第2話「悪役令嬢は転生する」

注意:リアルとは全く関係がございません。

―――――――――――――――――

 あかりの高校近くの喫茶店【森】でコーヒー飲む邪神様。

 昼過ぎまでに決済を終え、気儘にショッピングを楽しんみ、今お寛ぎ中である。


カランカラン

 軽い音を立てて扉が開かれる。

 そして金髪の青年が呼吸を乱しながら入ってきた。青年は邪神様を見つけてため息をついていた。何とも失礼な事である。


「やるべき最低限だけやって逃げ出した上司が、コーヒー片手に平和な顔をしているのを見つけたらだれでも呆れます」

 魔王は席に着くと『いつものお願いします』と常連風に振舞う。

 邪神は知っている。

 10数度にかけて『これをいつも頼みますので』とこの店の従業員に宣伝しまくったことを。自発的に覚えて頂いたわけではなく魔王の努力の賜物であることを。


「魔王お疲れ」

 魔王の前に置かれたのは、いつも通りショートケーキとコーヒーである。

 コーヒーを前に魔王は思い切りミルクを垂らし砂糖を入れる。


「ふふふふ」

 ブラックコーヒーを堪能する邪神は邪な笑みを漏らす。


「タブレットで何の動画見てるんですか?」

 不気味な笑顔に引きつつ、空気を読んだ魔王は邪神がテーブルの上に立てかけているタブレットをのぞき込んだ。


「国会中継」

 魔王のテンション急降下である。

 背もたれに体重を預け団扇をパタパタ仰ぎながら全力で、脱力する。


「邪神様も悪趣味ですね。なんでそんな【不毛にも】同じことを繰り返している中継などを……」

 THE一般人の感覚を持つという類稀ない能力(スキル)を有する魔王の意見である。


「いやさ、ほらこのやり取りどっかで見た事ね?」

 言われて魔王はタブレットをのぞき込む。

 ……長かったので大まかに搔い摘むとこうだった。


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野党『このような内部文書が告発されているのです! 政府は不正に友人を優遇していたのではないのか!』

与党『その文章については把握してないです。が、その件につきましては各省庁が合議で決めた正式文書があり。そちらにはそのような文言は存在しないです』

野党『でも文書はあるんです。やってない事を説明していない! ちゃんとやっていない証明をしなさい!』

与党『普通は不正だと言うほうが正当性のある証拠を提示するものです。貴方が言っているのは悪魔の証明です。まずは不正がある事をきちんと証明してください。まずはその【自称】関係者が書いた内部文書という承認履歴のない文書から証明していただきたい』

野党『内部文書で正当なものです! 貴方は内部告発者の善意を信じられないのか! それよりも疑惑に対して説明責任があります! 首相! 説明してください! 首相!』

=======


「どうだった?」

「ぶっちゃけていいですか?」

「許す」

「最大級の時間の無駄でした」

 その回答に邪神は爆笑する。


「やったね! 大当たり! 大正解だ」

 楽しそうにケタケタ笑う邪神様。むっとした魔王に邪神様は衝撃の事実を言う。


「俺はかれこれ1時間見てるが、何にも状況は変化しないwww」

 くだらないと息を吐き出す魔王に邪神様は続ける。


「でもさ、これってさ。恋愛神の趣味とかで【あの世界の設定に合わせた内容】のゲームをやり込んだ少女達を転生させた【あれ】にそっくりじゃない?」

「…………あー、あれですか?」

「そうそう、お前が魔王就任前に人間の国で王様やってた時に起きたあれ」

「てか、あれ恋愛神の趣味だったんですね。趣味わっる! そして何気に詳しい所を見るとあんたも一枚かんでたな!」

 ギクリと音を立てたように固まる邪神様。

 魔王は知らない。ゲームのエンディングロールに『原作:邪神さま』とでかでかと出てくる事を。一部乙女ゲーマーに伝説と語られる邪神さま先生である。柔らかく繊細な描写から女性シナリオライターであること以外すべてが謎の人物である。


「………詐欺だ」

 魔王はスマホ片手にゲームのウィキからその事実を発見し、そして邪神サイトを覗く。未だ定期的にゲーム制作に参加しているらしくファンも多い様子。


「俺の信者たちは皆忠誠心凄いぞー」

「その前に、この性別詐称はなんですか?」

 邪神は魔王の質問をスルーして店員さんを呼びパフェを注文する。


「………誤魔化すために追加注文とか…卑怯な」

「でねでね! この中継を 野党→ヒロイン&王子様、与党→悪役令嬢、総理→王様で変換してみてみ」

 魔王は渋々脳内変換しながらタブレットを見る。


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野党『ここに不正に関する質問をします!』

王子『この場において婚約破棄を宣言する!』

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 魔王の脳内で……納得できないが、正しく変換された。


 王子2名を残して早くに亡くなった王の身代わりとして、人間の友人に頼まれ『王子達が成人するまで国を統治していた』頃の記憶を、魔王は思い出していた。


 歴代魔王に乗っ取り国を富まし、人々を幸せにすることに粉骨砕身していたあの頃。長男が16歳となり本格的に国王としての教育を始めたあの頃。

 国主催のパーティーの席であった。

 長男とその婚約者が問題を起こす。

 長男の婚約者……。美人で気立ても良く、権力の動きにも機敏に反応するまさに才色兼備揃った美女。そう悪役令嬢たる、公爵家の長女だ。

 公爵は先代の国王の弟であり、先代国王死去時、『既に高齢であり執務に耐えられない』という建前で、『遅くにできた娘を溺愛したい!!』という欲求から友人である魔族、つまり魔王を頼り、王の死を無かったことにした張本人である。

 王子が無礼を働けば、簡単に打ち首にできるだけの権力基盤を持った稀代の政治家、公爵。要約すると『危ない人』、そして公爵令嬢はその愛娘である。


 さてその前提で見てみよう。()の中身は当時の魔王の心境だ。


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野党『不正の責任を取り辞任頂きたい!』

王子『公爵令嬢の目に余る愚行と、殺人未遂まで起こした王族にあるまじき振る舞いに責任を取ってもらおう!』

(えーーーーーーーーーーーーーーーーーーー! まって、公爵の青筋がやばい! 気付け息子よ! うしろ! うしろ!)

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 魔王は甘ったるいコーヒーを飲み込む、温かく体にしみわたる甘さに心の平穏を求める。


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与党大臣『不正とは何でしょうか? そもそもその不正を立証する証拠はお持ちでしょうか』

公爵令嬢『はて? 何のことでしょうか? 私心当たりがございません』

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野党『この内部文書を見てもしらを切られるのでしょうか! 告発してくれた善良な職員(決めつけ)を信じられないとでもいうのでしょうか!(大臣ではなくカメラ目線)』

王子『男爵令嬢がそう言っておるのだ! それ以上の証拠はあるまい(決めつけ)! あの純情な娘が嘘を突くとでも思うか? 皆もそう思うであろう!(空気の読めないアピール)』

(息子! うしろ! うしろ! 公爵の目の色が変わったよ! あと、皆が目をそらして引いてるのにも気付いて! ぷりーーーず!)

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 あの時の公爵の視線を思い出して思わず震える魔王。

 コーヒーで体を温めたい。切実に……。


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野党『この様な疑惑を抱かれる事自体! 国民に申し訳ないと思わないのですか?』

男爵令嬢『きゃっ、怖い。王子様。公爵令嬢様ににらまれました。恐ろしいですわ。私また公爵令嬢様に階段から落とされるかと思うと……』

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 そうだ国会を消し飛ばそう。現実逃避する魔王。


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野次『そうだ! そうだ! 国民に説明する義務があるぞ!!』

王子『貴様! 我が未来の妃の男爵令嬢への嫉妬から起こしてしまった事に、謝罪すらできんのか! 貴族としての義務はどこにやった!!』

(大臣、用はないけど話をしよう。うん。公爵のレーザービームが怖い)

=======


 魔王はあの時、あの場で次男を探したがそこに次男はいなかった。

 その時次男は街に赴いており、お小遣で始めた麺系のチェーン店の第3号店のオープニングセレモニーに出ていた。もう王を継ぐ気なんて欠片も無い。その為、パーティーには影武者を送り込んでいたのだ。


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野党『意図が無くても忖度させたのは、確かです! これは権力の乱用があったのではないでしょうか?(相手じゃなくテレビカメラ見てます)』

男爵令嬢『私、公爵令嬢様のお友達にも色々されておりまして………皆様口をそろえて公爵令嬢様のご意志と言われ。私では贖えませんでした。つらい日々でした……(庇護欲を周囲に誘う視線)』


野次『そうだ! そうだ! 国民に申し訳ないと思わないのか!』

王子『公爵令嬢! 貴様前から思っていたがその冷血な顔の裏でそんな汚い悪事に手を染めていたのか! 汚い! お前なぞ王妃にふさわしくない!』


与党『ですから、ない事には何も言えません。そもそも、不正や権力の乱用があったことを証明してください。公式記録である書類にはそのような記述が一切ないのですよ?』

公爵『王よ、こやつ打ち首でよいな。あと、そこな男爵家は男爵令嬢の前で最大限に苦しませて殺す。誰に逆らったのか存分に思い知るがいい』

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(ああ、あの後面倒だったな。その場で王子の拷問始めちゃうし。王家の権威失墜して調子に乗った貴族が傲慢になったり、やりすぎ貴族を端から1家1家虱潰しにして領地召し上げで天領にしなきゃだったし。何よりあの後公爵令嬢に幻術魔法解かれた挙句『幼き頃よりお慕い申し上げておりました』とか言われて血涙を流す公爵に『責任。とるよな?』とか脅されたし。結局彼女と再婚したし。あと、次男を説得するの大変だった……。俺も会社立ち上げて思ったけど、あの時の次男良く戻ってきてくれたよなー。あいついいやつだったよ。イケメンだったし)

 タブレットを邪神に返すと、魔王はそこにもう一人座っているのに気が付いた。

 あかりと同じ制服で流れるよな艶のある美しい黒髪に、楚々とした雰囲気を纏ったお嬢様。そして年の割に出るところ出ている美人さんである。

 魔王と目が合うとニコリとほほ笑む。その姿は実に堂に入っていた。


「あなた。お久しぶりね」

 魔王はゆっくり立ち上がる。邪神は未だパフェを食べている。


「魔王。高校生は条例違反だから気を付けるように。やったら逮☆捕、だぞ♪」

「うわーん! 社長のバカー! 歩いて帰ってくればいいんだ―!」

 駆け出した魔王に誰も追いつけない。


 …


 宣言通り邪神を街に置き去りにして宿に戻った魔王は玄関でうろうろとしていた。『やっぱり置き去りは可哀そうだったな……』とか反省しながら。


「ただいまー(邪神)」

「ただいまー(灯)」

「お邪魔します(元公爵令嬢)」

 固まる魔王と事情をメールで連絡され、先ほどから動画撮影している勇者正。

 前世結ばれた2人は劇的な再会を果たしたのだった!!

 ・・・

 ・・

 ・


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