第25話 狂いだす運命
「ネイト、お前はそいつに何をされたんだ!?」
レイは呟いた。
「助けてもらったんだ・・・・・・絶望から、初めて希望をもらったんだ」
リリスはネイトの背後からネイトを抱きしめていた。
「ネイト、そいつの事を完全に信用できるのか?」
レイに今まで感じたことない不安が襲った。
「・・・・・・、信じたい」
ネイトの言葉はどこか自信がないようだった。
「ネイト、そいつと何があったんだ?」
バルトはネイトを傷つけないように精一杯平常心を保とうとした。
だが、冒険者としてバルトもまた、悪魔に取り浸かれた人間の末路を知っていた。
狂い、存在が邪悪になっていく。
バルトにとってネイトがそうなるのは耐えられなかった。
リリスは二人の焦りを知り、多幸感を感じていた。
「奴隷だった・・・・・・、僕に優しくしてくれたんだ・・・・・・」
ネイトは身の上話を話した事が無かった。
二人はネイトについて何も知らなかった。
その一言だけで、どれほど酷い過去だったかが想像できた。
「この子は人間なんか信じてない、信じることなんてできないんだよ」
リリスはネイトに言い聞かせるように言った。
だが、ネイトもそれは自分でも気付いていた。
自分が人間を信用してないことに。
「確かに僕は人が怖い・・・・・・、でも、僕は信じたいんだ・・・・・・」
バルトはもう自分がどうすればいいのかわからなかった。
ネイトの心の闇は自分ではどうにもできないような気がした。
「・・・・・・、ネイトはお前と居れば幸せなのか・・・・・・?」
バルトは呟いた。
「おいっ何を考えてる?」
レイだけが、この状況でリリスを危険な悪魔として認識しているようだった。
「俺はネイトを助けてくれるなら、もし悪魔だったって・・・・・・」
バルトはネイトを救う道は勇者としての生き方を捨てさせることしかないと感じていた。
「ネイトがネイトじゃなくなるとしてもか?」
レイは呟いた。
「例え変わってしまっても、ネイトはネイトだよ」
バルトはリリスがネイトの事を大事にしているのだけは分かった。
それだけで十分だと思った。
「お前は、ただの呪いだ!」
レイは短剣を取り、リリスを睨んだ。
「傷つけないでっ・・・・・・!僕の家族なんだ」
ネイトがリリスの前に立ち、リリスを守ろうとする。
「離れろ・・・・・・、そいつはお前にとって呪いでしかない」
バルトもレイの行動を見て、少し戸惑った。
「レイ・・・・・・、ネイトにとっては家族なんだよ」
だが、バルトには止めに入ることもできなかった。
自分でも何が正しいのかわからなかった。
「ネイト、もしお前がそいつを選ぶなら俺はお前の元から去るぞっ!」
レイはネイトを真剣に見た。
レイも相当焦っているようだった。
「おいっ、どうしてそんな酷いこと言うんだよ!」
バルトにはレイがどうしてそこまでできるのか理解できなかった。
予想以上にその言葉はネイトに響いた。
「・・・・・・選べない・・・・・・選べないよ」
ネイトは戸惑い混乱し始める。
「どうして・・・・・・みんな家族なのに・・・・・・」
「嫌だ・・・・・・嫌だ・・・・・・」
目は生気を更に失い漆黒に染まっていく。
ネイトはその場でいることが耐えられなくなり耳を塞いで、逃げ出した。
リリスは一瞬こちらを冷たい表情で睨んで、煙となってネイトを追っていった。
「待てっ!!」
バルトも追おうとするが、ネイトに追いつけるはずもなかった。
ネイトは獣のように森を駆け抜けた。
「・・・・・・レイ、あんたみたいに皆強くないんだよっ!」
バルトはもう二度とネイトに会えないような気がした。
いつになく取り乱していた。
レイも内心ではどうすればいいのかわからなくなった。
「俺はただ、ネイトを守りたかっただけなんだ・・・・・・」
自分の言葉がどれだけネイトを傷つけたか。
「きっと、俺は心のどこかで、まだ勇者を望んでいるのかもしれない・・・・・・」
レイはその場から歩き出した。
「おい、どこへ行くんだよ?」
「着いて来るな・・・・・・、俺は結局ネイトに何もしてやれなかった、俺が連れ出したりしなければリリスに会うこともなかっただろう、結果としてあいつを振り回してしまった。」
レイは自分に自信を無くしていた。
何を持って大人なのか。
「レイ!!」
バルトの声を聞くが手を震わせながら、来るなという仕草をした。
「俺みたいな大人がネイトみたいな不幸な奴を更に不幸にしてしまうんだ・・・・・・、俺はネイトやお前の所に居るべきじゃない・・・・・・居ちゃだめなんだ」
レイは涙を流していた。
自分に対する怒りや後悔。
何もしてやれない虚無感。
「・・・・・・俺は諦めない、例え世界を敵に回しても、ネイトだけは救ってやる」
バルトはネイトを探しに走り出した。
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