第11話 窮困(決して求婚ではない。あってほしくない)Part3


「アタシの相手は、お前かキール」

「そのようだね、トマコ。

これは悲劇か、それとも喜劇か…」

「うん?どういうこと?」

「トマコ、今日この星この時代この日この時間に僕と君が会ったのには理由があるんだ」

 「この星からこの日」までいる?何を考えているんだ?


「トマコ、僕が君に勝ったら結婚してほしい」


「は」


 バカなこと言ってんじゃねえよと言おうとしたが、口が動かない。は?こいつ今なんて?


「結婚しよう、トマコ」


「う、う、う、ううううるせぇ!

いきなり求婚とか、キモいんだよっ」

  俺は走って逃げる。この気持ちは、感じちゃいけない気持ち。こんな気持ちを感じるなんて、キモい、キモい、キモい。

そんな、男のはずのこの俺が、


求婚されてときめいているなんて…


***


 最高にキモい思い(主に自分に対して)をしてから一週間。俺は気持ちの整理もできず、グラデュエル当日を迎えていた。

「大丈夫、トマコ!トマコなら生き残れる!ノアそう思うよ」

「で、でも〜。あ、 相手、相手が……」

「いつまで求婚されたことを悩んでいるんだい、トマコ。

キールが好きなら、喜べばいい。嫌いなら、怒ればいい。簡単な問題だ」

「もう、ユート!貴方みたいに割り切れる人ばかりじゃないの!ノア怒るよ!」

「やめて、2人とも、私のために争わないで…」

 まるでヒロインのようなことを口走る俺。

 ああ、もう最悪。キールのことは、友人として、好きだ。そして俺は男。断ろうと思っている。だが、キールが俺を男と知ったらどう思う?裏切られた、そう思うだろう。そして、悪魔の質問が俺の頭をもたげる。もし俺が女であることを選んだら、俺は求婚に対してどう返答していたのだろう。俺がここに来た目的は、男に戻ることとミーンを復活させること。だが、学園内ではミーンは間違いなく生きている。そして俺は女であることに慣れてしまい、女であることを喜び受け入れ始めてしまった俺がいる。

 この考えがずっと、ずっとずっと離れない。俺は、なぜここにいる?


「さあトマコ、残念ながら試合開始だ。僕とノアはすでにステファンとジェイコブを倒した。次は君の番だ」

「トマコ、相手と戦うことだけに集中して。緊張がなくなるとアームズも硬度を保てないし、緊張しすぎると脆くなるから。余計なことを考えても、今は解決しないよ。トマコだって、叶えたい夢があるんでしょう。負けないで。ノア応援するよ」

「あ、ああ……あー」

「もー!本当に戦えるの!?」

「さしづめキールを意識しすぎて手につかな状態だね。ここは一つショック療法だ」

「へ?」


「トマコ、もし君が負けたら、君の秘密をバラす」


「!!?」

「ちょ、ユート!それはいらなんでもあんまりじゃ」

「さあてね。どうせ負けたら学苑にいられないんだ。

だったら秘密をバラしたところで困るのは数日。そこからは幸せで仕合せな死合わせの日々さ。嘆くことはないだろう」


「え、あ、え、え、」

 コイツ、俺の秘密を!?

「さあトマコ、見せてくれ、君の可能性を」

  俺はユートに押し出され、闘技場に放り出された。


***


「これよりグラデュエル第一回戦、キール対トマコを開始する!ではまず救命札に署名を!」


  直径500mほどの闘技場の中心で、ヒトエ先生が呼び立てる。

 救命札。見るのは初めてだが、何でも名前の書いたやつの命を決められた時間まで補償するらしい。科学を追いやった宇留久遠を使い、どんなに体がボロボロになっても、名前を書いた瞬間の体と命と 精神を再現できる。

ああ、説明してるどころじゃないのに!


「やあ、僕の太陽、ご機嫌いかがかな?」

「あ、ああ」

「おいおい、グラデュエルは何でもありだが、試合前に口説くやつは初めてだぞ。まあいい。人には人の事情があり情事がある。


 デュエル開始ィィィィ!!!」


 開戦の火蓋が、切って落とされた


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