第2話 始まりの街と元ニートの「夢」
気付くと、俺は見慣れぬ街中でポツンと立ち尽くしていた。
……終わったのか。
あたりを見渡すと、様々な人が行き交い、それぞれの生活にあくせくしている。
俺は、無事生き返れたようだった。
…となると、ここは。
「アクセルの街……か」
始まりの街、「アクセル」
世界中の街の中でも、トップクラスに治安の良い街で、初心者冒険者の始まりの場となることが多いこの街は、いたるところからテレポートの行き先に設定されている。斯く言う俺の故郷、「ラティ」でもテレポート屋に行き先があった。
俺は全然関係ないところから送られたため、知らない路地に放り出されているが。
「ほんとに来たんだなぁ…。アクセルに」
まさか、ここに来ることがあるとは。生前はすでに冒険者などやれると思ってなかったため、外に出るとしてもこの街に来ることは考えていなかった。
……と、考え事はこれくらいにしよう。いつまでも立ち尽くしていると怪訝に見られる。
俺は少し歩いて、ベンチを見つけ座り込んで、今後どうするかを考える。
とりあえずは、冒険者にならないと事が進まない。
生き返ったあとは、普通に職を探して一人で暮らそうなんて考えていたのだがエリス様…というかクリスが来る以上、冒険者はやっておかないと怒られそうだ。
何をするにしても、まずは冒険者ギルドに向かうべきだ。
ただ……。
「……手持ちが、ないんだよなぁ」
そう、金がない。
確か冒険者になりに申請するにもお金が必要だったはずだ。なんエリスだったかはしらんが。
だが、転生した直後に気づいたが俺は今無一文だ。それどころか、替えの服さえない。
このままだと冒険者になるどころか、またエリス様のもとへ行くこととなるだろう。それは避けたい。
…バイトとか探すか?単発のバイトなら、なんとか取ってくれるかもしれない。
「よし、取り敢えずは金をなんとか調達しよう」
なんだか、これから巨大な陰謀とか堕女神とかと立ち向かう人のやることではない気がするが、仕方ない。将来のことも考えなきゃいけないしね!
俺は立ち上がって、求人があるようなところを探し出した。
「うーむ、ありがたいが結局ここなのか…」
俺は、行くのは避けようとした冒険者ギルドの中で腕を組んで不機嫌になっていた。
あれから、求人があるところを探し1時間位歩き回った。
道行く人に、「あの、バイトの求人があるところってどこですかね…」なんて情けないこと聞けないので自力で探していたのだが…。
一行にそれらしきところは見つからなかった。
なんだか、既に心が折れそうだった俺は何回か通った冒険者ギルドにダメ元で入った。
そしたら、端の方に日雇いのバイト求人があったのだ。
……なんという盲点。ここに置いてあるのかよ。
「ま、とりあえずは明日できそうな奴探すか…」
俺は気を取り直して、張り出されている求人に目を通す。
土木工事、ある事務所での事務仕事、土木工事、護衛のバイト、建設工事…。
……力仕事のバイト多すぎだろ。人手不足なのか?
ついこないだまで引きこもりだった俺に、力仕事はきついだろう。仕方ないので事務のバイトを取ろうとしたとき…。
「おぉう!兄ちゃん!バイト探してんのか?」
と、後ろから背中を叩かれた。
「うわ!…な、なんですか!?」
「おぉ、そんな驚くなよ。バイト、探してんのか?だったらウチ、こねぇか?」
後ろを振り返ると、すんごいガタイのいいおじさんが立っていた。
いや…これは…確実に土木の人だろ。
「ちなみに、どんなバイトですか?」
「朝からの新聞配りだ」
「あーそうですか、俺には合わな……え?」
え、新聞?
そのガタイからは出ないような仕事内容が出て、俺は思わず聞き返してしまう。
「え、新聞配達ですか?…え、土木工事とかじゃないんですか?」
「あのなぁ…。違うけど、もしそうでも見るからにひょろっひょろなのに誘う奴はいねぇよ」
「あ、はい…」
ちくしょう、こういう人は心に来る剛速球を、なんで躊躇なく投げてくるんだ…。
俺は少し筋トレをすることを決意しながら、肝心のバイト内容を尋ねる。
「えっと、新聞配達ですよね?いつからできますか?」
「お、やってくれんのか?そしたら…」
おじさんに誘われるまま、俺は横のテーブルでバイトの説明を受けた。
次の日…。
「くぁぁ…ねむ…」
俺はあくびをしながら、冒険者ギルドに向かっていた。
昨日勧誘を受けた新聞配達のバイトは、無事完了することができた。
短期で頼んだら、2週間ほどでやってくれと頼まれたため引き受け、給料は当日払いにしてもらえた。
なので、今手元にはその給料がある。早朝、というよりは深夜から準備などの仕事もして大体5500エリス。
申請手続きするなら、十分だろう。その上、バイト中は夜中に行って深夜早朝の仕事をするなら、仮眠だけしに来て構わないとまで言われた。ある意味寝床まで付いてくる最高のバイトである。
取り敢えず、飯などは後で取るとして冒険者の申請だけしよう。
冒険者ギルドにつき、申請手続きをしようとあたりを見渡していると。
「おーい!」
後ろから呼びかけられ、振り返ると。
そこにはつい昨日見た、銀髪の盗賊が手を振っていた。
「!?エリ……むぐ」
「ちょっと!ここではクリスって呼んでってば!」
つい叫びそうになった俺は、エリス…改めクリスに口を塞がれた。
「ぶは…で、どうしたんですか?クリスさん。あれ、もしかして今日話すの?」
「違うよ。いきなり投げ出しちゃうのも大変でしょ。今、どうしてるか気になってね」
……ほんと、なんていい人なんだろう。つい、抱きつきそうになるのを抑えクリスに今の状況を説明する。
「……案外、順調だね。もっと路頭に迷ってるかと…」
「いや、俺もびっくりですよ。こんな順調に決まっていくとは」
そう。バイトの件にしても二日でこの俺がここまでできたのは、奇跡に近かった。
正直、もっと餓死しそうになるとかいう事態になるかと思っていたのだが。
「そしたら安心だよ。さ、取り敢えず申請をしよう!」
と、クリスに手を引かれ「冒険者申請」と書かれた受付まで連れられる。
……女の子に手を引かれるなどという、初めてなことに「う、うふへへ」とか変な声をだしてクリスに引かれてしまったが、まぁいい。
俺は受付のお姉さんの前に行き、冒険者になりたい旨を伝える。
「そうですか、登録手数料として千エリスかかりますがよろしいですか?」
「あ、はい」
俺は封筒から千エリスを出し、渡す。
「はい。千エリスちょうどですね。それでは改めて、冒険者についての説明を…」
俺は事務的に、冒険者になることの説明を受ける。
モンスターの討伐の話、冒険者カードの話。まぁ、常識的なことだ。
「では、こちらの書類に身長や体重などの身元情報をお書きください」
俺は渡された書類に大体の情報を書く。
「はい。そしたら、こちらのカードに触れてください。あなたのステータスがわかるようになりますので、その後職業などを選んでください。レベルを上げ、経験を積めば別の職業に変わることもできますから、それも踏まえて選んでくださいね」
俺は出された冒険者カードに指を触れる。
おぉ、なんか…。これからなるんだなぁ、冒険者に。
普通のことなのに、なぜか高ぶりながら俺は待っていた。すると、カードが淡く光り、そこに様々な数値が書かれていった。
「…はい、大丈夫です。えぇと…。アイマ様、ですね。……筋力、魔力は普通程度ですね…。器用度、敏捷性、知力がそこそこ、といったところでしょうか。幸運も…少し高いですね。うーん…。これだと盗賊職が向いているでしょうか…」
盗賊職かぁ…。
後ろのクリスが、なんかちょっと期待の眼差しをしている気がするが、ほっとこう。
「あとは、ギリギリ戦士やソードマンになれそうですね。ですが、あの、筋力があまりないので…あまりお勧めはできませんね…」
「…………」
「その、お勧めは盗賊ですね…。あとは最弱職になりますが冒険者…これくらいですね」
……選択肢、少ねぇ…。
まぁ、なんとなくこんなもんだとは思っていたが…。受付のお姉さんも、なんだか変な笑みを浮かべている。
………ま、俺の選ぶ職は既に決まっている。
それどころか、俺は既に取りたいスキルまで決まっているのだ。
これは、前々から冒険者になるのなら必ずやろうと思っていたことだ。
覆すわけにはいかない。
俺は、受付のお姉さんを真っ直ぐ見つめ、言った。
「冒険者で、お願いします」
「なんで!?ねぇ、なんで冒険者!?」
冒険者申請が終わり、ギルドのテーブルで遅めの朝飯をとっている俺の目の前で、クリスがまくし立ててくる。
さっきからこの調子である。
「だから、冒険者と盗賊職。どっち取るって言われたら、冒険者でしょ」
「盗賊職だよ!なに、君もしかしてM的なアレなの!?そういうのは私の友人ひとりで十分だよ!」
友人というのはわからないが、Mというのは侵害だ。
俺は皿の野菜を食べ終わると、クリスに説明することに決める。
「…実は、俺、冒険者で取りたいスキルがあるんです」
「……冒険者で?いや、冒険者で取れるスキルは大体専門職で取れるけど…」
「いや、あるんですよ。冒険者でしか取れないスキルが」
そう、世界は広い。そういうスキルがどこかにはあるものだ。
スキルの整合率やクラスの少なさ、様々な要因を経て「すべてのスキルが取れる冒険者」でしか取れないスキルが。
俺は「あるスキル」に執着し、そしてそういうスキルを調べてきた。
そう。これこそが俺の目標であり、冒険者になる理由。
「『二刀流』ってスキル、知ってます?」
「……『二刀流』?…もしかして、あの『二刀流』のこと?」
『二刀流』
数多のスキルな中でも、ネタスキルとして有名なスキルだ。
二刀流スキルは、その名の通り剣などを二刀、同時に扱えるようになるスキルだ。その動きは、まるで舞うような剣さばきとなり、見るものを圧倒する…。
のだが。
この二刀流というスキルは、『片手剣』という戦士やソードマンなどが取る基本スキルと、魔道具職人などの細かい作業がある職業の人が取るスキル『器用』というスキルの二つをとると、自動的に現れるスキルだ。
片手剣のスキルは他のクラスになっても、ウィザードなどのクラスになったりしない限り、使えなくなることはない。だが、器用というスキルは普通の職業用に作られたスキルのため冒険者として他のクラスで扱うことはできない。
その結果、冒険者だけが取れるスキルとなったのだ。
その上、専用のクラスがあるわけでもないのでそのスキルを使っていく場合、一生冒険者になることになる。
これらの理由から、常々「爆裂魔法に次ぐネタスキル」として敬遠されている。
だが、このスキルはある有名な冒険者が作ったスキルなのだ。
そう。俺が憧れる冒険者、「ノヤマシン」だ。
この人は、今は死去し語り継ぐ人は少ないが文献を探せばある程度語られている。
かつて、ある街を魔王軍の軍勢から王都の応援が来るまで一人で、守り抜いた勇者。
それが彼だ。
彼が使った対の剣は、右の剣は闇を切り裂き、左の剣は光を生み出すと言われている。
文献には、大体前述の話しか載っていないのだが、彼が二刀流の先駆けだったのは明らかだ。
子供の頃、この話をあの廃墟にあった文献で知った俺は、とんでもなく憧れた。
文献には彼の言葉が乗っている。
『逆境こそ、男の、人の生きる活力!
ピンチな時こそ自分を奮い立たせ!
自身が積み上げた力を、道を信じ、戦うのだ!』
この言葉に、俺は恥じない男になろうと決めた。
……まぁ、結局引きこもりになったんですが。
それから、俺は二刀流のスキルを調べると同時に、他にもそういうスキルがないかと調べた。
音を創りだし鳴らすだけのスキル、玩具を武器のように扱えるようになるスキル、手品師になるスキル…。
いろんなスキルが、調べるとあった。
そして俺は、いつしかこう、考えるようになった…。
「そんなスキルを、選り取りみどりで扱えるような冒険者を…」
「う、うわぁぁぁ!!」
熱くなり、拳を握りながら語っているとクリスが唐突に崩れ落ちた。
「……?なんですか、なんで急に叫ぶんですか」
「叫ぶよ!これからすごく大事な事件に立ち向かう人に、そんな変な夢掲げられたら叫ぶよ!」
「へ、変な!?」
俺は夢を変呼ばわりされ、悲しくなる。まぁ、確かに変だけど…。
クリスはなぜか頭を抱えたまま、うんうんと唸っていた。
「うぅぅ……君がまさかそんな夢を掲げてたなんて…。ねぇ、普通に盗賊とかになる気は…」
「ないっす」
「……せめて、冒険者として有用なスキルをとっていく気は」
「ないっす」
「…………」
「な、なんですか。なんでそんな呆れた目で見るんですか!」
クリスは馬鹿じゃないの?といった目で見てくる。
い、いや、言ってることはおかしいとは思うけどさ…。
「こ、これが俺の夢なんですもの!俺はこれをやりたい!」
「なんでさ!なんでそんな茨の道を行くの!頼むから普通に冒険者やってくれない!?これ、私上に報告しなきゃいけないんだけど!そしたら、この提案出した私、すごい目で見られるんだけど!」
やっぱ提案したの、この人なのか。
……うーん、クリス、というかエリス様には色々してもらったしなぁ…。
なんかこんな簡単に折るのはあれだけど、しょうがない。これをだしに天界に戻れとか言われたらたまったもんじゃない。
「そしたら、普通のスキルも取りますよ。『二刀流』も『片手剣』と『器用』を取らなきゃいけないですから。そういうスキル、他にもあるんです。そういうのを取りますよ」
「……それさ、取った変なスキルしか使わなくならない?」
「……………」
「ねぇ!?どうなのさー!」
クリスに肩を揺さぶられながら、俺は押し黙る。
「エリス様、言ってたじゃないですか。自分の人生は簡単に捨てられないって。そんな感じです」
「君、こないだまで引きこもってたじゃないか!それにそんな人生観は捨てて正解だよ!それと、ここではエリスって呼ばないで!」
クリスははぁ…とため息をついた。
どうやら、折れたようだ。
「しょうがない…。取り敢えずその『二刀流』スキルを取ることは許すから、ちゃんと捜索はしてよ?」
「まぁ、頑張ります」
「……なんか、こないだまでの熱さがないんだけど。大丈夫?」
「大丈夫です」
正直、そんなんしたくないなんて言えない。
クリスは俺に怪訝な目を向けつつも、頼んだクリムゾンビアーを飲み干した。
「そしたら、しばらくは私、地上で君の手伝いをするから。今日はこのあとバイトでしょう?明日、朝からクエストに行こう」
「え、大丈夫なんですか?」
「ま、急を要する事態だしね。ずっと、ってわけには行かないんだけど」
なんというホワイト会社、天界。俺もうそこに就職したいわ。
クリスはそう言って立ち上がると、笑って言った。
「それじゃ、私はこれから行きたいところがあるから。バイト、頑張ってね!」
**************************************
次の日。
俺はギルドでクリスを待っていた。
あのあと、一緒に働いていた冒険者の先輩から『片手剣』のスキルを習い、装備を軽く揃えた。
まぁ、当たったら危ない胸や頭を守る装備とショートソードだけだが。
初期スキルポイントは大体10ほどあった。微妙な値に、俺は冒険者に向いているのか向いてないのかわからなくなったが、取り敢えず『片手剣』を取り、現在は9。
『器用』スキルは確か2ポイント必要だったはず。『二刀流』はこれもネタスキルと呼ばれる所以なのだが、10ポイント必要となる。そのため、レベルをあげたりしなければ取れない。
まぁ、急ぐ必要はないだろう。
「あ、いたいた。アイマくん!」
名前を呼ばれ、振り返るとクリスがこちらに手を振りながらギルドの入口から入ってきた。
「おぉ、遅かったですね」
「そ、そう?ていうか、朝から来てる君が早いんだよ」
クリスと話をしながら、ギルドの掲示板の前に来る。
今は春。冬を越したモンスターが活発化する時期だ。掲示板には様々なクエストが張り出されている。
「うーん、取りあえずはジャイアント・トードかなぁ。一応、装備してるしね」
ジャイアント・トード。
その名の通り、でかいカエルだ。繁殖の時期になると、草陰から家畜である羊なんかを丸呑みにして体力をつける。この時期は冬眠から目覚め、大量に出現する傾向にある。
クリスはジャイアント・トードの討伐クエストの紙を一つ取ると、俺に見せる。
「取りあえずは、これでレベルをあげようか。あと、帰ってきたら仲間募集の張り紙もつくろう」
「仲間?」
「こういうのはひとりでやりたい人もいるだろうし、あまり言わないんだけど。君に関しては目標があれだから、仲間作ったほうがいいと思う」
……まぁ、そだな。
俺はそれに了承し、クリスは頷いて張り紙を持って言った。
「それじゃあ、初クエスト。いってみよう!」
「『バインド』!……よし、アイマくん!」
「おう」
俺はクリスがスキルによって動きを封じたジャイアント・トードに剣を突きたて、止めを刺した。
俺は、グットサインを送るクリスを何とも言えない顔で見つめた。
今回受けたクエストの内容は、ジャイアント・トード5体の討伐。
初心者には大分美味しいクエストだ。ジャイアント・トードなんて、俺も子供の頃何度か見たことはあるし、少し緊張はするが怖気づいたりはしない。
しないが、このやり方はなんだか怖気づいてしまっている。
今回の作戦は、クリスが『バインド』というスキルでジャイアント・トードの動きを止め、俺が止めを指すというもの。これで、俺のレベルも上げる作戦だ。
神器の回収も
そんなことを考えていると、クリスが近くに来た。
「うん、これで3匹かな。私も魔力が尽きそうだし一旦戻ろうか?」
「そうだな。それじゃあ…」
俺はジャイアント・トードの上から降りると、剣を収めてクリスに頷く。
その時だった。
少し離れたところから、ジャイアント・トードが地面から飛び出してきた。
「ありゃりゃ…。ほっとけないし、倒しちゃおうか。いける?」
「お、おう!」
返事をすると、クリスが腰の短剣を抜いた。
俺も剣を抜いて、ジャイアント・トードに向かう。
魔力が尽きた、と言っていたし今回はさっきのようにはいかないだろう。
俺は気を引き締めて、目の前のジャイアント・トードに走り出し…。
後ろからいつの間にか現れた、ジャイアント・トードに食われていた。
「う、うわぁあぁあクリスぅぅぅ!!!」
「あぁぁあ、アイマくぅぅぅん!!」
クリスの焦った叫び声を聞きながら、俺は粘液まみれの口の中で暴れていた…。
「ひ、ひどい目にあった…」
「ご、ごめんね…。私も油断して敵感知忘れてたよ…」
俺はベットベトの服を引き吊りながら、帰り道を歩いていた。
あのあと、クリスは何か閃光弾のような道具を使って片方のジャイアント・トードの目をくらませ俺を食ったジャイアント・トードを倒してくれた。
ちくしょう、油断とはいえなんという醜態。
まぁ、これから頑張っていけばいいだろう。…そう思うが、このベトベトのせいで頑張れない気がしてならない。
冒険者って、きっついなぁ…。
我ながら折れそうになるのが早すぎると思っていると、前を歩いていたクリスが唐突に振り向いた。
「それじゃ、報告をしにギルドに行ってくるよ。君はお風呂入ってくるといいよ。替えの服とかある?」
「あぁ、こないだ買った。ただ、風呂用の金がないっす」
「……まぁ、私のせいでもあるし。はいお金!」
「へい、すいません」
俺はペコペコと謝りながら、クリスにお金をもらうのだった…。
風呂も入り終わり、ギルドで俺とクリスは飯を食いながら仲間募集の張り紙を作っていた。
「こんなもんかー?」
「ん?どれ……。…うん、珍スキルしか取らない冒険者っていうのは伏せようか」
「えぇ、ダメ?」
「ダメだよ。すごいマイナスだよ」
クリスがジャイアント・トードの唐揚げをほおばりながらぶっきらぼうに答えた。
ちなみに、今回で5体の討伐を済ませたのでクエストはクリアした。
報酬は12万5千エリス。レベルは3になった。
スキルポイントも大分溜まったので、クリスから盗賊スキルの『敵感知』と『罠感知』を教えてもらった。
あまり覚えたくなかったが、無理やり覚えさせられた。盗賊スキルを持っているメンバーが二人は、中々きついと思うのだが。
しかも罠感知はどこで使うのか。そう聞いたら、「そんな使わないから、君にぴったりでしょ」と言われた。なんか、大分こないだのことで辛辣になったきがする。
俺はクリスに書き直した張り紙を見せる。珍スキルの件はオブラートに「冒険者ですが、将来取りたいスキルは既に決まってます!」にした。
「……これならギリギリ大丈夫かな。うん。それじゃ、貼ってこよう」
クリスはその場を立って仲間募集の掲示板に向かった。本当のこと言わなくて大丈夫だろうか。まぁ、そこは紹介の時ゆっくり話せばいいか…。
……しかし、俺はこれからモンスターどころではなく女神や魔王軍と一戦交わらなきゃならんのだよな…。
こないだより嫌になってきた…。
「よし、これで明日からは待ってようか…って何その顔」
「いや、なんか嫌になってきたなぁって…」
「早いよ!もっと頑張ってよ!」
元ニートには、色々きついです。
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