第2話 昔話改

 二つの影が、山をなでるように飛んでいく。

 森は晴れやかな空の下青々と輝いており、小鳥たちは軽快にハミングしている。

 そこには生命があふれていた。

 二つの影はお互いに合わせ示しあい、阿吽の呼吸で空を飛ぶ。

 どうも二人は若い男女で、それぞれ拵えた翼で飛んでいた。

 影が山の頂点を超えた。


「すまない、遅れた!」

 影の一つが仲間に切羽詰まった声をかける。

「かまうな!敵の幻獣は半分は片付いた!”穴”に誰かが行きつけば、世界を救える!

 行くぞ!!」

 先ほどの青天とは打って変わり、曇天に雷鳴がひしめく。

 地上は炎の海となり、あらゆる生命が死に合っている。

 掛け声に応じ、おびただしい数の、一つ目の鬼たちが、こちらに向かって殺意を構える。

「「「ドゥアアアアアアアア!!!!」」」

「覚悟は、いいか?」

「もちろんよ!」

 さきの二つの影は、今度は鬼たちを滅ぼしにかかる。


 竜が空を飛び、卵を空中に産む。次の瞬間、卵はとてつもない速さと動きで空中に散開し飛び回る。孵化と同時に燃え始め、赤子たちは火の玉となりながら人間にぶつかっていく。

 それを冷静に竜を模した巨大な剣で断ち切る男がいる一方、彼の仲間は地上の鬼に捕らえられ、串刺しにされている。

 むせび泣き恐怖におののく彼に、鬼たちは容赦はしない。

 しかし数秒後には、男の体を内側から巨大なワームが食い破り、鬼たちを食べていく。




 千年前には、そんな光景があったらしい。

 第二神話時代。俺たちの生まれた今はそう呼ばれている。


 科学が頂点に達した21世紀、人間はある都市で、禁忌と言われた神の世界へ行くことに成功した。

 ほんの好奇心。科学者たちは少し見たら帰るつもりだった。

 かつて月面に行ったときのように、ほんの少しだけ世界のカケラを持ち帰って・・・。

 神と月が違ったのは、相互的か一方通行かだ。


 持ち帰ったカケラは帰りたがり、世界に穴を開け、神の世界の逆流が起きた。

 一度開いた穴はふさがらず、科学文明を神の世界が飲み込み、その都市は神の世界の粒子で”浄化”された。

 神の粒子、宇流久遠(ウルクオン)の発見。

 これは人の心に応じて現実を変える、というまさに想像の物質で、

 エネルギーを無限に生み出すことも、

 けが人が失った手足を取り戻すことも、

 ありあまる食料供給も、可能だった。

 人類のエネルギー、資源、貧富、格差問題は思わぬ神の祝福で全て片付いた。

 都市にはひっきりなしに人が集まり、人類は救済された、はずだった。


 ありあまる富を得ても、それがみんな持っているものでは意味がない。

 人々の欲はとどまることを知らず、争いはますます激化した。

 神は天罰を下した。


 倒しても倒しても朽ちない、神の遣い、幻獣の召喚。

 人びとは都市を放棄し、散り散りになって逃げ惑った。

 しかし都市からはとめどなくウルクオンが流れ続け、幻獣たちが強くなる一方である。


 人類は神罰で滅ぶ、かにみえた。

 人類の一部はウルクオンを用いて、幻獣を倒し始めた。

 神の産物は、神の力で滅すことができたのだ。

 そして戦士たちは幻獣の亡骸を用い、さらなる武具を開発、やっと幻獣と互角に戦えるようになった。

 人類と幻獣たちは激しく闘い、都市ごと神の世界を封じ込めようとした。

 が、結局うまくいかなかった。


 今や場所すら忘れられた都市は”夢幻の彼方”と呼ばれ、伝説の存在だ。

 人間とはしぶといもので、ウルクオンの薄いところにコロニーを形成し、ウルクオンを扱える者が治めることで、完全な社会を作った。

 その頂点を最高大君主シムラといい、曰く「不完全な自由と引き換えに完全の幸福を」

 人類の9割以上がこれに賛同した。彼らは契約者と呼ばれた。

 コロニーの中では、確率までもが操れるため、契約者たちは、平等で合理的な文化を営んでいった。ただし発展からは取り残された。

 残り1割はどうなったかというと、自由を選んだ。

 特に、初期から幻獣と闘った一族の子孫たちは、自分たちの意志でウルクオンを遣うことを好み、社会とは少し離れたところで生活していた。

 といってもウルクオンとは危険なもので、簡単に渡して自由にしていいものではない。

 そこで、15歳になった少年少女は”学苑”への入学権利を得、卒業することでウルクオンを遣う権利を得る。卒業条件は、決闘に勝つこと。かつて彼らの祖先が遣っていた、幻獣の亡骸で作った武具、アームズクリーチャーを遣いこなし、闘う。そしてそれを奪い合い、七つ集めた者のみが卒業できた。

 卒業を達成しウルクオンを遣いこなす者たちを裁量者と呼び、そうならんとする学徒たちを、卒業を懸けて闘うものたちとして、こう呼んだ。

 卒業決闘士グラデュエイターと。

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