さよならとさようなら
@nekotasan
さよならとさようなら
「さよなら」
微笑んだ彼女は月を握っていた。
意味がわからず見つめていると、手に持った鈍く光る月をゆっくりと胸に刺し入れていく。
赤黒い雫を垂らし、岩上に付けていた足が離れて、目の前を流れる星空に真っ直ぐ落ちる。
どぼんっと音を立て、飛沫が俺にもかかった。
そしてようやく、置いて行かれたのだと気付いた。
「いやだ」
川岸から追いかけるけれど暗い上に足場が悪く思うように走れない。
星を渡る彼女の身体からは、赤のリボンが止めどなく溢れて空を彩る。その美しさと恐ろしさは、前に見た三つの夜空を上回る。
どうにか付いて行けていたが、川が大きく曲がってしまう。追い続けようにも、木々が茂る岸の限界。
覚悟を決め、揺らぐ空に踏み出す。しかし見た目よりもずっと速い流れと冬の水温が足を掴んで離してくれず、赤いほうき星を見送ってしまう。
「まってまってまって」
驚き足で進めるよう慣れた頃には、足の感覚は消え、距離はどうしようもない程開ききっていた。
「待って、
必死に手を伸ばすが届く範囲ではない。
先はまた大きく蛇行していて、遂には姿が消えた。
それでも諦めたくなくて、独りになりたくなくて。前へ、前へ。
どれ程進んだだろうか。身体の熱はもう感じず、足からは彼女と同じ赤いリボンが紡がれていく。それでも進み続けたオレは、気付くと月の船に揺られていた。
何故? 彼女に吸い込まれていったはずなのに。
いや、これは握られていた物ではない。よく見ると差異が多い。形が鋭利ではなく円形で、色も冷たい鉄色だった物が黄金へと変わり、二つの空が見上げ、見下ろし照らしてくれている。
……ああ、そうか。これは紅さんだ。
あの人はこの冷たい星空を下って、月になったんだ。
連れて行ってはくれなかったけど、これからも見ていてくれるんだ。
なら俺はまだ独りじゃない。
……でもいつか。
…………追いついて。
………………また一緒に。
○
高三の年末。普通の受験生諸君は参考書に噛り付いているであろう中。
俺――
受験勉強と銘打ち篭っているこの場所は、母方の叔父であり、俺が通う学校の美術教師でもある人物が保有する二階建ての一軒家。いわゆるアトリエである。
水彩用紙を前に同級生が今握っているであろう物より、遥に柔らかいであろう黒鉛を用い、描いては消してを繰り返していた。昼頃から始めて三時間は経つが、まったく完成に近づいている気がしない。
当たり前、といえばその通りでもある。約五年、俺はこの絵を描けていない。だからそれが、ただ長針三回転した程度の事で終わる道理はない。
けれども今日という今日は無理を通すのだ。
そうでないと、俺はもう、きっと追いつけない。
通り過ぎる景色のような時が、いつの間にか俺をあの日の彼女と同じ年齢にまで引きずり上げた。それはつまり、高三だったあの人と同じ眺めの場所に立ったという事。
足元の鞄から何度も読んだ手紙を取り出す。
『親友、辻久幸へ。
絵を一枚残しました。貴方が幸せな明日へ辿り着きますように。
彼女がいなくなってから明日の十二月三一日で丁度五年。これはその五年前の大晦日で俺に届いていた最後の試練。
残された絵というのはすぐ見つかる。それは花の模写で埋められたスケッチブックと、花の付いてない葉と茎だけの花束を下書した水彩用紙。この二つがアトリエに用意されていた。
花のスケッチはチューリップ、スズラン、カスミソウ等の俺でもわかる物から、見覚えはあるけれど名前がわからない物、見たことすらない物と様々。
きっとこの沢山の内のどれかを花のない花束に合わせろ、という事なのだろうが、これだけの年限を経ても進まなかった。
精神的安定やら何やらと、沢山の理由をこじつける事が出来るが、一番は戸惑っているからだろう。
花言葉というものがある。
それは種類は勿論、色でも変化するもの。
この絵に写すべき花も、これに準じたメッセージを持ったものであることに間違いはないはずだ。
ここに描いたものは彼女の残した言葉になってしまうのだ。
そして俺は受け入れていないから、描く事が出来ない。
山下紅の死を。
理性的な部分では分かっている。確かに死体は見つかってはいないが、あの状況で助かるはずがない。
凍えた夜空。流れたリボン。
それは間違いなく俺の目の前で起きた事。揺らぎようのない事実。
けれど俺は何処かで彼女が生きているのではないか? なんて不山戯た幻想を信じているのだ。
だから俺には何かを描けない。
それでも描かなければいけない。
『貴方が幸せな明日へ辿り着きますように』という唯一決まっている残された言葉のために。
だから俺は正しく解ろうと思った。
あの人の観ていた景色、感じていた想い、伝えたかったことを知りたい。その為に多趣味だったあの人の趣味を片端から真似、彼女の足跡を辿った。ギター、読書、裁縫、料理、そして絵。
それらをファインダーにあの人の心を覗こうとしているけれど、うまくいかない。
俺が受験で今の学校を選んだ理由も同じ。地頭が悪い俺が天才とまで言われた人のいた学校へ行くためにした勉強量は思い起こしたくもない。出来る限り状況をトレースしたかったのだ、そうすれば紅さんの横に立てる気がして。でも上手くいかなかった。
追いかけても追いかけても、手をいくら伸ばしても、何が彼女をあそこへ連れて行ったのかに届かない。伝えたかった事に触れられない。あの日の夜のように。
「んにゃらああああああ!」
思考の螺旋に耐え切れず、手を勢いを付けて振り上げ鉛筆を放り声をあげてみる。
一瞬微々たる爽快感が吹き抜けるが、すぐ気恥ずかしさと鉛筆を取りに行く徒労感が押し寄せた。
投げた鉛筆の為に猫背で腰を上げ、振り返ると。
「そのエキサイトっぷりはまだ出来てないな?」
「……ふむ」
我が叔父にして美術教師の
一見若作りをしたおっさんの品川は、見慣れた物といわんばかりにいつも通り顔をにやつかせている。これは馬鹿にされているからでなく、この人はニュートラルがこれだ。
もう一人の老婆も特に気にした様子はなく、飾ってある美術品に目を向けていた。少しばかり身体は細いが、堂々としていて力強さすら感じてしまう。
これはこれで居た堪れない。むしろ引いてくれた方が反応がラクである。
中腰体勢のままアクションを思案していると、車椅子を押して品川が近づいてくる。
「久幸、お客さんだ」
「は?」
クエスチョンマークで頭が埋め尽くされる。客人というのはこの老婆だろうが、まったく知らん人。それが年末にわざわざ尋ねて来るなんて謎だ。
「はじめまして。久幸君、でいいんだよね?」
軽やかに笑う老婆。話しかけられたのなら、いつまでもおかしなポーズで居る訳には行かない。
姿勢を正し前に立つと、その笑顔に彼女の面影のようなものを感じた。ある程度の想定をしつつも確信のため問う。
「はい。辻久幸です、はじめまして。あの失礼ですが、どなたですか?」
「あらら、失礼はこっちだよ。つい名乗る前に尋ねちまった。あたしは紅の祖母の
やはりであった。そうとわかって見れば随所がそれを匂わせる。
「紅のことで、いろいろ世話をかけたみたいだね」
「世話になったのは、なっているのは俺ですよ」
終わった事のように話すのは抵抗があってつい言い直してしまう。
山下幸子。名前だけは何度か耳にしていた。
たしか、癌で入院していると紅さんが話をしていた。
さわりを聞くと、終末医療だとなんの躊躇いもなく口にされる。
間違いなく地雷を踏み抜いたと押し黙ってしまうが、どこか聞き覚えのある笑いを幸子さんはあげ、言葉を続けた。
なんでも寿命宣言をとっくに、五年程ぶっちぎっているんだとか。
中身のない感嘆をあげそうになる瞬間、その年数に自ずと眉が潜まった。
「五年。ですか」
ただの驚きではないニュアンスを受け取ったのか、幸子さんは口角をゆっくりと下ろして、定めるような視線を向けてくる。
「そう五年だよ」
「どうして俺に会いに来たんですか?」
世間話ではなく、一気に核へと踏み込んでいく。それがずっと欠落しているもので、花開かせてくれるかもと思うと、再び奇声が上がりそうだ。
「約束なのさ。……保正、お茶を用意してくれないかい」
意味深なことを呟き、品川を呼ぶ。
「ああ、気が利かずすいません。いま準備しますね」
品川は車椅子に掛けていた袋から、有名な洋菓子店の名が書かれた紙箱を取り出しキッチンへ向かった。
彼はイタリアに渡っていたこともあるらしく、コーヒーへの拘りが異常に強い。下手をすれば芸術よりもだ。そのせいでいつも準備を始めてから出てくるまでにいつも十分はかかる。
幸子さんもそれを知っていて頼んだのだろうか?
この先の話を俺にする為に。
「……五年前、紅がお見舞いに来てくれてね。そん時あたしはお願いされたんだ、五年後にアンタに会ってほしいってね」
その約束を果たすために幸子さんは俺の前にやってきたようだ。しかし何故五年後なのだろうか? 会ってどうしろという事なのだろうか?
花が開くどころか、また新たな謎の種が落とされる。
「なんの為に?」
あまりに直接的過ぎる質問。きっとこの問の答えを持ち合わせていないだろうが、それでも聞いてしまう。残された時間がわずかな今、縋れる物ならなんでもよかったのだ。
「さあねぇ」
やはりである答え。
彼女は、本当に何をしようとしたのだろう。
「人の気持ちとかさ」
再び螺旋に落ちようとしていた所を、ポツリと漏れた言葉が掴みあげる。
「誰が何をしたかったかなんて、いくら考えても解らんのかもねぇ」
それは肯定してしまうには、あまりにあんまりなモノだ。それでは俺の五年間の意味が消えてしまう。
何か反論をしようと口を開く。
しかし先に言葉が出たのは幸子さんの方だった。
「……だから精々出来るのは、そいつをどう受け取って、何が出来るか考えるくらいなんじゃないかとあたしは思うよ」
きっと何処かで理解していた、したつもりになっていた事だった。
彼女が残した絵。
正解なんてわからなくて、元から無いのかもしれなくて。
だから俺が出来ることは。
「…………ごめんなさい、急用を思い出したんで行ってもいいですか?」
「ああ、気にせずいきな。保正には言っておくよ」
「ありがとうございます」
室内を駆け扉に手をかけた所で、幸子さんが声をかけてくる。
「そうだ、あの子の好きだった花はね」
「大丈夫、わかりきってますよ」
言い切らぬうちに扉を閉めた。そして外に飛び出した瞬間走り出す。
彼女の為に、俺の為に。
「あれ久幸は?」
「もういっちまったよ。なぁ保正」
「はい?」
「あの子は本当に紅と似ているねぇ」
「当たり前じゃないですか。久幸はこの世でただ一人、彼女の親友ですからね」
○
季節は梅雨。
ここ数日雨が降り続け、まといつく湿気がストレスになっていた所で昼間に梅雨晴れ。
不快指数だけでなく気温まで跳ね上がっていたが、日が落ちた今は温度計を見る分には大した事は無い。
しかし体感気温はそんな事がなく、やるせない暑さが汗を呼びシャツを張り付かせる。
せめて風が少しでも吹いてくれれば……。なんて考えながら少し開けた山道を紅さんと二人で歩いていた。
遡る事二時間前。いつもの週末通り品川さんのアトリエに入り浸っていた俺は、突如「川に行く」と言い出した紅さんに、一時の帰宅も許されぬまま引っ張られた。
品川さんが連絡はしておくと言っていたから俺の親は大丈夫だろうけど、俺自身はこんな夜に人気のない場所で二人きり、という現状が大丈夫ではなかった。
「ヒサはさー」
「っはい!」
二人でいることを意識していたせいで、急に掛けられた声に大きく反応してしまう。心臓がばくばく動いているのが自分で良くわかる。
「驚きすぎでしょ……」
「すみません。で、なんでしょうか」
「好きな人っているの?」
「はあぁ!!??」
「だから驚きすぎでしょ」
「すみませ――いや今の驚きは適正です!」
またこの人は突飛なことを言い出した。顔が熱くなり、さらに胸が激しく高鳴る。
「アハ! その反応はいるなぁ?」
によによ口の端だけを器用に上げて笑う。この顔はからかってくる時に見せるものだ。わかってはいるが妙な恥ずかしさで言葉詰まらせ、つい俯いてしまう。
「かわいい反応~。だれ、ヒサのクラスの子? 私も知ってるかな」
「い、いません!」
わざわざ顔を覗き込んでくる。とっさに跳ね避けるが、甘い蜜のような匂いが鼻をくすぐる。
ヒヤシンスという花の香水を使っているらしく、嗅がせてもらったこともあったが、こんなに甘ったるい匂いではなかった気がする。
せっかく避けたのに彼女を強く意識してしまう。
「もしかして。わたし?」
人体が許すのなら俺は顔から火を吹いていただろうか。いたたまれなくなり道を全力で走り出す。
紅さんが何かを言っているがそれもうまく聞こえない。とにかくこの火照りを鎮めるため、一足先に川を目指す。
途中、濡れた地面に足をとられそうになるが、どうにか踏ん張った。ここから先は出来る限り下に注意を置く。
さっき彼女の言葉は核心を突いていた。
出会ってからまだ二ヶ月半程度でしかないが、俺は紅さんが好きだ。
きっと異性として。
始めて会ったのは品川さんのアトリエ。
品川さんの生徒だそうで、漫画を借りに行くとそこで絵を描いていた。
まずはその美しさに驚いた。少し明るく流れる長髪、黒い虹彩の眠たげな瞳、形の良い唇。そしてあまりにも女性的な身体のラインが、俺の目を奪ったのを鮮明に覚えている。
端麗さゆえ、蜃気楼のような雰囲気を漂わせる彼女。
その時はまだ綺麗な人、それくらいの認識でしかなかった。
しかしいつだったか、紅さんが一人でいる時、遠くの何かを視ているのを知った。
視ていたそれはきっと物ではなく、あくまでもナニかでしかないんだろう。俺はその時の儚さ、本当に虚像であるかのような怖さに惹きつけられた。
そして話してみると馬が合うというか、やけに会話が心地よかった。それからどんどん仲良くなって今に至る。
そんな憧れの女性。
気恥ずかしくなって逃げてしまったが、惜しいことをしたのかもと今更ながら考えてしまう。
じーじーと気の早い蝉の声が煩わしく思えたが、聞けるほどには頭が冷静になっているのだと気付いた。
そのまま進んでいくと、水の流れる音が聞こえてくる。
携帯を取り出し時間を確認するが、大して進んでいない。
結局二、三分走った程度で着いてしまったようだから、あの人もすぐ来てくれるだろう。
けれどさっきとは違う意味で身体が暑い。涼を求めるため、彼女を待たずさらに駆けると早くも川へ着く。
水の音が強く、気温も下がった気がする。
とにかく息を整えようと顔を上げると、星があった。
多くの光が揺れ浮かび、消え、そしてまた光る。不思議な光景だった。淡く緑に燈るそれは。
「蛍。すごいっしょ?」
「……はい」
いつの間にか追いつかれていたらしい。けれどさっきまでの羞恥心はどこにもなく、ただただ眼前の灯りに目を奪われる。
そう、蛍だ。
実際に見るのは初めてで、その数は十や二十ではきかず息を呑むばかり。
よく見ると水面に沢山の光が反射している。緑だけでなく青白い物も観えた。
謎が浮かぶが、上を見上げるとそれはすぐ四散する。満天を埋め尽くす天の川を映しているのだ。
三つの星がそれぞれ光る。
空、蛍、そしてキャンバスとなり二つを同時に映す川。
沢山の灯が現と幻の境を完全に取り払っていた。
「ここね、誰も連れてきたことないんだ。私の秘密の場所」
三重の星に照らされた紅さんの顔は寂しそうで、けれど真っ直ぐに何か視ていた。
その横顔にまた心拍数が上がってしまう。せっかく落ち着いたのに元の木阿弥、むしろ強くなった気さえする。
ああやっぱり俺は、この人に恋をしているのだ。
「俺、好きな人います」
ぽろっと口にしてしまった。
どうも幻想的な景色は人の思考と口をゆるくしてしまうらしい。
好意を自覚してしまった今、せっかく塞き止めていた感情が溢れてくる。
うまく形に出来なくてもいい、ただこれを伝えたい。その一心で告げようとした言葉。
しかしそれは俺の口の前に出された一本の指で止められてしまう。
「すとっぷ、それ以上は聞かない」
何故? 次は疑問ばかりで、感情が行き場を失くす。
「その気持ちだけは受け取ってあげるよ。でも、応えてはあげない。いつかキミには私の全てを譲る、だから、応えてあげない」
「どういう意味ですか?」
「まあとにかくだよ。もう帰ろうか、時間も遅いからね」
どうにも理解が追いつかない。紅さんは踵を返して歩きだし、俺もそれについていく。現実に引き戻された俺は、不思議な光が名残惜しくて振り返る。そこはまだ幻が在った。
○
日付が変わり十二月三一日、これで丁度五年だ。
俺は花束を抱え、久しぶりになんども通ったはずの開けた山道を進んでいる。
突き刺さる寒気が心地よい。
空は既に白み、もうすぐ日が昇るだろうか。
昨日の夕方花屋に行き二種類の花を買い、またアトリエに篭った。
一つは白いヒヤシンスの花。やっと絵に写す言葉を決めた俺は、被写体のため買いに走ったのだ。
何かを決められるのは常に自分だけ。そういえばそんな事を彼女にも言われていたと、描きながら思い出して笑ってしまった。
あの絵は呪いだったのか。祝福だったのか。
それを決めるのが人の心だ。
もう一つの花は俺の手に握られている。
花屋に着くまでは季節外れだからと心配したが、運が良かったのか案外簡単に見つかってくれた。
だんだん川の音が近づいてくる、もうすぐだ。
太陽も昇り始めている。その前に着きたい俺は少しだけペースを上げた。
辿り着いたそこは相変わらずだった。
ただ朝に来るのは初めてだったので、同時に新鮮でもある。
始めて二人で観た場所に立ってみる。
あの時よりも観える景色が少し高い。
次に、見送った場所に立ってみる。
そこから、少し歩いて手を伸ばしてみると、もう川中に手が届きそうだ。
そして最後に彼女が立っていた場所に立つ。
結構高く、五メートルはありそうだ。
けれどここから視える景色は美しかった。
俺は手に持っていた、白く小さい沢山の花束をビニールから取り出す。
カスミソウだ。本来は五、六月の花だが、ブーケなんかに使われるらしく取り寄せていたそうだ。
その花を俺は川に投げ込む。
ゆっくりとあの日のように落ちていく。
けれど落ちる物も、観ている場所も、意味も違う。
ヒヤシンスが彼女の残した言葉なら、このカスミソウが俺の答え。
東の空から光が昇ってくる。
それはまだここに残っていた幻の三つの光をかき消していく。
黄金色に煌めく世界。これは一瞬だ。すぐに銀色になり、今年最後の青へと変わる。
俺はようやく、あの人に追いついた。いや追い抜いたのだ。
これからも世界は続くのだろう。
だからこの言葉をあの人に送ろう。
終わりと。
はじまりの為に。
「さようなら」
さよならとさようなら @nekotasan
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます