第3話 仲間は急展開と共に

 ジャイアント・トードの依頼をこなした日から、5日。

 俺は朝のバイトを終え、いつもどおりギルドの一画に座る。

 クリスは女神の仕事があるらしく最近は来てはいない。

 そんな中。

「……来ない」

 仲間は未だに一人も来ていなかった。

 やはり、冒険者ひとりというのが大分、避けられる原因となっているのだろうか。現在、音沙汰もない。

 最近は、ちょくちょく紙束にうもれた自身の張り紙を前に出す作業をしている。

 ……どうしよう。このまま一生こないかもしれない。

 今日もこなさそうな雰囲気を感じた俺は、ギルドをあとにし外に出るのだった…。

 

 外をぶらぶらと歩く。

 …そういえば、仲間募集をしていたのと、クエストに行ってなかったこともあり忘れていた。『二刀流』スキルをとっていない。

 器用は従業員の知り合いの人に頼んで、教えてもらったので、もう出ているはずだが…。

 冒険者カードを見ると、『二刀流』とスキル欄に書かれていた。

 おぉ…。実際見ると、なんかテンション上がるな。

 俺は『二刀流』のスキルを取ろうと、カードに触れる。

「…よし!」

 俺はスキルを習得し、上機嫌になりながら歩き出した。こんな道端で、冒険者となったきっかけのスキルを思い出して取るあたり、自分でも意志の弱さを感じる。

 ……なぜか、どっかからこれでスキルポイントを全部使ったことに苦言する、女神様の声が聞こえた気がした

 

 しばらく歩いて、『二刀流』をとったことで変な自信がつき始めた俺。

 口笛を吹きながら、ギルドに戻ろうと歩いていると…。

「……ん………さい…」

「ん?なんだ?」

 歩いていた場所の裏路地。そこから変な声が聞こえた。

 ギルドに大分近い道だが、通りすぎるだけではわからないような場所。

 聞こえてくるのは女性の声…。

 うわ、やばそう。

 俺は引き気味に裏路地を見つめる。

「……い!………!!」

 だんだん大きくなる悲鳴らしき声。ちょっと無視できない勢いだ。

 ……よし。この二刀流を使いこなすアイマさんが何とかしてやろう。

 俺は変な自信を糧に、声のする方へ向かう。

「おい!やめろ!なにやって…」

 裏路地に差し掛かり、大声を張り上げたその時…。

 目の前の光景に絶句した。

 


 目の前では、ひとりの女の子が黒い何かを操りながら、チャラそうな女冒険者を倒していた。



「!!そ、そこの人!!!助けてぇぇえ!!」

「あ、すいません。俺ちょっと用事があるんで…」

「ちょっとー!!お願いだからぁぁぁぁ!!!」

 あまりの光景に思わず速攻自信が決壊し、その場を立ち去ろうとするが、チャラそうな女に呼び止められる。

 なんだこれ、状況がわからない。

 黒い何かを操っている女の子は、どうやら意識がないらしく声すら発していない。

 黒いローブをかぶり、得体の知れない黒い何かを操るその姿は、魔王軍のものか?とすら思える。

 ………黒い、ローブ?

「……あれ、もしかして…」

 俺は背中に嫌な汗を掻きながら、思わずたじろいでしまう。

 もしや、こいつが俺を殺した…!。

「あぁぁぁ!!早くしてぇぇ!!潰されるぅぅぅ!!」



 思考を鈍らせた頭に、チャラ女の声が響く。

 そうだ、取り敢えずこの状況をなんとかしないと…!

 俺は剣を抜き、『敵感知』を発動させながらチャラ女の近くに行く。

 どうやら、黒い何かは彼女を潰しているだけではなく、絡み、押さえつけ動けなくしているようだ。

 奴はまだ俺には気づいておらず、黒い何かも見境なしに暴れている。

 斬りつければ気づかれるだろう。その上、斬れるともわからない。初めて見る物質だ。

 だが、この黒い何かをどうにかしなければ、チャラ女を助けられないだろう。ならば…。

 俺は、絡み合っている黒いそれに軽く触れていく。


「な、何してんの!?早くして!!」

「………」

 俺はチャラ女の言葉には答えず集中する。

 大分適当な絡み方だが、そんなに複雑ではない。ならば…。

 俺は目星をつけた、「絡みが少ない場所」を見つけそこの周辺を思いっきり斬りつける。

 確かな手応えと共に、黒い何かが地面にはたりと落ちた。

 よし、なんとか切れた。耐久はそこまででもないのだろうか。

「………!」

 奴が気づいたようだが、これなら大丈夫だ。

「ちょ、これじゃあ出られな……お、おぉ?」

 俺は、黒い何かが動き出す前に切りつけて空いた場所に手をつっこみ、一気に解きチャラ女を引き吊り出した。

 よし…。

これも『器用』スキルの賜物だ。手先がよくなるとはいいものだ。



「た、立てるか?」

「う、うん…。ありがとぉ」

 救出されたチャラ女はフラフラしながらも立ち上がる。

 よぉし、そしたらあとはこいつを逃がすのみ…。

 チャラ女を逃がそうと、少し動いた瞬間、黒い何かがこちらにすごいスピードで襲いかかってきた!

「う、うわあぁぁぁあぶねっ!!」

「ひぃいぃ!!」

 俺たちはなんとか避けきり、地面を転がる。

 や、やばい。早すぎる。しかも、何だ今の反応。動くもの全部に反応するのか!?

 今のは偶然避けることができたが、次避けろと言われたら無理だろう。

 俺は剣を構えて、黒フードの女に向き直る。

 ……こいつが、俺を殺した犯人かもしれない。

 くそ、なにが撃退だ。こんなの成すすべもないじゃないか。

 俺は、空いた片手で転がっていた短剣を持つ。

 成すすべもないが……。


「あ、あんた何を…」

「…俺が突っ込んだら、そのまま路地裏を抜けてギルドに走ってくれ。そんで誰でもいいから増援呼んでくれ。銀色の短髪の盗賊がいたら優先的に呼んでくれ。俺の名前をいえば分かる。ちなみに、名前はアイマだ」

「ちょ、なにを」

「それしかない!このまま二人でいても犬死だ!いいから行けぃ!」

「は、はいぃ!」

 俺は叫びながら、チャラそうだし呼びそうにないな。なんて失礼なことを考え、震える足に剣の柄を当てた。

 …意外に痛かった。当てた場所をさすりながら、震えは止まったことを確認し構える。

 『ピンチはチャンス』

 俺は今、あの言葉に奮い立たされていた。憧れに身を滅ぼすとはこういう事だろうな、と考えながら。

 だが、ここで引くわけにはいかない。エリス様がチャンスをくれた以上、やるしかない。

 勝てる気はしない。でも…!



 ここで引けば、逆境に奮う「男」がすたる!

 スキルの取得は適当でも、あの言葉だけには嘘は付きたくなかった。

 黒い何かが迫り来る中、俺は本当の決意を固め、黒いフードの女に走りだした…!

 

 

 瞬間、それら全てが霧散しフードの女は地面に倒れ込んだ。

 

 

「………え?」

 俺は全速力を出していたせいで止まれず、倒れた彼女につまずいて奥のゴミ捨て場に突っ込んだ…。


************************************* 

 

「……本当にすみませんでした…っ!!」

 ギルドにて。

 すっかり夜の帳が降り、クエスト帰りの冒険者でごった返す中、俺は先ほど襲われたフードの女に謝られていた。

「いや、まぁもういいよ。なんとかなったし」

 俺は飲み物をあおりながら、彼女に苦笑いをした。


 

 あのあと、俺と彼女は一緒にギルドに戻った

 実は、ゴミ捨て場に突っ込んだ衝撃で気絶したため、俺もしばらく経ってから気づいたのだがその頃には彼女は起きて、ものすごいオロオロしていた。

 俺が状況を説明すると、それはもうものすごい勢いで土下座を敢行した。

 流石に申し訳なくなった俺は、同じくオロオロしながら「大丈夫、だだ、大丈夫だから」と言って落ち着かせた。

 ようやく落ち着いた彼女に話を聞くために、こうしてギルドで夕食をとりつつ話をしているわけである。

 ちなみに、あのチャラ女はギルドにはいなかった。チャラ女は所詮チャラ女だったようだ。

 聞けば、どうやら彼女がチャラ女に絡まれていたらしい。

 まぁ、そんな経緯はどうでもいいのだ。

 問題は彼女のことだ。本当に例の黒フードの女なら、このまま安全に事情を聞き出せるかもしれない。

 だが…。


「えーっと、その、もう一回聞いておきたいんだけど。君はアーチャーだったりしないんだよね?」

「は、はい。恐れ多くも、アークウィザードをやっています…」

 彼女はアークウィザードだった。

 よく考えると、あの黒いやつはアーチャーの攻撃っぽくない、まぁ本当だろう。

 どうやら、今回は勘違いのようだった…。

 まぁ、しょうがない。急に目的のラスボスが現れるなんておかしな話だし。

「……そっか。まぁ、いいや」

「その、今回は本当にありがとうございました…」

「いやいや。それについてはさっき散々聞いたしいいよ」

 彼女は、申し訳なさそうにシーザーサラダを食べ始めた。

 俺もステーキを口にする。



 ……気まずい。

 さっきまでは、流れで話していて見ていなかったが、よく見ると彼女、結構な美人さんだ。

 肩くらいまである紺色の艶やかな髪、それに映える白い肌に適度なプロポーションを保った体。

 やばい。美少女だと認識したら、緊張してきた。そして、認識した途端そこそこ大きい二つの双丘に目がいってしまい、変な顔でキョドる。

 落ち着け俺。できるできる俺ならできる。

 と、唱え続けてステーキを完食してしまい「しまった」と焦る。

 上品な仕草でサラダを食べながら、先に食べ終わってしまった俺を見て「遅くてすみません…」と苦笑いで謝る。え、笑顔も可愛いなちくしょう。

 こんな子が仲間になってくれたら…。

 ……ていうか、よく考えたらこれってチャンスじゃね?

 助けた身として、彼女に「せっかくの縁だし、仲間になってくれないか?」と聞くくらいなら、ちょっと軽い感じで言えば大丈夫だろう。

 と、考えたとき未だに自己紹介をし合ってないことに気づいた。

「そ、そういえば名前。言ってなかったな。俺はアイマ。最近冒険者を始めたんだ。クラスは冒険者。最弱職なんだけどさ…」

「あ、わ、私はリースといいます…。先ほど言った通りアークウィザードをしています」

 彼女、改めリースはぎこちない笑いを浮かべて答えた。やっぱ笑顔可愛いなちくしょう…。

 …そういや、あの黒いの。なんの魔法だったんだろう。

「そうだ、あの黒いの。アークウィザードのなんの魔法なの?見たことも聞いたこともないんだけど…」

「…………その」

 聞くと、リースがうつむいて黙ってしまった。

 あ、地雷ふんだ…!

 俺は急いで訂正しようと口を開こうと…。

 する前に、リースが口を開いた。

 

「あれは『影楼かげろう魔法』。私が生まれた、影楼かげろう一族が得意とする魔法です」


「…影楼一族?」

 ……聞いたことがある名だった。

 影楼一族。確か、ある街の一画にだけいる小さな一族だったような…。

「……影楼一族は、かの有名な魔法使い、紅魔族に匹敵する程の潜在魔力を有する一族です。私はその一族のひとりです」

 リースが真面目な顔でそう言った。

 紅魔族…。生まれた時から、優秀なアークウィザードとしての道があるほどの、潜在能力を持つ一族だ。

 それに匹敵する一族とは…。

「……すまん、あんまし聞いたことないや…」

「…でしょうね。まぁ、あまり有名ではないですから……」

 リースは少し悲しそうに答える。

 おおう…。今日は地雷原によく突っ込むなー…。

「…しかし、あれが影楼一族の特別な魔法なら、なんであんな暴走してたの?」

「……実は、影楼一族はある手法を使って影楼魔法ともう一つ、ある魔法を取るのですが…」

 リースはゆっくりと説明しだした。


 

 リースによると、こうだ。

 影楼一族は代々、『合成魔法』と『影楼魔法』を扱う一族。

 その魔力の高さを生かし、上級魔法や前述の魔法を操り活躍する。紅魔族に更に得意なことを足したような種族だった。

 だが、一つ欠点があった。

 前述の二つは、上級魔法以上にスキルポイントを使うため彼らはある手法を使ってこの二つを習得するそうだ。

 それが、代々伝わる秘薬での習得だった。

 この二つのスキルを習得できる秘薬を12歳になる時に飲むらしい。

 だが、この秘薬には体力や免疫力を落とす副作用があるらしく、魔力を使うと人より弱ってしまうらしい。

 そして、彼女は予期せぬ事態に直面すると、焦って影楼魔法をぶっぱなしてしまう傾向があるらしく、それで自我を失い暴れていたらしい。

「そりゃ、また大変だなぁ…」

「これは私の落ち度でもありますから…」

 リースが苦笑いをしながら、サラダを食べる。

 なんというか、おとなしい子だ…。しかもいい子だ…。

 ……よし、決めた。今回の件を使って仲間になってもらおう。ものすごくゲスイこと言ってる気がするが、関係ない。

 欠点はあるが、せっかくの有能で美人なアークウィザードだ。これを逃す手はない。

 俺はリースに仲間を募集していることを伝えようと……。

 


「あの!なんだか故意的に掲示板の目立つ場所に置いてある仲間募集の張り紙を見てきたのですが!!」

「えぇ!?そ、そんなことは…!!あ、アイマくん!いい感じの人を……」

 して、大声がそれをかき消した。



 空気を読んでいるのか、読んでいないのか。

 唐突に来た二人の元気な挨拶が、落ち着いた空気を貫く。

 リースは驚いたように、机の隣で叫んで来た二人を見て。

 

「あの、お仲間を、探しているんですか?」

 と、ぎこちなく聞いてきた。

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