おまけ■五月三十日(土) 望 1

 山麓園の集会所。そこで美佐の偲ぶ会が行われることになった。望と博之が、美佐に紹介されたことのある友達に連絡したところ、十人ほどが集まってくれる運びになっている。本来山麓園の集会所を使うときは使用料が必要だが、山麓園出身者の偲ぶ会ということで、今回は無料で使わせてもらえることになった。


 そのとき、紫のワゴン車が山麓園の駐車場に入ってきた。


「林田さん!!」


 望が車に走り寄った。隼人たちを迎えに来たりするときは母親が出てくる関係で、すっかり望とも仲良くなったのだ。


 望の後ろから、博之が顔を出す。


 ワゴン車から、林田の母が降りてきた。相変わらずの金髪を後ろで束ねたエプロン姿。今日は水色のエプロンにジャージだ。


「ちーっす。西尾から差し入れ。アルコールOKって話だって聞いて、瓶ビール十本。で、うちと日下部家から、こっちのオードブルと酎ハイ六本差し入れ。山麓園の集会所もタダで貸してくれるって言うし、これで会費取らずに偲ぶ会やれるだろ? さすがにこれで足りない分は自分たちで出して」


「うわぁ、ありがとうございます!」


 博之が思わず大きな声を出す。そんな博之の肩をバンバンと叩いて、それから林田の母はふっと優しい表情になった。


「美佐ちゃんだっけ、まだ若いのにね。覚えておいてあげるのが一番の供養だよ。……あたしも若い頃はムチャして、死んじゃった友達もいたからさぁ。絶対あんたたちは死んじゃダメだよ」


「えっと、ごめんなさい。俺、会ったことないっすよね。誰のお母さん……?」


 今頃気づいたように博之が言う。林田の母はにっこり笑う。


「林田隼人って、ここに金曜日まで泊まってた高校生がいたんだよ。……あれ、第一発見者だからすれ違ってるんじゃない?」


「ああ、あのときにお嬢さんと一緒にいた高校生の男」


 言ってから、不思議そうに博之は林田の母を見た。それを見て望がおずおずと口をはさむ。


「博之さん、……林田さんのとこ、お母さんと子どもと、印象が全然違う」


「そうだよな。お嬢さんと一緒にいた男って、ザ優等生って感じだったよな」


「ええっ、あたしだって優等生だったかもしれないじゃん!」


「……ヤンキー界の?」


 望が思わず呟く。


 それを聞いて、林田の母がけたけた笑い出した。望の肩をバンバン叩く。


「うまいね! 確かにあたしヤンキー界の優等生だよ。……運んで運んで。オードブル、酒のつまみしかないんだけど、甘いのほしい? お酒飲めない子もいるんだったら、そこのコンビニでウーロン茶とお菓子買うのどっちか付き合ってくれる?」


「あ、じゃあ俺行きます」


 望が答えた。


「じゃあ俺は、差し入れもらったの、配置しとく!」


 博之が元気に答えた。


「助手席乗ってよ。そこのコンビニ行こう」


 言って運転席に乗ろうとして、それから気づいたように、林田の母は博之を見た。


「バイトは続けられるの?」


「はい、また明日からシフト入ってって言われました!」


「よかったじゃん! ……西尾も言ってると思うけど、マルチやるんだったらあたしらは何も手伝わないけど、普通に真面目にやるんだったら、仕事なくなったらバイト紹介できるかもしれないし、何かあったら声かけて!」


「ありがとうございます!」


「じゃ、望、行こうか」


 林田の母が運転席に乗って、車を発進させた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る