第21話 棘の花
「・・・・・・すみません」
ネイトは呟いた。
「ったく・・・・・・、とにかく今はどうするか考えるぞ」
レイも焦っているようだったが、どこか冷静であった。
「くっそー、こんなのってありかよ・・・・・・」
バルトは脅えていた。
「ごめん・・・・・・僕のせいだ」
ネイトは震えた声で言った。
「お前のしたことは、勇者と呼べる行動だとは思う・・・・・・気にしなくていい」
バルトも少し落ち着いて呟いた。
「少し来てもらおうか」
王国の兵士わらわらとやってきて、その中の隊長と思われる男が牢獄の扉を開ける。
兵士と一緒にアイリスら、熟練の戦士達も居た。
「抵抗すれば仲間の命は無い」
「・・・・・・そな」
ネイトは仲間を危険に晒したことを後悔していた。
「そうだ・・・・・・早く来るんだな」
ネイトは別の頑丈な牢屋へ移動させられた。
手足には枷を着けられ壁に磔られていた。
ネイトにはこの二人を倒すことができる力を持っていたが、抵抗すればバルトとレイが危険だった。
「フレッドだ、ここの兵隊に籍を置いている、元冒険者ってとこだ」
「私達、今はこんな街で仕事してるけど、本当は現役だったらかなりのコンビだったんだよね~」
目の前の自分をまったく気にしない二人の会話にネイトは恐ろしくなった。
(だめだ・・・・・・この人達は僕をまた・・・・・・)
「何を・・・・・・するんですか?」
ネイトは震えていた。
このタイプの部屋には見覚えがあった。
「やめてください・・・・・・こないでっ」
ネイトは逃げようとしたが、すぐに兵士達に腕を掴まれる。
そして、体は痺れて動かなかった。
「ネイト君・・・・・・君はとっても幸せだよ」
ネイトは手と足は枷に繋がれた。
『嫌だ・・・・・・嫌だ・・・・・・助けて・・・・・・リリス』
ネイトは心の中でそう叫んだ。
『うーん、後先考えないで命を救おうとするからそうなるんじゃない?』
リリスは冷たいトーンで言い放った。
『仲間まで巻き込んじゃったね、君のせいで死ぬかもしれない』
ネイトは自分のした事を後悔した。
ただ、目の前の命を救いたかった。
それだけだった。
「大丈夫だよ、人形になるだけだから」
ネイトの体に術式が描かれていく。
「やめてよ・・・・・・!お願いだから!!」
ネイトは泣きながら叫んだ。
抵抗することはできなかった。
ただ、慈悲を乞うだけだった。
「軽率な行動だよ・・・・・・、その歳で魔物の声まで聞こえるなら仕方ないかもしれないけどね・・・・・・、色々調べさせてもらった」
フレッドは、魔法石を近くに置いた装置に、はめ込んだ。
アイリスは術式をその装置からネイトの体へ繋げていく。
そして魔方陣が完成した。
「君は色々弄られてるからね、逃げ出しちゃだめだよ・・・・・・せっかくの実験体なんだからさ」
フレッドはにやりと笑った。
「一度こういう実験やってみたかったんだよねー、勇者の力に目覚めた人を材料に使えるなんて・・・・・・これ最初で最後のチャンスだよね」
アイリスは手に力を込め、魔力の炎を魔方陣に灯した。
魔方陣の線が燃え盛りネイトの体を焼いていく。
だが、ネイトの体は焼けなかった。
「すごいなぁ、本当に勇者なんだ」
アイリスは、マッドサイエンティストとしての本性を露にしていく。
「やめてよぉ!」
体中に限界を超えた痛みが襲う。
皮膚の燃えていく感覚が麻痺もせず、長い時間続いた。
「うわぁぁぁぁぁ!」
ネイトの叫び声が牢獄に響く。
『さすがに許せないな~、でも私の力じゃちょっとこの二人は相手できそうにないし・・・・・・』
「ネイト!!」
遠くの牢獄で仲間の叫ぶ声が聞こえる。
ネイトは痛みで意識を失った。
「なんだ・・・・・・、結構耐えたほうじゃないか、しかし人間にゴーレムの術式を応用するなんて良く考えたな」
フレッドは言った。
「ほんと、最高よねー」
その時だった、隣に居たフレッドがバタリと倒れる。
「今・・・・・・ゴーレムの術式って言った?」
それは枷を着けていたはずのネイトだった。
枷を壁ごと外していた。
「酷いなぁ・・・・・・感情を奪っちゃうなんて・・・・・・、仲間人質にして言う事聞かすとかなら見逃したかもしれないのになぁ、あぁ、人間って本当にイライラする」
ネイトは怒っていた。
だが、それはネイトではなかった。
「化け物っ、衛兵!!」
アイリスは叫んだ。
「ネイト君の体、相変わらずすごいねー」
ネイトは、にこりと笑い、倒れたフレッドを眺めた。
フレッドは大量に血を流していた。
「フレッド!!」
アイリスが回復魔法を何度もしてもフレッドには効かなかった。
「無駄だよ、だって死んでるもの、大切な物を壊される気持ちを少しは理解してくれたかな」
「一撃でそんな・・・・・・、フレッドはあんなに強くて・・・・・・、私の作った錬金装備まで着ていたのに・・・・・・!!嘘だっ!」
アイリスは取り乱し、攻撃魔法を乱射する。
ネイトは避けもせず受け止める。
魔法は何事もなかったかのようにネイトの体に触れると消えていく。
「この子は力を恐れている、内に秘める大きな力を・・・・・・、だからこの子は能力のほとんどを使っていない、それでも歴代の勇者を超える程だけど」
ネイトはそう言いながらアイリスの目の前から消え去る。
「なに・・・・・・?消えた?」
だが、その時気付いた。
アイリスの胸に刺さるものに。
「フレッド君の剣もあなたが作ったのかな」
アイリスは自分がもう死ぬことを悟り笑い始めた。
「騙されたっ!こんな奴に関わるんじゃなかった!!」
駆けつけた警備隊がちょうどその異様な光景を見た時、自分たちは大きな失敗をした事に気付いた。
「どうりで危険手当が付くわけだよぉ!!」
警備兵は一目散に逃げ始める。
「それで正解・・・・・・、この子に触れれば、大きな代償を払うことになる、この子の仲間だって国に追われるようになってしまった、そして今は命までもが危険に晒されている」
ネイトはそう言うと、仲間の牢屋へと行った。
「ネイト・・・・・・!何が起こったんだ!?」
バルトはネイトを見て言った。
「・・・・・・一応助けてあげるよ、だけどもう僕に近づかないでくれるかな?」
ネイトは冷酷な表情をしていた。
「どうして・・・・・・!お前おかしいぞ!?」
バルトは叫んだ。
「何があったんだ、お前に」
レイは真剣な表情でネイトに問いかけた。
「馬鹿らしくなったんだ、何かを救う為に傷つくのが」
ネイトは牢屋の扉を破壊して、目の前から消えていった。
「おい、ネイトが消えたぞ!?、それにこの扉っ」
バルトには何がなんだかわからなかった。
「それがネイト答えなのか・・・・・・俺にはどうも・・・・・・くそっ考えてる暇は無い、逃げるぞ」
バルトは頷き二人は牢屋を脱出した。
「・・・・・・あれここ、どこ?確か、捕まって酷いことされたような・・・・・・」
ネイトが目を覚ますと、それは草原だった。
『逃がしてあげたよ、君も君の仲間も』
リリスは優しい声で言った。
「本当?ありがとう・・・・・・、でも見当たらないけど」
ネイトは周りを見渡した。
『君と関わろうとした人はどんどん不幸になっていく・・・・・・それがわかるかな?』
ネイトはその言葉を聞いて、悲しげな顔をした。
「・・・・・・リリス?」
ネイトは不安になった。
「バルト君は・・・・・・レイさんは・・・・・・?」
『殺してもよかったんだよ?邪魔だから・・・・・・、でもまぁ今のところは彼らは生きてる、二度と君が彼らに近づかなければ平和に暮らせるよ』
ネイトは理解できなかった、理解したくなかった。
「どうして・・・・・・!?なんで、そんな事を言うの・・・・・・?」
ネイトは焦って街の方へ戻ろうと走った。
『君が戻ったら、きっと捕まるね、そしたら仲間が助けに来て・・・・・・もうどうなるかわかるよね、また君は仲間を不幸にしようするんだ?』
リリスは冷たい声で囁いた。
「僕が仲間を不幸にする・・・・・・?」
ネイトはこれまでの事を思い出した。
自分を助けようとしたレイを何度も傷つけたこと。
何度も心配をかけ、危険なことに巻き込んだこと。
「嘘だ・・・・・・嫌だ・・・・・・、僕はっ、そんなつもりじゃ」
だが、事実今回、バルトとレイは処刑されかけた。
自分が余計な事をしたせいで。
「僕は自分の為に人と関わっちゃいけないんだ・・・・・・そうだ、友達を作ったら、傷つけてしまう・・・・・・」
ずっと封印していたその考えがネイトの中で蘇る。
『君の傍に居るのは傷つかない悪魔だけでいい・・・・・・私ならずっと傍に居てあげれる』
リリスの言葉は、ネイトの心に開いた穴を塞いでいった。
「僕は友達を作っちゃいけない・・・・・・、人と深く関わっちゃいけない・・・・・・」
ネイトは自分に言い聞かせるように呟き始めた。
まるで壊れた人形のように。
ずっとその言葉を繰り返した。
自分が涙を流しているのにも気付いていないようだった。
『君の居場所なんてどこにもないよ』
リリスはネイトの心を弱くする言葉を言い放っていく。
純粋なネイトには全ての言葉が効果的だった。
『君は全てを守ろうとするから・・・・・・何も守れない』
ネイトはもう限界がきていた。
「リリス・・・・・・これ以上はっ」
ネイトは頭を抱えてローブに蹲る。
『ネイト君を狙う人がいっぱい居るからね・・・・・・、ネイト君ごと自分たちも不幸になるとも知らずに、だから取られちゃう前に私の物にするんだよ♪』
リリスはもう我慢ができなくなっていた。
ネイトと言う最高の玩具を目の前にして。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます