第6話 開校(決して邂逅ではない)

  俺、トーマ。しかし今は謎の美魔女(本人談)のせいでトマコ(女)になってしまった、元・少年。

俺は元の体に戻るため、唯一の家族であるミニドラゴンのミーンを元に戻すため、科学が潰えて千年経ったこの第二神話時代、学苑・リュケイオンにやってきた。

 ここを卒業すると、想像を現実にできる力を得る。ただし卒業には級友を倒し卒業の証・ソウルボタンを七つ集めなくてはならない。ソウルボタンとは即ちアームズクリーチャーであり、想像力によって威力・形が変化する”夢の武具”である。

 俺のアームズはもちろん、ミーンの宿る怒竜の炳頭:ドラゴン・ヘッド。卒業のため、男に戻るため、なにより愛するミーンのため、俺はこの気の違えた激乱の渦中へ飛び込む!!


「なに気持ち悪い顔してにやけてるの?トマコ?」

 天使のような笑顔で無邪気に残酷な真実を告げる、ノア。さっき会った女生徒で、窮地を救ってもらい、あまつさえ制服の準備、入学式への道案内など、至れり尽くせり。こういうのを、昔の慣用句で「狩芸:ギャルゲーの主人公の親友」って言うらしい。由来は知らないし、本来男に使われる言葉で、ノアは女だけど。

 俺たち(私たち)はそのまま意気投合し、隣り合って座るに至る。


 ついに式が始まる。

 壇上に先生が次々登り、自己紹介していく。

最後に、校長のヒトエ先生が挨拶に上る。

「やあ、新入生諸君!

 私はヒトエ。君たち生徒全員の先生であり校長だ。

 君たちは学苑リュケイオンの学生になった。ここから二年間はいわゆる普通のことを学び、最後の一年間でグラデュエルを執り行う!

 七つのソウルボタンを集めるのが卒業要件だ。無論闘わないで集める方法はいくらでもある。例えば、ノーマルボタンを覚醒させること。これを六回やって計七つのボタンを集めるものもいた。だがおすすめはしない。一つのボタンを覚醒させるのには裁量者が上手くやって一年くらいかかる。それをすべて行うのは至難の業だろう。それに結局一体のクリーチャーしか遣えない。

 となるとやはり闘って奪うのが常套手段だ。残酷なようだが各学苑で合計3万人の生徒が入学し、卒業できるのは全部で2百人。それも全世界で2百人だ。

 君たちの目指す世界は美しい。だからこそ残酷なのだ。

 まあ失敗しても契約者になるかコロニーの外に出るかは選べる。死ぬわけではないから安心し給え。

ッハッハッハッハッハッハ!」

 屈強な体と快活な笑い。校長をしているのに見た目は三十代くらいの、リーダーシップの塊のような人間だった。

 


 続いて登壇するのは、生徒。

 制服からして新入生だろう。

「あれ、入学時点で二つのソウルボタンを持ってる、ユートくんだって」

「二つ!?でもソウルへの覚醒は難しいんじゃ・・・」

「それだから彼が学年トップとして登壇してるんだよ」

 この時点でこの開き・・・。

 うかうかしていられねえや。


 その彼、ユートが登壇して挨拶する。

 ビジュアルもルックスも見た目もいい、くどいほどに三拍子そろったイケメンだった。

 それでいて口跡は明瞭、聞く人を飽きさせない変化に富んだしゃべり方。

 あまつさえ言葉遣いからにじみ出る教養の凄さ。

 フツーに好青年だった。


 でも何だろう、なにか違和感を感じる。まるで、擬態しているかのような・・・。

 スピーチ終了、キャー!!と黄色い声援が聞こえてくる。

 入学式で声援集めるヤツ初めて見たよ。俺なんて昔くじ引きで無理やり登壇させられて・・・いや、この話はすまい。

「みなさん、ありがとう!」

 さわやかな声が放たれる。ほんといい声してんなー。


「ああ、闖入者よー!!!]

 どこからか女の悲鳴が上がる!あ、さっき俺を襲おうとした奴らだ!

「籠念生(決して留年生ではない)だね。

 卒業要件を満たせず、それでいて負けるのが怖くてグラデュエルに参加することから遠ざかり、居場所を失ってしまった者たち。

 リュケイオンにはボタンを失わない限り退学はないけれど、その分居座って抜け出せない人も多い。

 彼らはその最たるものだね」

 隣から、自分が生きているのが恥ずかしくなるくらいピュアな声が聞こえる。ノア、お前やはり解説キャラだったのか・・・。

「喰らえクソイケメン!超級の伏拳:スーパー・フィスト!!」

 とりあえず強そうな拳が放たれる!

「お前のせいで俺たちは卒業できねーんだ!禍呪の把蟲:カース・ワーム!!」

 どちらかというと毒々しい色の蟲が襲い掛かる!

「太ってモテなかった俺の青春を返せ!降忍の豊体:プレス・ボディ!!」

 力士未満中肉以上の巨体が降りかかる!


 完全にとばっちりな理由だった。お前ら・・・。


「おや、いけませんね。早くすりつぶさないと」

 それなりに強力な攻撃(怨念で増強されている!)に対し、彼は平然と、片手を掲げる。

「禰午の盈字:デビル・エッジ」 

 すると、彼の爪が伸び、銀色の刃となって変幻自在に展開する。

 そして刃となったそれは、敵を、切り刻む。

「「「ああああああああああああああああああ」」」

 三人が悲鳴をあげる。血しぶきが飛交う。それでいて彼の爪は文字を刻み込むことをやめない。体中に字の傷が満たされていく。え、えげつねえ・・・。

 例のユート君を見ると、どこか悲しいが、毅然とした態度をとらなくては!というような顔をしている。・・・。いや、少し、笑っている?

 たっぷり籠念生(決して留年生ではない)を刻んだユート。会場はシーンと静まり返っている。そりゃそうだよな、急にあんなもの見せられたんじゃ・・・。


 ワアアアアアアと、歓声が爆発した。


「さすが次期生徒会長!」

「闖入者なんか打ったおせ!!」

 やんややんやの大合唱。そうか、ここはリュケイオン。普通のところとは文化が違うんだ。

 ユートは演技っぽく大降りにお辞儀すると、静かに壇を降りた。あれ、今度はむしろイラついてる?

「ねえトマコ、外でよう。

 ノア、こんなところにいたくない」

 なんとなく落胆していると、ノアに袖を引っ張られる。

「お、おう・・・?。!ええ、そうだ・・・わ、ね」

 カタコトの女言葉で応じる。

 あれを見て気分が良くならなかったのは、俺だけじゃなかったようだ。



「オオウ・・・」

 クラス発表。

 いいニュースから。

 ノアと一緒のクラス!

 わるいニュース。

 ユートと同じクラス。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る