第4話 開戦前夜

祖父の死から半年後、俺は摂政政治を始めた。


上皇の祖父、女帝の母に俺のステータスを見せ、俺の前世を教えたのだ。

そんな折、15歳(見た目は)の俺に縁談が舞い込んだ。


縁談の主は、レイモンド伯爵。自分の長女、しかも5歳年上の女を正妻にと言ってきたのだ。



「俺は、見も知らぬ女を娶る気はない」と一言、言ってやった。


「アシャ殿下、まさか御傍にいます元奴隷の女を娶ると言われるのか?」


「そうだが?」


「そんな下賤な女は皇帝の妻にはふさわしくございません、娶るなら貴族の娘は相応しいと存じます」


「下賤と言ったか?」


「はい、まこと下賤です」


「どこが下賤か申してみよ!」と俺は声を荒げた。


「血が下賤で穢らわしゅうございます」


「血だと?生まれで決まるものの血が穢らわしいだと?」


「はい」


「お前、俺の体に流れている血が穢らわしいと言っていることに気が付かないか?」


「いえ、貴方様は高貴な血でございます」


「俺の体の中の血の四分の一は奴隷の血だ。それを汚らわしいというならこの場を去れ」


「いえ、その・・」


「もう見たくもない、下がれ」


「そ、そんな・・」


「衛兵!」


「ま、待ってください・・」と言って衛兵に連れられて行った。


「爺さんが引退してからこれだ‥」


「これで5人目ですね。お爺様の影響が小さくなったので今かと待ち構えたわけですね。」とレムリア。


「おそらくね」


「まだまだ来ますね」


「たぶん」


「如何なさいます?」


「全部叩き潰す。家もろとも」


「まさか?」


「おそらく、次に来るのは俺の廃嫡だろう。だが、そうはさせない」


「廃嫡と言いますと」


「見た目の年齢だな。これを理由に俺を病気だと言いふらす輩が出てくると思う。そして俺を退けて弟のアームスを立てようとしてくるかもしれない」


「まさか?」


「アームスは俺とは違い、周囲に防波堤になる人物がいない。おそらく、俺を廃嫡させ、アームスと挿げ替えようとするだろう。そしてアリエスをアームスの嫁にと言い出すと思う」


「正当性を持たせようとするわけですね」


「うん、おそらくね」


「それと、毒殺でくるかもしれない」


「え?」


「だが、俺達には解毒の魔法がかかっている」


「あ、そうでした」


「ただ、周囲の者が巻き込まれる危険性はあるな」


「はい」



その1週間後、毒味役のメイドが倒れた。


レムリアは速攻で解毒魔法をかけ、メイドの一命を取り戻す事が出来た。


毒は食事に入れられていたのだ。


3日後、今度は親父と爺さんの食事に仕掛けられていた。


仕掛けられていたのは酒だ。



「無差別に来ましたね」とレムリア。


「うん、来たね」


「さて、毒攻めが駄目だと分かれば次の手は何かな?」



次に来たのは、エストラント子爵だった。先のレイモンド伯爵の甥に当たる。


「殿下、これをご覧ください」


持ってきたのは連判状だった。


「これは?」


「謀反を企てているものの連判状です」


「連判と言っても血判の連判状だな。どうやって手に入れた?」


「はっ、ゲレイト侯爵の使いと思われるものが、行き倒れており、その者を介抱したところ、このような手紙と共に所持しておりました」と手紙を出す。



俺は鑑定を秘かにかけ、これ等が偽物という事を知っている。


ふむ、これは俺が預かろう。


この時、俺はエストラント子爵に魔法をかけ真の首謀者を聞き出した。


エストラント子爵は聞き出されたことも知らずに帰って行ったのだ。



俺は翌日、ゲレイド侯爵を呼び出した。


「ゲレイド、このようなものが手に入ったぞ」と俺は血判状を見せた。


「おやまあ、我ら全員、謀反人ですか?」


「そうらしいな」と俺は笑う。


ゲレイドを含んだ47人、つまり、血判状に書かれていた者は全て俺に龍の力を持って絶対的な忠誠をかけてあるのだ。



時は8年前に遡る。


このころの俺は普段、何をしているかと言うと、剣の修行と大学講師だ。


俺の学力は既に帝国大学の卒業基準をクリアしてしまった為、帝国大学で臨時講師をしている。

そこで教えているのは、経済学、政治学、土木工学、生物学、行政学、兵法、科学、数学などで、受講基準も設けている。


基本的には、数学で高得点を出さないと俺の学科は受講できない。落ちたものは他の教員が指導する同一の学科に行くことになる。


大貴族と呼ばれるものの子弟の殆どは全滅で、この数学の難関を突破したものは、小貴族の子弟、貧しい商家の子弟と一般の市民の子供だ。さすがに努力家が多いというわけだ。



俺が勉学させる以上は、ただの勉学ではない、国の中枢を担う人間を作るのが目的だ。


彼らには前もって忠誠を誓うことを約束し、試験に臨み見事合格したわけだ。


そして、俺が彼らにかけた魔法は「アブソリュートロイヤリティ」絶対の忠誠心と言うわけだ。


俺が付けた魔法は、いかなるアンチ魔法を持っても取り外すことはできない。


これ以外にも、体力増強速度向上 、新陳代謝速度向上、反射神経速度向上、筋力増強向上、脳神経向上を付与した。


さすがに、勉強と体力を増強させようとすると、魔法に頼らなくてはならない。



また、先の試験に落ちたものでも、補習講座を受けることを前提に受講を認めるケースもある。


この中には、大貴族の子弟も何人か含まれていたが、前提条件として親子とも俺への絶対的忠誠を誓わせ、卒業後は、受講したものが当主となる様に誓わせた。


ゲレイド侯爵もこの一人だ。


つまり、俺が次世代の皇王なので、将来の領地安堵をも約束されたわけだ。



更に、俺が忠誠をさせる場合、一つは俺に、もう一つは民にという忠誠をさせたのだ。


彼らが卒業後、彼らが受け継いだ所領は、かなり豊かになり、お互いの間でも流通網を発展させていった。流通網を発展させたのは同門となった商人子弟であり、同門の領主と対等に意見を交わすことで、流通をより活発にさせた。



そして彼ら自身、人材育成に積極的になった。俺が身分を考慮せずに人材育成したら、成功を収めたため、自分たちも身分抜きに人材育成をし、積極的に登用しだしたのだ。


彼らの領地で学校を作るにあたり、俺は、手元に残していた学力の高い一般市民出身者に教科書をつくらせ、俺の子飼いとなった領主の所領の教科書とし彼らを教職員として派遣した。



これを見ていた親父は「俺は引退するわぁ」と言ってさっさと引退してしまった。



そして俺は15歳の春、摂政となった。11歳の時に始めたので此処まで8年の歳月を要した。


レムリアはと言うと、本来はカグツ家の養女になりそこから結婚と言うところだったのだが、フェリス卿が先に亡くなっため、その手は使えなかった。


そこで、母の養女とし、母の養女と俺が結婚したという事にしたのだ。もともと母の養女であったため、カグツ家の力を借りることもなかったというわけだ。



これを機会に、親父は引退した貴族たちと乗馬クラブを結成し、馬で馬場を駆け回っている。


そして、母は、その妻たちと午後のお茶会クラブを結成し、お茶のテイストに勤しんでいる。



乗馬クラブには親父と、引退した貴族が、時々若い近衛兵、衛兵を連れて行き、乗馬と戦闘の訓練をさせているとか。若い連中が一端の戦闘能力を持つまで育てることが楽しいとか。おかげで、俺の陣営の兵力は人数では他の貴族に及ばないまでも、兵士の能力を考慮すれば総合戦力ははるかに上回っているのだ。



更に母は午後のお茶会クラブを通じて、俺の子飼いの貴族同士をどんどん婚姻させていったのだ。家の格はほとんど無視。身分差があるときは、自分の養子、養女にし、送り込んだのだ。



そして、これに引っ張り出されたのはレムリアで、料理、裁縫などの講師をしたが、子女を全員自分の子飼いにしてしまい、奥さまクラブを結成してしまった。



これが裏で俺がやっていたことだ。



「さて、殿下、如何なされます?」


「大方、奴らの目的はお前たちの領地だろう」


「なるほど」


「思いっきり発展させてやったからな」


「ははは」とゲレイドが笑う。


「俺は、奴らを暴発させようと思う」


「と言いますと?」


「奴らは俺達を毒殺しようと企てたのだ」


「なんと!」


「その報いはきっちりと受けさせてやる」


「一掃なされますと?」


「うむ。まず、俺の作る国に人を生まれで見下す奴はいらぬ」


「はい、お陰で私の妻も生まれは下位貴族ではありましたが、良縁に恵まれ皆仲良く暮らしていただかせております。人は生まれよりも質だと感じ入っております」


「いや、それをやったのは俺ではなく、母上だ。俺より見る目はあるからな。」


「龍の眼でしょうか?本性を見抜くと言いますか・・」


「おそらくな。それより、母上がお前を推挙したときはびっくりしたぞ。俺の試験に落ちてしまい、ああ、こいつはダメだなと思っていたら、母上が再試験を受けさせろと言ってきたときには何事かと思った。そして、全問正解で合格しやがった」


「ははは・・」とゲレイドは笑っている。


「ふむ、本題に戻そう」


「はい」



「ゲレイド、お前たちは、明日から暫く領地に籠れ。それと、帝都にある館は全てもぬけの殻にしろ。」


「揺動ですな?戦になりませぬか?」


「うむ。わざと戦を起こす。」


「と言いますと?」


「帝都で、奴らを一網打尽にしても地方には奴らの家族と兵士が残る」


「つまり、危険分子が残ってしまうという事ですな」


「そういう事だ」


「そこで、俺は雲隠れし、噂を流す」


「どのような?」


「祖父に対する謀反が発覚し、逃げたのだと」


「穏やかではない」


「そこで、祖父が俺を匿っているお前たちに対し兵を起こす準備をしていると噂させる」


「その兵は、本当の謀反人を捉えるものですね」


「うむ。そこで『謀反人の一味に攻め込んだものには恩賞を与える』という話を噂で流す」


「そうすると、奴らは攻め込んでくると」


「おそらくな。それなりの準備はしてあるな?」


「はい。剣、騎馬は皆かなり鍛えられております。兵の数だけで言えば、この国の半数と言ったところでしょうか?あと、移動式大筒も合計480門揃え、各自10門づつ、弾薬に至っては1門に付き30回分の砲撃が出来るように渡してあります」


「まあ、それだけあれば十分だな」


「あと、アームス様の事が気にかかります」


「うむ、俺と敵対する勢力には関わるなとは釘を刺してはあるが・・やもうえない場合も考えておこう」


「はい」



その日の夜、俺は家族に計画を打ち明けた。


「アームスの件は儂らにも責任がある。手元に置いておかなんだのがまずかった。もしものことが有れば、儂等は目をつむろう。この国を守るためなら死しても礎になるのも儂等の勤めじゃ」と祖父。


親父と母、妹は泣いていたが同意してくれた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る