第22話 支配
リリスのネイトに対するこだわりを興味が超えてしまっていた。
リリスはネイトがどうなろうが、ボロボロまで遊び倒そうと思った。
ネイトはリリスの変貌に驚きながらも、リリスを拒否することが出来ずに居た。
長い長髪をローブで隠し、いつも何かに怯えている純粋な少年。
悪魔にとっては最高の玩具だった。
ネイトは数日間誰にも会わずにただ森の中で見つけた名も知らぬ食べれそうな果実の木を糧に暮らしていた。
『君が強い悪魔になれるだとか、もうどうでも良いことだよ♪それに君に悪魔として新たに得る力・・・・・・なんて必要なさそうだからね』
リリスの言葉を聞く度にネイトは"リリィ"を思い出していた。
『二度と誰にも触れないような・・・・・・綺麗な花にしてあげるから・・・・・・』
リリスによってネイトの内面は変化していく・・・・・・。
感情が波を立てて変化していく。
この数日、リリスが与え続けたのはあらゆる恐怖と悲しみだった。
「リリス・・・・・・、どうしてこんな酷い事をするの?」
ネイトは今までの悲しい記憶や、人に対する恐怖を思い出していた。
リリスによってネイトは、臆病になっていく。
『怖いでしょ・・・・・・?世界に適応できないこの姿が・・・・・・あなたの本来の姿だから』
リリスはネイトが悩みを振り切ろうとしていたのを見て、危機感を感じていた。
それは、自分の知っているネイトを失う危機感だった。
その焦りが彼女を駆り立てたのだった。
「・・・・・・やだよ、こんなの・・・・・・」
ネイトは耳を塞いで蹲っていた。
何も聞きたくなかった。
ただ、耳を塞いでも聞こえるのは誰かの感情や助けを呼ぶ声、魔物の気配だった。
『ここ数日、ネイト君は、助けを呼ぶ声を無視してるみたいだね』
それを聞いてネイトは歯を噛み締めた。
「人間が怖い・・・・・・、人間だけじゃない・・・・・・、僕は命が怖いんだ、いや世界自体かもしれない」
リリスはこの様子に満足した。
『ネイト君は私の仲間だね♪』
リリスは呟いた。
その言葉に対してネイトは動揺した。
「仲間・・・・・・?僕と君は違う・・・・・・、君は僕よりずっと強いよ」
悪魔であるリリスにはまず善悪の違いを普通の勇者ならば言ったであろう。
しかし、ネイトにはその善悪の区別さえわからなかった。
何をもって善なのか、悪なのか。
彼はこんな事をずっと考えては世界を計り知れないものとして恐怖していく。
『私も人間になれたら、こんなに娯楽に飢えなくても済むんだけどなー』
リリスのふとした呟きはネイトに大きな衝撃を与えていた。
「人間に・・・・・・なりたいの?」
ネイトは自分の事よりもリリスの事が気になった。
『うん、昔はね・・・・・・、だけどいつも途中で抑えられなくなるんだ、だからやめちゃった』
それを聞いて、ネイトは大きな胸の痛みを感じた。
「やっぱり・・・・・・善悪なんてないんだ・・・・・・、僕が戦っていい理由なんて・・・・・・」
ネイトの逃げ場は失われていた。
見つけ出した唯一の道は、不条理や悲しみと向き合い背負うことだった。
しかし、今それが失われたのだ。
「きっと・・・・・・僕は楽になりたかったんだ・・・・・・背負ってしまえば楽になれるって・・・・・・」
ネイトは、自分が出した決断が多くの命を奪う可能性があった事に恐怖した。
『君は、あの二人に心配をかけないように楽になろうとしたんだよ』
リリスの優しい言葉にネイトは身も心もを委ねたくなった。
「何をしようとしてるの・・・・・・?」
心がどんどんリリスに侵食されていくのがわかった。
『悪魔がなぜ人を虜にできるかわかる?そういう能力があるからだよ♪』
闇が体に入り込んでくるのがわかった。
だが、ネイトはその感覚を温かいと感じていた。
「・・・・・・リリス」
ネイトの目は生気を失い悪魔のような虚ろな目となる。
『別に契約させなくても、悪魔にしていくことはできるからね♪』
それはネイトを対等な上級の悪魔ではなく下級の使徒・・・・・・つまり僕にすることを意味していた。
「だめだ・・・・・・もう動きたくない」
ネイトは心を奪われていくのを感じ、もはや動くことを拒んだ。
『それでいいんだよ?』
リリスはネイトの体から出て、ネイトを抱き寄せた。
「リリス・・・・・・」
ネイトは昔を思い出し、抱かれながらも安心した。
リリスの手に中でネイトは眠りに落ちた。
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