■五月十七日(日) 隼人 2

「まさか隼人絡みで呼び出されるとは思わなかったわ」


 母親が部屋を出た途端、笑いながら言う。


「……俺だって、呼び出されるようなことをするつもりはなかった」


「デート商法に引っかかった奴が言ったって説得力ないね」


 隼人の言い訳に母親が鼻で笑った時だった。


 歩いていた廊下脇のドアが開いた。


「おっと。……広子か」


 出てきたのは西尾だった。潤の父親。隼人も小さい頃から知っている。


 西尾は黒いジャケットを着ていて、中も黒いシャツだ。黒い髪はぼさぼさで、少し疲れた表情をしている。


「どうしたの、こんなところで」


 隼人の母親の問いに、西尾は困ったように笑って肩をすくめた。


「おまえと一緒だよ。もっともこっちは返してもらえなかったがな」


「誰? 潤じゃないよね?」


 母親が隼人の代わりに訊いてくれた。西尾は軽く肩をすくめる。


 ちなみに潤は第一子長男なので、さすがに小学生の息子や中学生の娘の件で警察に呼び出されることは考えづらい。潤も真面目だが、潤の弟と妹も、ひょうきんな性格ながら悪いことをする子たちではない。


 西尾は小さく笑う。


「潤にそんな度胸はないだろう。……ひょんなことから知り合ったのが、身元引受人いないってんで、俺にお鉢が回ってきたんだよ。数回しか会ってない以上、俺が性格的な、何てーの『こいつがこんなことできるわけがありません』なんて言えないから、そいつの弁護してくれる格安弁護士紹介するしかない感じ」


「あれ、もしかして金髪のにいちゃん」


 隼人が呟くと、西尾が驚いたような表情で隼人を見た。それから確認するように母親を見る。


「もしかして、現場にいたのって」


「こいつ。デート商法に乗せられて、ひょいひょいついてってこのザマよ」


 母親の言葉に、西尾は真剣な表情になった。


「ちょっと隼人、借りていいか?」


「いいけど、何? 弁護士紹介して終わりじゃないの?」


 母親が軽く訊く。


「年はすごい離れてるけど、俺の高校の後輩……つまり隼人の同級生なんだけど、その子に俺、約束しちゃったんだよ。何かあったらそいつの兄貴分守ってやるって。その兄貴分が捕まった以上、約束守るためには俺が動かざるを得ないってわけだよ」


 西尾の言葉に、母親は破顔した。


「相変わらずいい奴じゃん」


「いい奴じゃねえよ。……じゃあ隼人借りるぞ」


 照れ隠しのように乱暴に言って、西尾は隼人の肩をたたいた。

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