ロスト・ブレイブ

第27話 いつからか世界は

「何も変えられない・・・・・・」

雨が降り注ぐ魔界の中、一人の魔族の少年が呟いた。

近くには魔族の少女の死体。

そして人間と争った跡。

「殿下、どこに行ったのです?」

黒い煙と共に一人の仮面を付けた黒いローブを着た壮年の男が話しかける。

「いい加減、あきらめて魔王としての仕事をしてください、魔界の者も既に痺れを切らしております」

ローブの男は焦った口調で言っていた。

「もう・・・・・・どうだっていいや」

紫色の瞳の中にあった微かな光は枯れ果てた涙と共に消えてしまった。

「いつかこうなってしまうって思ってた・・・・・」

「殿下・・・・・・?」

その後、魔界の王の復活と共に世界は混乱へと導かれていく。

悪意として生まれた魔物の存在。

次々と力をつけていく悪魔達。

それに魅入られ狂う人間。

そして、人間達の中で狂う人間。

「世界ってこんなつまらなかったっけ」

少年は破壊の快楽だけを糧に生きていくことになった。




「ウィンデーネの力を授かりし、種族にはむかう気か!」

「我らの土地は少ないはず!なぜ!?」

「聖剣を頂くついでだ、素質がある者も多いと聞く」




「こいつはだめだ、泣いてばかりの臆病ものだし」

「奴隷商にでも売っておけ」

「次・・・・・・、青の魔力か・・・・・・、ふふ回復士になれるな」




「力だ・・・・・・、力さえあれば魔物にも怯えなくていい!!」

絶対的力、それだけがルール。

そう信じた王は、その為に侵略をし覇道を突き進んでいた。

人間の”帝国”は他の種族を次々と侵略し、その覇道を阻んだ種族は次々と淘汰されていく。

「駒が少なくなってきましたね、勇者の力に目覚めたのは一人だけですか、候補にしても少なすぎますね、しかしそれも戦う気力のないような子供」

駒として扱う内に命を落としていく選ばれし者達。

「予定通りには動かぬか、まぁよい」

「無理やり動かせばいいだろう、ちょうど魔物使いがやっているような方法で」

「・・・・・・もうやめませんか」

その声に王は怒りではなく苦しみと焦りを表す。

「今更止まれない、取り込んでない種族は人間を敵だと思っている」

「斥候部隊に勇者候補を捕まえさせ、教育を施せ、自分では何もできないように命令を聞くだけの人形にしてしまえばいい、幸いその勇者は精神的には既に狂っているようだからな、納得もしてくれるだろう、一刻も早く魔物を駆除し、魔王を討伐せねば」






「ネイト君・・・・・・しっかりして!!」

「声が・・・・・・!!」

ネイトの力は危険な領域まで進化しようとしていた。

「僕の記憶じゃない・・・・・・!」

ウィンデーネ族の持つ素質、勇者の力、数々の実験による変化、そして悪魔化進行による能力の上昇。

ネイトの体はまともじゃなかった。

「助けて・・・・・・」

森の中で蹲り1日が経っていた。

「ネイト君・・・・・・どうしてっ・・・・・・」

リリスの中で焦りや不安が募っていく。

「ネイト君、何か食べないと・・・・・・!」

「今話してるのは誰・・・・・・?」

時系列も人物もばらばらな記憶が自分に流れてくる。

「勇者の力・・・・・・、こんなものなくても私はネイト君の事が・・・・・・」

「どうして・・・・・・、なんでネイト君にこんなっ・・・・・・」

自分の探し出した最高の玩具が運命に壊される悔しさなのか。

それとも、ただ悲しいのか、哀れんでるのか。

「もういい・・・・・・もういいよ、僕の事は忘れて・・・・・・ぐっ」

「ネイト君このままじゃ、頭おかしくなっちゃうよ!」

皆の欲望を全て詰め込まれた器は壊れかけていた。

「誰かのせいじゃない・・・・・・僕自身が弱かったことが・・・・・・っ」

ネイトの目からその時光が消えた。

ネイトは倒れこんだ。

「ネイト君!?」

リリスは直感で感じ取ってしまった。

ネイトの胸に手を当てても何も感じない。

「何でっ何でさ・・・・・・」

リリスはその時涙を流した。

「もうわかんない・・・・・・、どうしてっ」

リリスは泣き終えた後、ネイトが動かないのを見て、その場を去った。

「・・・・・・、そっか希望なんて最初からないんだ」




「人間・・・・・・」

「私たちはコイツを知っている」

「どうするんですか?」

獣の鳴き声が響く。

「同じ事をそのままだ」

獣は少年に涙を落とすと、少年は息を取り戻していく。

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