが投げる!

 最初の一つは、避ける。そして二つ目は、切り落としてヨソの方へ跳ね返す。三個目をミーンが斬って迎撃するが、

「アアアア!」

 爆発の余波で砂利が飛び、俺にダメージがくる。こ、これは・・・!

 ッハ!?

 気づくと、三個の爆弾がこちらに向かってきて・・・。


「ハアハア、ハアハア、ハア、ハア、ハ、・・・・・・」

 なんとか攻撃を全部受けきったが、15個ほど間接ダメージをもらい、体が疲労している。

「やるね、トマコ。君のその果敢さを目の当たりにしたら、世界中の英雄が君を褒め讃えるだろう。なら接近戦はどうかな?把蟲の編手:ワーム・アームズ、剣系:ソードモード」

  今度はキール自身の手首から先が諸刃の剣、それも切るタイプでなく打ち砕くタイプに変身する。まだ遠くから距離を取り、切り替え鮮やかなアームズ遣いを見ていると、一瞬で間合いを詰められる!

「なっ!」

 コイツ、足元で爆弾を爆発させて自分自身を撃ち出しやがった!なんて機転だ!!

「んうう!」

  情けない声が出てしまったが、顕現させていたダガーで迎え撃つ!助かった、ミーン!

「ああ、かわいい小鳥よ、君の鳴く声は戦場で聞かすにはあまりに頼りなく、あまりにもったいない。君は君が大好きな物に囲まれて、穏やかに暮らすべきだ」

 キールがもう一本の剣を顕現させる。

「スピリチュアルな戯言は一人で言っていなさい、球根ヤロー!

私には私の叶えたい夢がある!少しお前の言葉に戸惑いはしましたけども、それでも、今この瞬間だけは、あの時の俺を、ミーンを取り戻すと決意したあの日を信じる!!」


  俺はダガーでキールを押し返す!


 な、なんだこの気持ちは…!?

 頭の中に、言葉が浮かんでくる!この感覚は、あの時の・・・!


「怒竜の背止: ドラゴン・シールド!!」


 ガッ「ガッ」キィィィィィン


 キールの剣二つが、堅い何かにぶつかって静止する。


 ***


少し遠く、凄く近い所では……

「いいわ、承認してあげる。

あなたのウルクオンはとても特殊だけれど、ウルクオンが人の心に応じるのは変わらないもの。

そもそも、”あの”アームズを二年だかで遣いこなそうとするのがどうかしてるわ」


 ***


  一瞬忌々しい光景と幻聴が浮かんだか、視界が乱れる。そしてすぐに左手にしっかりした重みを感じる。見やると、竜の背中の鱗をかたどったような、それでいて小さく機動性のある盾があった。これは・・・。


「トマコ!やればできるじゃない!ソウルボタン一つでも、複数のアームズを展開できる!」

 ノアが声援を送ってくれる。そうか、これが俺の・・・。

「新しい力だァァァァ!」

 試合中というのも忘れ、俺は雄叫び(雌叫び?)をあげる。

「ほう、ソウルボタンの駆動率が上がることで、他のボタンも連動して起動するのか・・・もともと全体で動くように設計されている?このタイプは、俺もあまり見たことがない」

「おめでとう、トマコ」

 ヒトエ先生とユートがそれぞれ言葉をくれる。

「いやあ、どもども」

 そしてありがとな、ミーン!

 ”ミー!だZOY”刀身が応えてくれた、気がする。ZOY?


「さあ、トマコが一歩進んだところで、残念ながら試合はまだ終わってない。

 お互い悔いの残らぬよう、全力を出せ!」

 ヒトエ先生が再び開戦の合図をする。そうだ、まだ終わってない。

「ねえトマコ。僕は一見優位に見えるが、把蟲の編手:ワーム・アームズはそろそろ変態疲労限界だ。武具の形成はあと一回だろう。一撃で行こう」

 キールがこちらをまっすぐ見据えて言ってくる。

「ああ、いいぜキール。俺も正直限界だ。一撃決闘だ!」

「やはり君は面白い女性だ、トマコ。じゃあ、」

「ああ」


「「いっせーのっ!!!!」」


 俺は渾身の勢いでダガーを振りかぶる!

 対してキールは・・・。


「把蟲の編手の輪具:ワーム・アームズ・リング。これが僕のの気持ちだ。受け取って、トマコ!」


「お前アホちゃうかああああああああ!!」


 金色に輝く結婚指輪を差し出して片膝をついていた。

 当然、ミーンダガー(今考えた)が直撃して真っ二つ・・・!

 

 にならない?


 ガン!と嫌な鈍い音がしてミーンダガーが防がれる。

「ごめんね、トマコ。この指輪を冗談でも受け取ってくれたなら、君を傷つけずにすんだのに・・・。僕は本気を出すよ」

 嫌な予感がしてざっと退く。なんだこの悪寒は!?

 と思ったら、二つあった指輪を両手に着けたキールがこちらを見ている。まさかあの指輪に防がれたのか!?

「ほほう。一回戦で第二フェイズまで行くやつがいるとはな」

「第二フェイズ!?」

「ああ、アームズも遣い馴れると、ボタンという形に囚われなくなる。

 そしてイメージしやすい形になり、そこに今までの能力すべてが集約される。

 俗に”武器フェイズ”というんだ」

 ってことは、今までの技が総括されるのか!!?

「ごめんね、トマコ。把蟲の編手:ワームアームズは多様性を司るアームズであり、最も扱いやすいものの一つだ。だから今までのモードを僕は瞬時に形成できる」

 と、いつの間にかあいつの手から先の爆弾が続々と零れ落ちる。

「そしてこれのモチーフは蟲。するとどうなると思う?」

 零れ落ちた爆弾はまるで卵のように蠢き、表面にヒビが入る。

「蟲となって命を持つんだ」

 羽の生えた昆虫が一斉に生まれ出る!

「この蟲たち一匹一匹が爆弾であり、命を以て君に襲い掛かる。

 この指輪はそれの生成装置でありコントローラーだ」

 そしてキールは腕を振ったかと思うと、クワガタムシの顎のような巨大なハサミを顕現させる。

「こうやって同時並行で機能を遣うこともできる。もう一度言うよ、トマコ。


 降伏してくれ、戦力差は歴然だ。

 僕は君を幸福にするよ」


「そんなんで、ひけっかよ!」

「うん。僕の信じる君はそう言うだろう。では続きは医務室かな?じゃあね、トマコ」

 キールの合図で、爆弾蟲が一斉に襲い掛かる。

 俺は、ただ盾を構えるだけだ。


 激しい爆音と粉塵が舞う。

 ダダダダダッ!ダダダダダッ!ダダダダダッ!ダダダダダッ!ダダダダダッ!ダダダダダッ!ダダダダダッ!ダダダダダッ!ダダダダダッ!ダダダダダッ!


「おうい、トマコ。生きているかい?それとも死んでしまったかい?

 安心していい、グラデュエルで死んでも試合前の状態に戻れる。

 ・・・。

 返事がない、か。

 ヒトエ教諭、試合の終了を」

「いいや、それはまだ早いみたいだぞ」

「!!」


「その通りだ、キール!」


 煙が明けていき、視界がクリアになる。

「そんな、あの数とあの威力を受け止めるなんて!」

「俺も不思議なんだが、どうもこの盾お前の攻撃をすべて喰ってくれたらしい」

「まさか、いいやそんなバカな!!」

 単純に理解できないという顔でうろたえるキール。なんだよ、キール。いつも毅然とした態度で要求ばかりしてきたけど、うろたえたり人間的で可愛いところあるじゃねえか。

「教えてやるぜ。ミーンは食いしん坊なんだ!!

 そして・・・」

 言われなくても、考えなくても、わかる。感じる。

 ミーンがたくさん食べた後、何をしたいのかを。

 ずっと一緒だった、唯一の家族の癖を。

「げっぷ代わりに火を吐く!!」

 刀身が、爆弾蟲のエネルギーを食べて大きくなる。

そして熱を帯び、炎をまとい、周りの空気を乾燥させる。


「風辣の刃牙:ブラスト・ファング!!!」


 熱斬撃は、キールを丸ごと飲み込み、リングを破壊する。

 

「勝者、トマコ!」


 ヒトエ先生が高らかに宣言する。

 

 

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