第2章 血の掟

第1話 隠された村と血の掟

実は、俺の体の中には奴隷の血が流れている。



奴隷と言うと語弊があるかもしれないが、1つの村を皇家が隷属化し、奴隷と言う名目で完全にコントロールしているだけである。



俺の祖母を含め執事メイド、レムリアとレミアはこの村の出身でもある。


この村が皇家の管轄地になっていることには、俺達に由来する特殊な事情があるのだ。



俺が、初代皇帝になる以前、この村は隷属化されていなかった。


ある行きがかりで、この村の長老の孫を助けたのだが、大けがを負い、輸血が必要になった。


当時、魔法などは開発されておらず、大量失血に対しては人の血を輸血する必要があったのだ。


町のはずれで、魔物に襲われた彼を助けたのは、前世の俺だった。


彼の血に、俺の血が混じり、彼の子孫はマナを吸収、コントロールできる能力がついてしまった。そこで開発されたのが魔法だ。レムリアとレミアの前世は彼の孫になる。俺は、この時から龍の姿から人の姿になりレムリアとレミアと共に生きたわけである。



しかし、魔法を使えるという事は他の勢力の餌食になりかねない。


そこで、俺たちは帝国を建国し、絶対的な力を持って、俺たちの子孫である皇家がこの村を一元管理することになった。


人口は3000人足らずの村ではあるが、他の地域と隔絶され、皇家の許可を得ない他の地域からの人の移動、他村との交流、婚姻は固く禁止されている。


そして、この村の人の特徴は半数が金髪なのである。


金髪が発生したのは俺が助けた子供の子孫からだ。これは、前世の俺の血を引いているという証拠でもあり、魔法が使えるという査証でもある。



俺の現在の家族で言えば、祖父、母、俺、アリエスの4人が金髪で、アリエス自身も恐らく魔法の手ほどきをすれば魔法が使えるようになると思われる。


アームスは茶髪なので使えないのは確定している。



これ以外にも、執事とメイドでは、俺、アリエスに使えるものは金髪で、それ以外は黒髪だ。


皇家に於いてはこの金髪を龍の血脈と呼んでいる。


アリエスの相手は親父の想像では他家に嫁ぐと考えている様だが・・俺の嫁になる可能性が最も高い。


何故なら、血脈を色濃くしたいという皇家の伝統があり、女性で金髪が生まれた場合は、家を継ぐ男子、つまり金髪の長男の嫁にするという決まりがあるのだ。


それがかなわぬ時は村の男子と結婚させ、村に移住させるという決まりだ。


同時に、魔法を使えるものを外部に無暗に増やさないという掟でもある。


つまり、親父がなんと言おうと、他家には出せないのである。


恐らく俺が全力で阻止するだろう。



また、兄妹婚は珍しいものではなく、古代エジプトなどでもよく行われていた。



俺の母親の場合、本来は村から男子を婿養子にするのだが、第2子以降は黒髪か茶髪になる事が多いので、親父との結婚を認めたが、予想に反してアリエスが金髪だったため、祖父はかなり慌て、茶髪で生まれた第3子のアームスをカグツ家の養子にすることを決めたのだ。


フェリス卿は、この金髪の秘密と掟を知らなかったので、親父と母の間に生まれる子は必ず魔法が使えると勘違いしていたのだ。


皇室同様に、皇室をまねて特定の村を隷属化している諸侯も多い。フェリス卿の連れて来たメイド、ライエもこの一人だが、皇室の様に特殊な能力を持っているわけでもない。


そして、俺が10歳の誕生日を過ぎ、アームスが5歳の誕生日を迎えた日、アームスは、フェリス卿に引き取られていった。


この時、ライエの主はアームスとなったので必然的に俺の母との精神感応は解けている。

但し、ライエにはツクヨミの加護とウズメの加護はアームスが16歳になると必然と解けるようにはなっているのだ。



ある日、妹のアリエスが、レムリアとレミアの生まれた村を見てみたいと言い出した。


俺は、その場所を知らない。


そこで、レミアが爺様に相談し、俺達4人で見に行く許可を貰ったのだが、前提条件が付いてしまった。


俺が龍化する必要があったのだ。つまり、龍しかいけない結界の中に村があるというのだ。


「アシャ、龍化するには言葉で教えることは不可能だ。そこで俺と感覚共有して、その実で覚えるのが手っ取り早い」という事で、爺様と感覚共有した。


爺様が龍になった感覚を俺が感じとり、龍をイメージした。


結果は・・1発でできてしまった。


「ふむ、やはり一発でできてしまったか」


「ちょっと不思議な感じですね」と俺。


実は、すでにやってみたことが有るのだ。


神龍は精霊の様なものだから、服を着たままでも変身でき、元の姿に戻ると服も戻っているというわけで意外と即変身できることを俺は知っていた。


「あとは、神龍の加護を覚えればよいだけだが、感覚はこんな感じだ」と言ってイメージをくれた。


俺は真似て「こんな感じですか?」と投げかけたら、「うむ、これで入れるだろう。但し、飛行訓練だけはしておいた方が良いな。一度人の姿に戻れ」と言われ、俺は人の姿に戻った。


「墜落して城を壊されてはたまらぬからな。訓練できるところまで俺が連れていく」といって龍化した祖父に鷲つかみにされ、空に舞い上がった。


降り立ったところは広い牧草地だった。


「まあ此処ならよいだろう、また龍になってみよ」と言われ、俺は龍になった。


俺の大きさは、前後30m程度、祖父は前後60m程度と言ったところの大きさだ。


いわゆる翼竜。


「飛ぶ際には、自然と重力魔法がかかる。俺がイメージを送るから合わせて見よ」と・・


祖父がふわりと浮き上がるイメージを送ってきたので俺はそれに合わせてみる。


「あわわ・・」・・「ズズーーン」見事に墜落してしまった。


平衡感覚が難しいのだ。


出来るようになると上昇、下降、旋回などを次々とイメージで送り練習を繰り返した。


昔飛んでいたとはいえ、感覚を取り戻す訓練は必要なのだ。


やっとまともに飛べるようになったと思ったら、今度は物を背中に乗せて飛ぶ訓練を始めた。


要するに俺だけ飛べればいいわけではなく、俺はアリエス、レムリア、レミアを隠された村にまで連れて行かなければならない。


重力コントロールで3人分に相当する石を背中まで運び、それが落下しないように無意識でコントロールする訓練だ。


ここまで1週間、祖父は俺に付き合てくれた。


そして、ほぼ訓練が終わった時、俺達2匹の龍は夕日を浴びて城に戻った。


俺達が城に降り立った時、城の中の殆どが出迎えに並んでいた。


「「「アシャ様、お館様、成龍の儀おめでとうございます!」」」と・・


「ふむ、ご苦労。今日は宴だな」


「はい、準備は整っております」



そして宴会が始まるのだが、先に祖父からひと言の宣言があった。


「皆の者、今日は祝いの席を設けてくれて嬉しく思うぞ。さて、アシャの成龍の儀もつつがなく終わった。そこで、古からの決め事を実行せねばならぬ。今日を持って、俺は位を退き、上皇の位につく。そして俺の娘スセア・フォン・ムルマーシュが女皇の座に就く。さらに、孫のアシャ・フォン・ムルマーシュが皇太子の座に就く。さらに、アシャの乳母をしているレムリアが第一皇太子妃、アリエスの乳母をしているレミアが第二皇太子妃、アリエスを第三皇太子妃とする」と宣言してしまった。


驚いたのは、親父。まさかアリエスが俺の嫁になるとは想像していなかったのだ。


喜んだのは母とアリエス。アリエスは、「兄さまのお嫁さんになれる」と大喜びしたのだ。


驚いた親父は祖父に「アリエスは諸侯に嫁に出すのでは?」と食って掛かった。


要するに自分の父の地盤固めがしたいのだ。

しかし、祖父は「龍の掟で、龍の能力を持つものは外には出せん。龍の能力を持つものが無差別に増えてしまったら、皇家の絶対的優位は失われ、戦争になるぞ。未曾有の戦禍で幾万の命が失われるのは火を見るより明らかだ。」


「では、アームスは・・?」


「アームスには龍の能力はない」


「どういうことです?」


「龍と人の子の間には龍の能力を持つものとそうでないものが生まれる。その能力の見極め方は門外不出で、お前にすら教えることはできん。そしてお前の父は自らの意志で、アームスを選択したのだ」


「俺は、お前の父がアリエスを選択したときには、アリエスを殺すつもりでいた。そこまでしても守らなければならぬ掟なのだ」


この言葉を聞いた親父は絶句した・・


「龍を妻にするという事は其れだけ厳しいものだ。龍を自分の掟で縛ることはできん。龍の掟に縛るのは自分自身なのだ」と祖父は親父を諭した。


「なぜ、アリエスをアシャの第三皇太子妃にしたのですか?」と親父が聞く。


「龍は龍の能力を持ったものに対し、分け隔てを行わない。つまり、3人の順位付けは意味をなさないのだ。そこで、姉、妹の関係で第一皇太子妃、第二皇太子妃、第三皇太子妃を決めた。また、アリエスはアシャに非常に良く懐いており、アシャの嫁になるのは本人の意志だ。俺は、アリエスから泣きながら嘆願されたときには嫁に出せぬと決めていた」と祖父。


「龍は時折、本能で相手を見つけだす。この本能に逆らうとき、龍は狂い死にする。あの3人は本能でアシャを選んだ。そして、スセアは本能でお前を選んだ。この本能には俺でも逆らえん」


「お前は既に皇家の人間だ。そして龍を妻に持つものだ。カグツ家の人間ではない。皇家の人間として龍の血を守ることに専念するのだ。それが未曾有の戦を避け、お前の父を助ける事にもつながるのだ」と諭す。


これ以降、親父は黙ったしまった・・

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