グラ・デュエル

@Motoki_Sho

第1話改 イントロ

  俺は誰?

 ここはどこ?

 辺りは一面の、砂漠。キンキンと太陽に照らされている。喉が渇くし、目がヒリヒリする。

ぶわあと風が吹くと、より熱い空気に触れて息苦しい。

 少なくともここは見知った土地じゃない。ええと、頭がぐわんぐわんする。この灼熱の大地もそうだが、なにかさっき大きな衝撃を受けて頭が揺れているらしい。

 衝撃?

 俺はふと自分の体を触ってみる。うん、大丈夫だ。けがはしていない。幸い出血もしていない。ただし二つ、不可解なことが分かった。

一つ。俺は前留めボタンの服を着ており、この暑い砂漠で長袖を着ている。それも一般的には冬服と呼ばれる奴を。

 通りで熱いわけだ。袖をまくる。

そして致命的な問題が一つ。俺は女の体をしている。別にフェミニストに喧嘩を売るわけではないが、「俺」と自称する女は違和感がある。特に自分自身というのなら。そして思い返すと、男子便所の便器が思い浮かぶ。

 そうか!俺はもともと男だったんだ!

 女の体だと由うのに、なぜ「俺」だったのか、得心が行った。まあ、なんで女になってるかは知らんけど。

 いやあしかし。

「暑い・・・・・・。短パンがいいな・・・・・・・」

 ふと、実家の箪笥にしまったパジャマを思い浮かべる。

「涼しい風・・・・・・半裸で軒に寝そべりたい・・・・・・水が飲みたい」

 目を閉じて夏のあのひとときを思い浮かべる。ああ、なつかしい。

 うん?

 さっきよりもなんだか開放的だ。

 目を開けると、涼風に揺れる風鈴付きの日本家屋が建っている。、冷えた麦茶がお勝手に置いてある。

そして自分の上半身を触ると、なれない柔らかさが少しだけ押し返してくる。うえ、結構大きいな。

 さらによく触ると、どうも上半身裸の下着姿になっているらしい。そして下はさっき思い出していた短パン。

 うん。

「想像が現実になってるーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!?↑→↓←」


 麦茶を飲んで小休止。十分くらいだろうか。

 涼みながら確認したが、やはり周りに人影はない。

 腰に手をやると、本来短パンにはついてなかったものがついてた。

 装飾のこった七つのボタン。そのうちの四つが色付きで、一つは煌めきを放っている。

 ミーン?

 え、ミーンてなんだ?でもなんか思い出した。

 というかさっきよりも煌めきが増し、怒っているように思う。

 なんだ、名前を忘れたの怒ってるのか?

 というか煌々がすごく出てるんだけど!

 煌々が一本の線になるので、その筋を目線で辿る。お!人影!

 ああ、救われた。この世界に、俺は一人ではなかった。

「おうい」と手を大きく振って呼びかける。自分の女声に違和感を抱きながら。

 あっちも、手をあげて応答する。よし!気づいてくれた。

 満面の笑みで諸手をあげて呼びたてる。

「おおうい!こっ」ッドオン。

 数メートル横の砂山が吹き飛んだ。え?

 ッドオン!

 今度は日本家屋の屋根がぶっ壊れ、崩れ落ちる。ああ、俺のオアシスが!

 俺今攻撃されてる!?

 ダンダンダンダンダン!!!!!

 突如の砲撃で俺は狙い撃たれる。あわててよける。なんだなんだ!突然の敵意が、俺を余計に混乱させる。

 さっきの人影を見やると、より近いところに居る。あれは・・・・・・金髪の女の子?

 そしてその子は口をいっぱいに開き、持っている槍を掲げて叫んだ。

「浬魔の泳撫:リヴァイア・ウェーブ!!!」

 突如砂漠に津波が!!!

 俺は走って直撃をまぬかれる。おかげでびしょ濡れになるだけで済んだ。

 さっきの日本家屋は残骸ごと流され、そして大量の水とともに砂漠の底へ沈んでいった。恐ッ!

 同時に、さっき思い出せなかったことがまさに津波のごとく頭に押し寄せた。

 俺は学生だ。

 そして危ない危ない、今は決闘中。

 俺は卒業と同時に『自由』が保障される学苑、リュケイオンの第三学年に在籍していて、部活は園芸部、交友関係ボチボチといったところだ。そうだ俺は温厚で平凡な人間だ。

「ちょっと!ボサっとしてんじゃないわよ!!」

 慌てて後ろに跳躍する!

 俺がさっきまで居たところに、鈍い音を轟かせ鋭い槍が突き刺さる。

 さっき砲撃したり波を巻き起こしたりした彼女がそこに居た。

 金髪のツインテール。勝気そうな目の端をつり上げ、ぷんすかもう!と怒っている。胸は・・・・・・見立てだと俺が勝ってる。

「てかアンタなんて恰好してんのよ!?このさばきゅ、砂漠で!肌が痛んじゃうじゃない!」

 ツッコむとこそこか、と思いながら少し安堵する。どうも本気で俺を殺すとかは思ってないらしい。

「あー、すまん。さっき急に短パンになったんだけど、どうやって学ランに戻すんだっけ?」

「ハァ?アンタアホちゃうか?そんなのアームズ遣えばすぐじゃないの」

「どうやって使うんだっけ・・・・・・?」

「んもう!念じるだけよ!ホラこんな風に!帝尾の射槍:テイル・ジャベリン」

 言うと、彼女の腕にもう一本槍が現れる。痛そう。

「ええと、”学生服”」

 さっきの煌々が体全身に周り、光の塊になったかと思うと、見事さっきまでの服が構築されていた。

「よっしサンキュ!じゃあ俺はこれで・・・・・・」

「ちょっと!アタシとアンタ試合中よ!!?」

「おいおい、タイムタイム!今いいとこなんだ!」

「ハァ?アンタ違えた?グラデュエルに何言ってんの?」

 そう、俺はグラデュエルの最中だ。思い出してきた!リュケイオン名物のイベントで、学生同士が互いの武具を用いて闘う。

 なんで闘ってるか?ええと。

「そんなんで、不意打ちで勝ってそちゅ、あ噛んだ卒業しても嬉しくないわよ!!」

 ドジっ子属性とツンデレ属性を披露しながら、相手が答えてくれた。

 グラデュエルとは、卒業を懸けているのだ。卒業のためには、グラデュエルで6つ以上、相手一人づつからボタンを勝ち取らなくてはいけない。

 勝ち取れなかったり、失ってしまうと退学となり、復学できない。かといって入学時にソウルボタン1つ、通常ボタンが6つ与えられるので、そこまで心配はない。

通常ボタンを何とか覚醒させれば、復帰できる。

「もお!こっち向きなさいよお!黒爪の派剣:クロー・ハーケン!!」」

 俺はまたも跳ねると、ビスビスッ!と後ろの壁にワイヤー付き飛び爪が刺さる。

 壁?ああそうか、ここはコロシアムの中。

 場が砂漠に設定されているせいで分からなかったが、よく目を凝らせば競技場の壁が見える。

 そうだそうだここは作られた砂漠だ。

 あの子を見やると、あまりにも俺の考え事が長かったせいか、相手、あ思い出した名前はサチが、涙目になっている。

「ああ、すまんすまんサチ。さっきの衝撃で頭揺れて、記憶飛んだからちょっと思い出してたんだ」

「はあ、はあ、やっとこっち向いた・・・。

 ってなんで追い詰めてるアタシが下手になってんのよ!もお、帝尾の渦砲:テイル・キャノン!!」

 実際ピンチ。

 俺はさっきのダメージもさることながら、知らぬ間に壁面に追い詰められていた。

 サチが名前を呼ぶと、サチの左腕を光の粒子が包み、中世ヨーロッパの騎士が持ってそうな、大きな円錐の槍が構築されていく。

 まずいのは、さらにそこにらせん状の排熱溝が彫られ、先端が高出力ビーム兵器になっているところだ。

 そう、グラデュエルの特徴は、もう一つある。

 グラデュエルで懸けられるボタンは、粒子収納された武具となっており、こうやって名前を呼ぶことで起動、さらに威力や耐久性は精神力に依存するという、

 まあ、平たく言えば、

「アタシの想いの大きさを喰らって敗北なさい!トーマ!」

 そう、想いの大きい方が強い、という夢のようなトンデモ武具なのだ。

 あ、俺トーマ。

「ちょっとやべえな。炳頭の刃牙:ヘッド・ファング!」

 俺もそろそろやばくなってきたので、自分のアームズに呼びかける。

 言うと、俺の右腕には竜の鱗のような金属のガントレットと、牙を模したダガーが形成される。

 これらのことはアームズクリーチャーと言い、幻獣を模したものとなっている。

 その幻獣や体のパーツからイメージを膨らませて、武具を形成するというわけだ。

 ちなみに俺のは怒竜の炳頭:ドラゴン・ヘッド。

「あー!またヨソ向いた!!もう許してやんない、アタシの浬魔の帝尾:リヴァイア・テイルの餌食にして、空麗の黒爪:グリフォン・クローでボタン取ってやる!!

 黒爪の安枷:クロー・アンカー!!」

 サチの腰、足、槍から固定用のアンカーが地面に打ち出される。

 ご丁寧に説明いただいたが、アームズにも複数種類があり、サチみたいに勝ち進んでいくと、奪ったアームズの能力も使えるようになる。

 て。

「あのーサチさん?私の見間違いでなければあなた体の固定用にアンカー打ちました?

 おっかしいな、戦艦破壊級の武器でもない限り、そんなことしなくてもいいんじゃ」

「なんだ、分かってるじゃない。今からアンタに至近距離で戦艦破壊級の想い打ち込んであげるから、覚悟しなさい?」

 恐れをなし、後ろの壁の上にいる人たちは我先にと階段を駆け上がり避難していく。

 おいおいおいおい!

「それっじゃ、いっくわよー!!浬魔の帝尾の渦砲、超級:リヴァイア・テイル・キャノン=シュプリーム!!」

 やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい!!

 今の装備じゃ防ぎきれない!!

 神様、一番いいのを頼むよお!!

 俺の嘆きは、閃光と爆音で書き消えた・・・・・・。


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