第23話 友人
「・・・・・・、ネイトは今どこにいるんだろうな」
レイは溜め息をついた。
「あいつの事だから、また一人で抱え込んでるんだ・・・・・・、どうすりゃいい」
バルトは心配だった。
「あいつは全てを捨てたようだったが・・・・・・」
レイは呟いた。
「・・・・・・でもやっぱ信じられないよな」
あの時のネイトには優しさが感じられなかった。
冷酷な雰囲気を漂わせていた。
「やっぱり、あの時、の"アイツ"はネイトじゃない気がする」
バルトは言った。
「俺もそう思う、とりあえず手配されてるし、行く当てもないな」
レイは呟いた。
「獣人以外の擬態となるとばれやすいしな、大きく分けて人族、精霊族、獣人族しかまだ無理なんだ」
バルトは溜め息をついた。
「とりあえず、リュックも道具だけになったし、食料集めに森の中へ入るか」
レイは草を掻き分けて森の中へ入った。
バルトもレイを追ったが、ふと妙な気配を感じた。
「魔族の気配がすると思ったら・・・・・・、どうやら悪魔を逃がした奴の仲間のようだな・・・・・・、あのネイトとかいういけ好かない野郎の仲間ってわけだ」
振り返ると白髪の少年・・・・・・、ライアンだった。
「誰だお前は?」
バルトは殺気を感じ睨む。
「賞金稼ぎの類か?」
レイはライアンの装備を目で確認した。
恐らく、目に狂いがなければあれは王家で保管されている聖剣だ。
「お前その剣をどこで?」
レイは尋ねたがライアンはその剣に炎を灯しバルトに切り掛かった。
「まずいっ!」
レイが叫んだ時には遅く、バルトはその炎の剣に一撃を受けてしまった。
「ぐぁぁぁ」
バルトの体に大きな切り傷が入るがその周りは焼けていた。
「・・・・・・、人を殺すってことは殺される覚悟があるんだな」
レイは一瞬にして背後に行き、ライアンの足元を強く蹴った。
ライアンは転倒しかけるがすぐに振り向く。
「俺には悪魔は相手にできないがてめぇみたいなガキの相手なんざ、朝飯前だ」
ライアンが剣を振ろうとするとその剣を持つ手はレイにより受け止められ、身動きが取れなくなる。
そしてライアンは強く蹴り飛ばされる。
「懲りたらここで見たことは忘れるんだな、まだ若いから殺すのだけは勘弁してやる・・・・・・、それにネイトやバルトに合わせる顔がなくなるしな」
しかしライアンはにやりと笑った。
ライアンは剣から炎の衝撃波を放った。
「どこを狙ってっ・・・・・!?」
ライアンが狙ったのは負傷して動けないバルトだった。
「くそったれ!」
レイはバルトを庇い炎の衝撃波を受けてしまった。
「ったく、ネイトやバルトとずっと居たせいで、俺も甘くなったな・・・・・・」
レイは弱い声で笑うと倒れた。
「終わりだ・・・・・・」
ライアンは剣をバルトに刺そうとした。
その時だった。
ライアンは大きな衝撃を受け木に吹き飛ばされる。
木の枝は折れライアンの体に刺さって貫いた。
「・・・・・・声が、知っている声が・・・・・・聞こえると思ったら・・・・・・」
そこに駆けつけたのはネイトだった。
ネイトはバルトとレイの姿を見てライアンに対して激怒をした。
だが、その時のネイトは確かに涙を流していた。
「泣き虫・・・・・・治ってなくて安心した・・・・・・」
バルトは意識を取り戻し、ネイトを見て呟いた。
『その子、私も大嫌いなんだよねー、それにネイト君の友達も酷い目に合わされたね、"殺しちゃえば"?』
「許さない・・・・・・僕の大切な人達を・・・・・・」
その時のネイトの力は完全ではないものの、ある程度上限が解除されていた。
その為、バルトやレイから見ても、以前とは次元の違うレベルの強さだった。
「化け物がっ・・・・・・、お前なんかがどうして・・・・・・勇者に!」
ライアンは血を吐きながら叫んだ。
「だめだ・・・・・・僕はこの人を殺してしまうかもしれない・・・・・・」
それを聞いたバルト、とレイは異変を感じた。
木の枝に刺さったライアンの首を持ち、強く引き抜く、そして地面に叩き付けた。
「ネイトもうやめてくれ・・・・・・!」
「落ち着け!」
二人の声を聞きネイトは動きを止めた。
『何でやめたの?殺してしまえばいいんじゃない?』
「ライアン、どうして君は平気でこんなことができるの・・・・・・?、君は動けないバルト君を狙ったんだ・・・・・・!!」
ネイトは駆けつけているとき、ちょうど炎の衝撃波が動けないバルトに向けられているのを見た。
「優しさなんていらない・・・・・・、魔族も、悪魔も、それに加担するやつらも全員消えてなくなればいいんだ!!」
ライアンはその時心では泣いていた、恐怖を感じていた。
ネイトはそれを感じ取った。
親友を傷つけた相手であろうと、命であることには変わりなかった。
ライアンの胸の大きな傷と止まらない出血。
自分のした事を意識を取り戻すかのように気付く。
「違う・・・・・・こんな・・・・・・んじゃ」
ネイトは傷口に手を当てて、回復魔法で治療をする。
ライアンは苦しみ血を吐きながらも傷は癒えていく。
「・・・・・・どういうつもりだっ!」
傷が治ったライアンは立ち上がろうとするが、体の力を失い意識を失う。
ネイトはバルトとレイの回復もしていく。
「助かったぜ、ネイト」
バルトはにこりと笑った。
その時、ネイトの心が少しだけ救われたような気がした。
「気にするな、死んでなければ大丈夫だしな、ったくいけ好かない奴だ」
レイもネイトの苦しみを軽くしようと優しい言葉をかけた。
「・・・・・・で、どうするんだ、そいつ」
バルトは不機嫌そうに呟いた。
『殺しちゃえばいいのに』
ネイトの中でリリスが呟く。
「・・・・・・っ」
ネイトは少し苦しそうな顔をした。
「おい、大丈夫か?」
バルトは心配そうにネイトを見た。
「・・・・・・、ごめん、僕はもう壊れちゃうかもしれない・・・・・・」
ネイトは弱々しい声で呟いた。
「お前に今何が起きている?言ってくれないか」
レイはネイトを真剣な表情で見つめた。
「せっかくの友達なんだから助け合おうぜ」
バルトのその言葉にネイトは話そうとする。
だが、その時ネイトの中で黒い感情が蠢く。
それは破壊衝動だった。
目の前の物を傷つけたい。
目の前の物を壊したい。
破壊した時の声、音を聞いてみたい。
この破壊衝動は以前薬を服用している時の状態によく似ていた。
「なんで・・・・・・!?」
『忘れたかな?君は仲間と居たら、仲間を不幸にしちゃうんだよ?』
「言えない・・・・・・」
涙を流しながらネイトはしゃがみ込んだ。
「ごめんっ!そんなに辛いなら・・・・・・」
バルトはすぐ、ネイトの前に立って肩に手を置いた。
「バルト君・・・・・・僕が居ると・・・・・・みんな不幸にっ」
ネイトはバルトや、レイ、そしてリリスまでもに家族のような感情を抱いていた。
「傷つけたくない・・・・・・からっ」
嗚咽しながらネイトは言葉を発した。
「無理しなくていいから」
バルトはいつでも優しかった。
知るべきことでもネイトが嫌がれば聞くことはなかった。
ネイトの事を否定しなかった。
『家族が欲しいんだね・・・・・・』
リリスは少し動揺していた。
心が揺らいだのだった。
その時ネイトの破壊衝動は消えた。
「はぁ・・・・・・やっとっ」
ネイトは破壊衝動を抑えるのに力を使い果たし倒れこんだ。
「ネイトっ、大丈夫か!?」
「とりあえず、もうここで、野営するから二人の様子を頼んだぞ」
レイは野営の準備を始めた。
目を瞑ったネイトを見ると涙が一粒流れていた。
「ネイト・・・・・・、どうにかして助けてやらないと・・・・・・」
バルトはネイトを助けることに必死だった。
バルトにとってもネイトは無くてはならない存在になっていた。
まるで弟のような、他人ではない気がしているのだった。
「・・・・・・、こいつは大丈夫なのか?」
ネイトにあれだけの事をされて、無事でいるか心配だった。
以前のバルトならばもしかすると放っておいたかもしれない。
だが、バルトも少なからずネイトの優しさの影響を受けていた。
胸に目立った傷はないようだ。
全て傷は、塞がっている様だった。
だが、肩のところに大きな傷跡が見えた。
「なんだ!?」
ライアンの背中を見ると大きな鞭で打たれたような傷がたくさんあった。
そして、何より魔方陣のようなものが描かれていた。
「こいつも、訳ありってわけか」
その時、ふと、床に落ちている写真を見つける。
それは綺麗な白髪の少女の写真だった。
場所は診療所のようだった。
「・・・・・・これは?」
バルトがその写真を眺めていると、ライアンが起きあがる。
「お前、もう大丈夫なのか?」
バルトは回復の早さに驚いた。
「そいつを返せっ!魔族!」
ライアンが敵意の表情でバルトを見た。
「すまんな、盗み見るつもりはなかった。」
バルトは少しライアンに対しての見方が変わった。
「お前も訳ありっぽいな」
「わかったような言い草をっ」
しかし、ライアンは今すぐバルトを襲うようなことはしなかった。
「・・・・・・、また暴れたりはしないんだな」
バルトは写真を見つめるライアンを眺めた。
「戦う気がうせた、それだけの話だ」
ライアンはそっぽを向いた。
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