おまけ■五月三十日(土) 望 2
「考えてみたら、施設で未成年が酒飲むわけに行かないもんね、気づかなくてごめん」
林田の母が、近所のコンビニで烏龍茶とコーラの二リットルボトルをかごに入れながら、いたずらっぽく笑った。
「他にほしい飲み物ある? 遠慮せずに言ってよ。メッツとか?」
「あ、メッツ好きっす」
「お菓子もあった方がいいよね。ポテチとチョコとビスケット、あとほしいのある?」
「……これいいっすか?」
「ねじり揚げ、おいしいよね! 入れて入れて。他に何かある? ……今回のこととは別でも、何か困ったこととかない?」
林田の母の言葉に、望はつい口を開いた。
「……彼女が、今度両親と一緒に焼肉行こうって」
その言葉に、林田の母は少し考えて、それから笑った。
「望は態度いいから、無理に大人っぽい言葉遣いしようとかしないで、丁寧語さえ使えばいい。あと、できないことはできない、無理なことは無理、やりたいことはやりたいって素直に言えばいいと思う。それで望のことが気に入らないって奴は、向こうが嫌な奴だから気にしなくていい」
「向こうが嫌な奴……」
その発想はなかった。望が目をぱちくりさせると、林田の母は、望の肩をぽんぽんと叩いて笑った。
「何か嫌なことがあったらうちの仕事場おいでよ。茶くらいなら出すし、時間が合えばご飯くらいおごるよ」
「幼稚園、だっけ?」
「保育園。無認可だからアパートでやってる。もし子供好きなら手伝ってくれたらバイト代出すよ」
「マジっすか!」
思わず大きな声を出した望に、林田の母はにっこり笑った。
「マジマジ。子供って意外とお兄ちゃん好きなんだよね。でもこの業界、女の子が多いから、お兄ちゃん来ると子供達大喜びだよ」
「彼女も子供好きなんすよ」
「二人でバイト来てくれてもいいけど、子供の前でいちゃいちゃしたら殴るよ」
「しませんよー」
気が付くと、林田の母は他にもいろいろつまみやお菓子をかごに入れていた。「他にほしいものない?」と望に確認してからレジに並ぶ。
「もし彼女だけバイト探してるっていうなら一度連れてきてよ。よさそうな子なら条件の相談してバイトしてもらいたいよ」
「マジっすか」
「うん、うちにバイトで来てくれてるお母さんたち、ちょうど学校が終わるころに家に帰っちゃうのね。そのあとの時間が、学童の代わりに来てる小学生もいるし、けっこう大変なことが多いから、その時間来てくれる子がいると助かる」
「じゃあ、彼女が行くって言ったら連れて行きます!」
「ムリしなくていいよ。もし彼女がやる気あるなら、さっき教えたLINEででも連絡ちょうだい」
「ありがとうございます!」
望が言ったとき、レジの順番が来た。林田の母親が電子マネーで支払う。
「ま、とりあえずは美佐ちゃんの偲ぶ会ね。……バイトでも他の用事でも、気楽に連絡ちょうだい」
林田の母が笑った。
望の両親は生きているが、二人とも行方不明だ。望は小学校に入る前に山麓園に来たので、その前の記憶がない。
……こんな人がお母さんだったらよかったなぁ。
ふっと望はそんなことを思った。
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