第2話 隠された村

成龍の儀が行われてから1週間、城下町は祭り一色に覆われた。


俺達が夕焼けの中を皇宮に降り立った住民が噂を始め、皇宮からの御触れをみた住民は吉兆だと狂喜した。


成龍が3匹も皇宮にいるのだ。絶対的な安心感が周囲を支配する。



そして、成龍祭りが行われたわけである。


龍を模した山車が町中を練り歩き、屋台が軒を連ねた。



祖父は俺にこの様子を見せ、「アシャ、この者たちはお前に絶対的な信頼感を持っている。お前の命に代えても守り抜け、それが支配者と言うものだ」と。


その翌日、祖父は俺にイリュージョンの魔法を教えてくれた。空を飛んでいる姿を他のもにに似せて隠すためだ。

さらに翌日、バスケットに入れた弁当が用意された。完全にピクニック気分だ。


向かう場所は「隠された村」。


実際の場所は皇城より数キロ南にあるのだが、険しい山に囲まれて人馬すら行くことはできない。さらに龍の結界もあるので、結界より中にも入れないわけである。


俺は龍の姿になり、3人を背に乗せ飛び立った。


「兄様、すごいすごい!」とアリエスは大はしゃぎ。


後の2人は「風が気持ちいい」と喜んでいた。あとで祖父に話したら、「龍は風に乗るのが気持ちいいからだよ」と教えてくれた。


まずは北に向かい、途中でイリュージョンをかけ、その姿は龍ではなく鵬と呼ばれる大きな鳥になる。そして遥かな高みを目指し上昇し、やがてその翼を南へと向かわせ、南の高みにある池を目指すのである。人は、これを「図南の翼」と言う。


南に向かった皇太子はやがて大きな事業を成すことが約束されているからともいわれている。



俺達が降り立ったのは天上の池と呼ばれる地域だ。但し、下界の者にはこの存在を知っているものはいない。山そのものが結界の中なのだ。



ほぼ村の前に降り立ち、おれが元の姿に戻った時、長老と思われる人物と数名の付き添いの者が現れた。



「初めまして、村の長老を務めておりますミファラスです。こちらは私の娘のアイシャとその夫のフェラスです。そちらにいるレミアの父母になります。また、私はレムリアの祖父でもあります。どうぞよろしくお願いします。」


「初めまして、アシャ・フォン・ムルマーシュです。ムルマーシュ皇国皇太子です」


「初めまして、アリエス・フォン・ムルマーシュです。ムルマーシュ皇国第三皇太子妃になります。」


「お爺様、お久しぶりです。この度、結婚いたしましてレムリア・フォン・ムルマーシュ。ムルマーシュ皇国第一皇太子妃になりました」


「とすると・・」と長老。


「お爺様、御久しゅうございます。私も結婚いたしまして、レミア・フォン・ムルマーシュ。ムルマーシュ皇国第二皇太子妃になりました」と・・


「おお」、と涙ぐむ長老。


「先日、スサ様が参られて、其方らをアシュ様の嫁にすると聞いてはいたが現実に嫁になると感慨深いな」と涙ぐんだ。


ちょっとしんみりなってしまった。


「長老様、そろそろ・・」と付き添いの者が声を掛ける。


「おお、そうであった」


「お爺様、先にお婆様、お父様、お母様のお墓参りがしとうございます」とレムリア。


「そうであった、先に参ろうかと言って俺達を先導して墓の前に来た」


先に俺が墓に参る。


「初めまして、アシャ・フォン・ムルマーシュです。ムルマーシュ皇国皇太子です。この度、ここにいるレムリアとアシャを妻に迎えることになりました。今日は、その御報告に参りました」と言って祈りを捧げる。


「お婆様、お父様、お母様、やっと想い人に巡り合いました」とレムリア。


「お婆様、叔父様、伯母様、私も幸せになる事が出来そうです。」とレミア。


「初めまして、アリエス・フォン・ムルマーシュです。ムルマーシュ皇国第三皇太子妃です。素敵なお姉さまが2人もできて幸せです。」とアリエス。


俺達は思い思いに祈りを捧げた。



そして墓の出口で、一つの墓標の前に来た。


この墓標は俺が初代皇帝の時、命を助けた長老の息子のアリエスたちの妹の墓だ。


たしか、俺に懐いてお嫁さんにしてほしいと言っていたが、病気で亡くなってしまったのだ。


俺は思わずそこで祈りを捧げた。あとの3人も続く。



そうこうしているうちに、アリエスが泣き出したのだ。理由はわからない。



まさかと思った俺はアリエスのステータスを見て驚愕した。


[転生せしもの(記憶なし)]、[元病死した初代ムルマーシュ皇王の婚約者(記憶なし)]、[元ムルマーシュ皇国初代皇王妃の妹(記憶なし)]・・つまり、この墓標の本人だったのだ。


「メモリ・リヴァイヴ!」(よみがえる記憶)と俺は、アリエスに魔法をかけた。


アリエスは、目を見開き、そして大泣きして、俺に抱きついてきた。


その様子をみて、レムリアとレミアも気が付いて2人とも抱きついてきた。


その場に居合わせたものは何が起きたのかは全く理解できなかった。


「お見苦しいところをお見せして申し訳ない、何故か皆感極まってしまって・・」と俺は誤魔化した。



そして俺たちは、長老の館に向かった。


館ではレミアの両親が待っていた。


俺達は結婚の報告をし、歓迎された。



そして、宴が始まったが俺はまだ10歳なので酒は飲めない。


そこで、俺達4人には果物の飲料が準備された。


宴の大半は、レムリアとレミアの子供時代の話だった。



翌日、再び俺は龍の姿になり、3人を乗せて帰路に就いた。


皇宮では以前と変わらぬ生活が待っていたが、俺の妻3人はさらに仲が良くなったようだ。


但し、俺は10歳なので手出しはまだできない。

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