第4話 初陣とアクシズ教のヤベーやつ

 次の日。

 滞っていた仲間募集の件は。

「えっと、一応二人の名前とクラスを…」


「名前はリース。アークウィザードをやっています…」

「名前はイヴ、といいます!クラスはランサーやっています!」


 一晩で、二人も応募がかかりました。

 

 クリスが元気な候補を連れてきた昨晩。

 流石に夜だったこともあり、日を改めた。クリスが連れてきた女の子、「イヴ」はなんだか、すごいやる気だったため来るのはわかっていたが。

 リースまで来てくれたのはありがたかった。

 あのあと、話す以前にバレてしまったので事情を話し、よかったらどうかと誘ってみたのだが…。

 来てくれるとは…。

 

「あーまずは、日を改めてしまったのは申し訳ないです」

「いえ!大丈夫です!」

「まぁ、昨日は色々あったから…」

 対照的な二人の反応に、俺はなんだか混乱しながら一番大事なことを聞く。

「うーん、取り敢えずは入りたいのかどうかだけ…」

 そう言うと、イヴは快活な性格を表したような、明るい茶髪を揺らしながら頷いた。

「はい!是非とも!というか、仲間がいるならなんでもいいです!」

 雑だなぁ…。

 イヴは俺より年下で、どっちかというとクリスと近い年っぽいのだが俺より断然元気だ。

 というか、これは元々の性格みたいだが。

 だが、雰囲気は年相応な感じなのだが、見た目は大人びていた。明るい茶髪は後ろでアップにしてまとめており、顔立ちも性格に見合う可愛い、といった感じではなく美人、といった感じだ。


 イヴの雰囲気とのギャップに、ついまじまじと顔を見てしまっていると、雰囲気通りのリースが恐る恐るといった感じで話し始めた。


「実は、私一ヶ月前ほど前にアクセルに来たのですが、今の今までソロ活動していまして…。体調が崩れることもあって迷惑をかけてしまうのを承知で仲間を探していたんです…。アイマさんと出会った時も、仲間探しでのトラブルがあってあ、あんなことに…。もしよろしかったら、仲間に入れて欲しいです…」


 …なるほど。あれはそういうことだったのか。

 すると、クリスが事情を説明しろ。とばかりに俺を見てくる。

 俺はリースに聞く。

「その、事情は話しちゃったほうがいいか?」

「……そうですね。あ、私が…」

 と、リースは昨日俺に話した内容をそのまま説明した。

 


「そんなことが…。なるほどねー。どうなの?アイマくん」

「俺的には、リースさんは入れても大丈夫です。ただ、イヴさんに関してはどういう経緯かが…」

 と、俺はリースを見る。


「私は、こないだ故郷から来たばかりの冒険者でして!そのせいでアクセルの街で迷ってしまいまして!登録をしたときは、八百屋さんに場所を聞いたので行けたのですが、自分で馬小屋から行こうとしたら見事に迷いまして!そしたら、クリスさんが!」


「うん、この子、エリス教の教会の前にまで来ててさ。迷ってる感じだったから連れてってあげたんだ。そしたら、『ありがとうございます!もしよろしかったら何かお礼をさせてもらえないでしょうか!?』って言われて。それで…」


 ……案外、強引な誘い方だった。この子は、親切をかたにされていることに、気づいているのだろうか。まぁ、俺もリースをその誘い方しようとしてたし、人のこと言えないんだけど。

「それじゃあ、お願いしたいんだけど…。あ、そういや自己紹介がまだだったな。俺はアイマ。クラスは冒険者。つい最近ここに来て、まだ経験も浅いけどよろしくお願いします」

「はい!よろしくお願いしますアイマさん!」

「……迷惑かけるかもしれないけど、よろしくお願いします」

 二人は、それぞれ笑顔を浮かべて了承してくれた。

 おぉ…こんな可愛い二人とパーティーを組めるなんて…。冒険者になってよかった。


「…あ、そちらの方は…?先ほどイヴさんに見せてもらった募集の紙には、アイマさん一人と書いてあったのですが…」

 と、リースがクリスの方を向いて首をかしげた。

 あ、やばい。そういえば考えてなかった。

 今回、張り紙を作った時、クリスにはこう言われていた。

「私は助っ人として臨時でクエストこなしてるだけだから、メンバーには含まないで」と。

 ぶっきらぼうなその言いように、少し傷ついたが彼女の境遇を考えれば当然の処置だろう。女神としての仕事がある以上、クリスとして活動するのにパーティーを組むのは愚策だろう。

 なので、張り紙には俺ひとりの名前を書いていたのだが…。


「アイマくんとは知り合いでね。冒険者になり立てだったアイマくんの手伝いをしてたんだ。ただ、ちょっと事情があって、私パーティーはあまり組まないようにしてる。だから、張り紙にはアイマくんひとりで書かせたんだ。ま、私のことは助っ人みたいに思ってくれればいいよ」


 クリスは其処ら辺の言い訳は考えていたのか、スラスラと説明をした。リースは「そうだったんですか。お優しい方ですね」と納得していてくれた。

 ほっと息を吐くと、褒められたクリスが頬を掻きながら俺の方を向く。

「アイマくんは、ちょっとおかしな感性を持っているけどいい人………うん、そこそこいい人だから。よろしくね?」

「おい、今の間はなんだ」

 クリスの歯切れの悪い褒め文句に苦言を吐くと、クリスは顔をそらす。

「あの!いきなりで恐縮ですが、一つ頼みごとがあるんです!」

 と、イヴが頭に響く位の声で問いかけてくる。

「な、なんだ?というか、少し声のトーンを下げてくれないか?ちゃんと聞こえるから」

「あ、すいません!で、その頼みごとなんですが!」

 あんまし下がってない声で、イヴは衝撃的なことを言った。

 


「アクシズ教の、教会に連れてって欲しいのですが!!」



 俺は尚も顔をそらすクリスに、すごい勢いで振り返った。

 

**************************************


 ギルドから出た俺たちは、一人を除いて重い足取りで歩いていた。

 アクシズ教。

 女神アクアを信仰する宗派で、信仰数は少ないものの教徒たちがとんでもない信仰心を持っており、名前だけはよく通っている。

 そして、アクシズ教が有名な理由はもう一つある。

 アクシズ教を信仰している人は、頭がおかしいと評判なのだ。

 エリス教を目の敵にする彼らは、毎日エリス教徒に嫌がらせをしに、教会に殴り込みに行く。信者を増やすためには手段を選ばず、詐欺や恫喝、当たり屋など無法地帯とかしている。

 アクシズ教徒と名乗るだけで、モンスターが逃げ去るとも言われる位だ。

 そんな悪評が目立つアクシズ教徒の教会に。

 俺たちは向かっていた。


 あまりに関わりたくない状況に、俺は苦虫を噛み締めたような顔になる。

「あんまりそんな顔しないであげてよ…。一応、これから仲間になる予定なんだから」

「…キャンセルしたいなぁ」

「…まぁ、気持ちはわかるよ」

 クリスが同情めいた目を向ける中、道を訪ねてきたのにウキウキと先頭を歩くイヴに目を向ける。

 ……第一印象としては、あまりひどい性格をしているとは思えない。声は大きすぎると思うが、元気っ子な感じで印象はいい。

 それに、今のとこ前衛職に向く人もいないので、ランサーであるイヴが入ってくれるのはありがたい。ガチガチの前衛職という訳ではないが、そこは俺がフォローできればと思っている。

 リースはアークウィザード。火力は十分だろう。そこで、相手の隙を付くために俺とイヴで相手の注意を引くように動き、リースが重い一撃を加えるという戦法をとれば、強いモンスターでも善戦できるだろう。

 ……これだけ条件が揃っているのに、アクシズ教徒かもしれないという疑惑が立つだけでここまで嫌になるとは。アクシズ教徒、恐るべし。


 と、考えていると。

「あ!ちょっとイヴちゃん!そっちじゃないよ!」

 クリスが叫んだ。俺もイヴの方を向くと、イヴは俺たちとは全く逆方向の道を行こうとしていた。

 イヴはそれに気付くと、「そっちですか!」と手を打ってこっちに来る。

 ……しかし、これは。

「なぁ、イヴさん。ここに来たのはいつだ?まだギルドへ行く道のり当たりだが…」

「一昨日ですね。故郷を出たのはもう少し前ですが。ちなみにテレポートで来ました」

 イヴがまた前を歩きながら答えてくる。一昨日なら仕方ないレベルだが。

 故郷か。

「ちなみに、その故郷はどこだ?結構遠い?」

「ドリフトという町です」

 ドリフト…。あんまし聞いたことないなぁ。テレポートって言ってたしやっぱ遠いのだろうか。

 と、それを聞いたクリスがえっと声を上げた。

「ドリフトって…。アクセルから徒歩で行ける隣町じゃない。そこで過ごしていたならここにはよく来ると思うけど…」

「はい。親とよく買い物に来たりしていました」

「……それで迷ったのか?」

「はい!」

 いい返事をするイヴに、ある疑問を問いかける。

「…あのさ、テレポートで来たって言ってたよな?徒歩で来れるのにテレポート使ったのか?」


「いえ、最初は徒歩で町を出ていたのですけど、通った森の中で迷ってしまって。たまたま通ったテレポート職の人にアクセルのテレポート屋に送ってもらったんです。あ、あの人にはちゃんとお礼しなくてはいけませんね!」


「…………」

 俺があまりの真実に呆然としていると、クリスがぼそっと呟いた。

「…ドリフトからアクセルに行く道に、森なんてないんだけどな…」

 ……だ、大丈夫だろうか…。


 恐らく、大丈夫なもうひとりの仲間候補に確認を取ろうと最後尾を歩くリースを見ると。

「だだだ、大丈夫大丈夫怖くない怖くない…皆いる怖くない……」

 どうやら、アクシズ教徒に恐れを抱いているようでブツブツとつぶやいていた。

 ……ほんと、大丈夫かな。俺の冒険者ライフ。

「…これは、常識人な俺がきちんとしなきゃなぁ」

「…………」

 君がそんなこと言うの?という目を向けてくるクリスを無視して、また迷いそうになっている、規格外な方向音痴のイヴの前に出るのだった…。


 

 何度も迷いそうになるイヴを制止しながら、目的地であるアクシズ教徒の教会へと訪れたのだが…。

 俺たちは思わず呆然と立ち尽くしていた。


「ちょっとー!!待ってーー!!あぁ!!」

「おい、待てこら!あぁ、俺のパンツが!!」

「ちょっとアクシズ教徒!あのスライムあんたのでしょ!なんとかしなさいよー!!」


 アクシズ教会前は大量のスライムと、アクシズ教徒と思わしき人と巻き込まれた通行人たちでパニックになっていた。


 ……なんだこれは。

 もう一度、言おう。

 なんだこれは。


 あまりの光景に俺たち三人呆然としていると、ひとり、このおかしな状況に適応した俺の仲間になる予定の女の子がひとり、槍を持って突っ込んでいた。

「アクシズ教徒の皆さーん!!今助けます!」

「あぁ!?イヴちゃん駄目!安易にこの狂った状況に突っ込んじゃだめだ!!」

 クリスがはたから聞くととんでもない非道なことをいうが、俺も同意だ。

 スライムに教会と一般人が襲われている。これだけ見ると冒険者ならすぐに武器を抜くべき案件だろう。

 だが。俺たちはすぐには行動に移せなかった。

 なぜなら。


 人を囲み、取り込もうとしているスライムたちは幼女の姿をしており、そのスライムにまとわりつかれているアクシズ教徒たちは感嘆の声を上げていた。


「あぁ!!スライム状の手が!!手がぁ!!」

「あぁぁ!!いいわ!!この背徳感!」

「やっぱ教会の偉い人サイコー!!」

「そうでしょうそうでしょう!!ふふふ、これはいいものよ!!」

「「「「馬鹿なこと言ってないでなんとかしろぉぉぉ!!!!」」」」


 ……うん。なんだこれ。

「う、うわぁぁ!!」

 と、先に突っ込んだイヴの叫び声が聞こえ、振り向くと。

 二匹のスライムにまとわりつかれていた。

「い、イヴちゃんが!アイマさん、助けましょう!」

「あ、あぁ!…イヴさんだけ助けて帰ろう」

「……ちょっと同意するけれど、何とかする!」

 マジでぇ?

 俺は敬語がなくなり、ぷくーっと膨れているリースを見て、嫌々腰に下げている二本のショートソードを抜く。

 と、アクシズ教徒の声が一層でかくなった。


「おい!リアル美女が幼女スライムにまとわりつかれているぞ!!」

「おぉぉぉ!!!」

「す、すごいわ!それにあの感じだとめぐみんさんたちと近い歳じゃないかしら!!」

「うぉぉぉぉぉぉぉ!!」

「お前らもう黙ってろやコラァ!!!」

 俺はイヴにまとわりつくスライムに襲い掛かった!!

 

「あ、ありがとうございます!」

「おう!そんなに強くないみたいだし、連携していこう!」

 俺はイヴを立たせながら、リースに振り返る。

 リースは俺の意図がわかったようで、魔法の詠唱を始めていた。

 このスライムはあまり強くないが、近寄る人間にまとわりつこうと結構なスピードで寄ってくる。

 だが、いかんせん人間の姿をしてるので、倒しにくい。

 ならば、動けないようにして捕まえるのが得策だろう。そうしようとしたのか、先に来ていた冒険者グループが残したモンスター捕獲用の檻も近くにあった。

「クリス!スライムにバインドって行けるのか!?」

「あまり拘束はできないよ!でも動きを鈍らせることはできる!」

「よし、イヴ!片っ端からスライムに攻撃して気を引くぞ!なるべく一点に集めて、リースの魔法で一気に捕獲だ!」

「わ、わかりました!」

 俺はイヴのとなりを走り抜け、スライムへと向かっていく。イヴはアクシズ教徒や一般人に取り付いていたスライムに攻撃しながら、追ってくるスライムをうまく真ん中に集めていた。

 俺もなるべくイヴが集めた場所に、スライムを誘導していく。

「バインド!バインド!バインドー!」

 クリスが少し離れたところから、バインドを放ちスライムの脚を遅くさせ、イヴや俺の作業も一段と良くなってきた。

 だが…。


「うわっ!」

「うぉっ!!?」

 大体のスライムを真ん中に集めた時、集められたスライムたちが急にすごい速さで動き、俺とイヴを取り囲んだ。

「あれ!?速くない!?ごめん、バインドの拘束時間が解けた!」

「マジか!」

 まさかの事態に、俺はあたふたしながら思案する。

 くそ、なんとか抜け出さないとリースが魔法を撃てない!

 拘束系の魔法なら、俺らが喰らっても大丈夫かもしれないが、不足の事態があるかもしれない。それこそ、こいつらに拘束系の魔法が聞かない可能性もあるのだ。

 どうしようかと、顔を歪ませていると。


「アイマさん!すみません、失礼します!」

「え!?なに!?」

 イヴが大声で断りを入れながら、俺の腰を掴んで持ち上げた。な、なんて力の持ち主だ…。

 だが、次の瞬間に俺はもっと驚くことになった。


「うぅぅぅ…!ワォォォォ!!」

「うぉ!?」

 突如、イヴが狼の咆哮のようなものを上げ、スライムの包囲網を上空へ跳んで避けた!。

 俺を抱えているのに、だ。

「うぉぉぉぉぉ!!」

「大丈夫ですか!?着地しますよ!少し来ますよ!」

 ドスン、と地面が震える程の着地。衝撃が少しきたが、イヴがうまくいなしてくれたようだ。


 それよりも、気がかりなのは…。

「おま、なんで耳!?それに手とかも何かふかふかし始めたし!」

 そう、俺を抱えている手や脚、それに尻尾や獣耳と呼ぶべきものも生えていた。

 これは…!

「私、実は獣人族のハーフなんです!いつもは人間の姿をしているんですけど、こういう戦闘時とかはこうして獣人化して戦闘力をあげられるんです!」

「獣人族!?マジか!」

「紹介が遅れました!アクシズ教会に行くのに夢中で!」

 自分のことよりアクシズ教優先なんかい。

 アクシズ教の熱狂度を肌身に感じていると。

 

「アイマさん!」

 と、魔法の詠唱をしていたリースから声がかかった。

 俺はリースに頷くと、迫るスライムがほぼ全て、真ん中に群がっているのを確認し、イヴにアイコンタクトし、着地した場所から飛び退いた!

「リース!」

 叫ぶと、リースは手のひらを俺たちが引き寄せた大量のスライムに向ける。

 まだ多少残っているが仕方ない。

 リースならうまい拘束魔法を…。

「『カースド・ライトニング』!!」

 瞬間、幼女のスライムたちを、なぎ払う黒い閃光が眩き塵にした。

 あ、あれ?

 拘束して捕まえる、と俺が伝えた二人はポカンとして、リースのことを見ている。

 周りの人たちや冒険者、アクシズ教徒までもが唖然としている。

 …捕縛、しないのか…。

 リースはふぅ…と息を吐き

「…哀れな思想に泳がされた魔の者たちよ…。安らかに…」

 何言ってんだあいつ。

 リースは手を組みながら、未だバチっと火花を散らす黒雷を沈めていった

 一応、辛そうな顔はしてるから、きついんだろう。というか、俺リースにだけ捕獲すること言ってないじゃん。そりゃ、普通に魔法放つわな…。

 俺はイヴに礼をいって、辛い役回りを回してしまったことと、伝え忘れを謝るためにリースに近寄った。


 その時。

 周りの仕留めきれなかったスライムが、何か怒りの表情を浮かべながらリースに群がっていった!

「うわぁ!?」

「げ!」

 スライムたちは、先ほどよりも早い動きであっという間にリースを取り囲んだ。なんで無駄にスペックいいんだ、あの幼女スライム

 リースは、さっきの格好良い姿はどこへやら。あわあわと泣きそうになっていた。

「リースさんが!アイマさん!助けましょう」

「お、おう!」

 俺はイヴの言葉に頷き、リースのもとへ走り出す。

 スライムたちは姿かたちなど気にせず、大きくなり既にリースの姿すら見えなくなっていた。

「やばいよこれ!」

 クリスも並走しながら、冷や汗をかいている。

 俺たちは、目の前の幼女の塊に向かっていく。

 その時。



「『シャドウ・ターニング』!!」



 スライムたちを、黒い影が一閃した。

 スライムたちは、その一撃で倒れたらしく、肥大化した体は崩れ去っていった。

 リースは、はぁはぁと息を荒げながら

「……あ、危なかった…」

 と、焦り顔で言った。さっきの「あれ」はなんだったのか。

 俺たちはリースに近づき、声をかける。

「だ、大丈夫か?」

「う、うん」

「リースさんすごいです!何ですか今の!」

「もしかして、今のが一族の?」

 クリスがそう聞くと、リースは無言で親指を立てた。

 い、今にも倒れそうだな…。大丈夫か…。


 と、今のやり取りを見ていた周りの人達から声が上がり始めた…。

 もちろん、俺たちに対する感嘆の声…。

「な、なんて冷酷な…」

「ひどい…いくらモンスターとはいえ…」

「俺らも、流石に捕縛する気だったんだが…」

「仲間らしき男も切りつけて倒してたわね…どっかのパーティのリーダー並みの鬼畜さね…」

「あぁ、アクア様…。モンスターとはいえ幼女の最後を…あぁ…」

「アクシズ教徒もびっくりだわ…」

 ではなかった。

 どうやら、彼らからの位置では、リースのあたふたしていた姿が見えなかったらしく、幼女の姿をしたスライムを倒した冷酷な人。という風に写ってしまったようだ。

 周りの不当、というか風評被害的な意見に、リースは涙目であうあうしていた。


 ……今はタイミングではないと思うが、あとに回しても仕方ない。

「あーその、すまん…。二人には捕獲しようと伝えてたんだが…」

「えっ!?」

 まさかのカミングアウトに、リースは目を丸くする。

「そ、それなら言ってくれれば…!」

 やはり、捕獲用の魔法はあったらしくリースは涙目で訴える。

 ほ、本当に申し訳ない…。

「……リースさん、すみません…」

「そのー…。どんまい」

 二人からの慰めの言葉。そして。


「冷酷魔女だー!」


 アクシズ教徒達から変なあだ名を付けられていた。いや、第一お前らのせいだろ。

 だが、この結果は俺のせいでもある。

 俺は、次からはどういう風に戦闘するかを伝えよう…と決意し

「その、すまんな…。俺はわかってるからさ…」

 と、リースの肩を叩いた。

 リースは、わっとその場から涙をきらめかせ逃げるのだった…。


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