第3話 相棒

 俺の家は。

 学苑を卒業して行方知れずになった両親が、コロニーの外側に置いていった牧場を営んでいた。

 そして俺は資金の問題から、学苑に行けないでいた・・・。

「ああー、あいつら、ホントにおいてきやがった・・・」

 俺は今日、本来なら学苑の入学ガイダンスを受けているはずが、牧場のお守をしていた。

 同世代一部のエリートたちは入学に胸躍らせているのだろう。

 「あー今頃、同級生は入学の手続きしてるんだろうなー」

 通常中学校を卒業するまでは無償だが、学苑に行こうとなると金がかかり、それは到底牧場暮らしに賄えるものではなかった。

 ボーとしていると、ミーミーという愛らしい鳴き声が聞こえる。

「おう、ミーン。お前だけだよ、分かってくれるのは」

 言っとくと、このミーン、猫とかではなく、幻獣である。

 例の幻獣の一種であるドラゴンの赤ん坊で、なぜか俺によくなついている。危険はなく、癒しだ。

 ただ、いまだその体の仕組みは謎だが。

「お?ミーン、今日顔色悪いぞ?飯くうか?」

 そのミーンも、今日はなんだかやつれていた。

 ミー・・・と消え入るような声で鳴き、目は虚ろ。

「ミーン・・・?」

「これはまずいわね」

「うおっと!?」

 急に至近距離から声がしたかと思うと、ローブを深く被った女が、アイスクリームを食いながら横から覗き込んでいた。

 顔は良く見えないが、唇の質と声の艶と顎の線から、なんかすごく美人だろうと思う。

「まずいって?」

「このアイスクリームは絶品よ。おいしい。この牧場はいい仕事してるわ」

「あいや、そっちじゃなくて。

 いや知らない間に金払って勝手に食ってるそっちもきになるけどこっちの・・・」

「ああ、ごめんなさい、こっちね。

 この子、今日が峠だわ」

「え」

 ミーンが、死ぬ?幼いころ拾ってから今まで一緒に暮らしてきたミーン。小さいミーン。

 それは、俺にとって胸をえぐられたような衝撃だった。

 ミーンのいない生活なんて、ありえない。

 考えたく、ない。

「ど、どうすれば!」

 俺は隣のローブ姿の女の肩を、激しく揺さぶる。

「んあ、えっと、うん、その子はドラゴン、えん、だから、んあ、普通の、うにゅ、方法じゃあ、あう、助からない」

「そ、そんな・・・」

 揺れながら答える女を放し、膝を打って手をつく。そんな。

「話は最後まで、聞きなさい。

 方法は、あるわ」

「ど、どんな方法だ!!

 教えてくれ、頼む!なんでもするから!!」

「そうね、じゃあ・・・」


 一時間後、女は十本くらいのソフトアイスクリームを抱えて帰って行った。

 帰り際に名前を聞くと、すんなり教えてくれたが、普段は「美魔女」と名乗っているらしい。 女は、金属のボタンを残した。

 そう、方法とは、ミーンをアームズクリーチャーにすること。

 ミーンだったものは、今俺の手の中で六つのボタンと一つの煌めく第二ボタンと

なっている。

 今はもう話すことも息することもないが、生きている、という実感だけで俺は十分だった。

 そして奇しくも、俺は学苑への入学権利を得てしまった。

 そう、アームズクリーチャーは変幻自在のツールにもなるため、非常に高額なのだ。

 それにしても、アームズを作れるなんて、あの女、一体何者だったんだ?

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