第20話 事件

「冒険者同士の交流会がある、原則街に居る冒険者は参加するように」

その通知が来たときにネイトはかなり焦っていた。

「人が多いところは・・・・・・」

「街にも人はわんさかいるだろ」

レイがすかさず突っ込む。

「でも、冒険者の人達は、僕の事見てるかもしれない・・・・・・」

「大丈夫だよ、お前が勇者ってばれねーって」

バルトは乗り気のようだった。


ネイトにとっては、逃げ出す事は簡単だっただろう。

だが、ネイトの決意がそうさせたのだ。

王都ライズの門で全ての声を背負うと決めたあの時に。


「どうも・・・・・・ネイト・・・・・・げふんナイトです。」

「よろしく、レイサムだ」

「俺はバルバトス」

獣人の姿の3人は徐に挨拶をし始める。

偽名は、前に居た場所では使わなかった。

それは、ネイトの名前くらいしか普通の人は知らないからだった。

恐らく一人くらい勇者と同じ名前でも不自然には思われないだろう。

だが、王都の住民は毎日発行される新聞のお尋ね者の項目に目を通している。

王都の住民とそれ以外で生活が全然違うのもこの国の格差の一つだった。

挨拶を少し終えた後、ネイトは豪華な料理には手をつけず、水同然に置かれていたパンを食べていた。

その時、エルフの女の子が近づいてきた。

ネイトより年上であろう。

「・・・・・・なんで近づいてくるんだろう」

ネイトは心配で堪らなかった。

感付かれるはずはないはずだが、事実騙していることには変わりないのだ。


「君、せっかく用意した豪華な料理に手を付けてないようだけど?」

その女性はネイトの座っている横の椅子に座った。

「うわぁ・・・・・・近い」

ネイトは思わず声に出してしまった。

「・・・・・・、人間とはあまり関わらなかったのかな?」

その質問はネイトが獣人のナイトと思われているからであろう質問だった。

だが、そこを気にせずともネイトの答えは決まっていた。

「うん・・・・・・」

ネイトはどんどん居心地が悪くなり不安になっていった。

人と話すのが怖い・・・・・・なんとかこの場から逃げたい。、そう思いかけたが必死で堪えて話を始めた。

「あの・・・・・・あなたは誰ですか?」

ネイトにはあまり喋り方がわからなかった。

「うん・・・・・・?私は、ここのギルドのマスター、アイリスだけど・・・・・・てっきり知ってるものかと」

アイリスは驚いた表情でネイトを見たが、ネイトは目を合わせるのが少し辛くなって目を背けてしまった。

「すみません、事情が色々と複雑なんです」

できる限り本心で話せれば・・・・・・とネイトは思った。

「ふーん、君が獣人なのにパン以外の料理を食べないのとも関係がある?特に獣人が好きそうな鹿の肉もあるわよ?」

アイリスは悪びれた様子で言った。

ネイトはその言葉を聞き、少し溜め息をついた。

「肉食べれないんです・・・・・・、食べたいとも思わない」

勇者の力に目覚めてから、いやおうなしに命について深く考えるようになった。

その結果、肉などが食べれられなくなっていた。

「そっかー、ベジタリアンってことねー」

「うーん、そうなるの・・・・・・かな?」

その後、少し沈黙が続いた。

ネイトは焦って、コップに水を入れようとしてこぼしてしまった。

「君、さっきから変な感じだけど体調悪いの?」

「・・・・・・いえ!」

水を拭くのでネイトは精一杯だった。


「何か邪悪な気配が・・・・・・!」

ネイトはその場から立ち上がった。

気配を感じ取る能力が少しだがネイトにはあった。

「うわぁぁぁぁぁ!」

一人の冒険者の悲鳴が聞こえる。

「キシャア!」

それはネイトの天敵、凶悪な魔物であった。

通常のモンスターとは違う、邪悪な存在。

悪意を持って生まれ、指名に従い人を襲い続ける存在。

その姿は骨だけのリザードマンのようだった。

骨は尖っていて、色んな箇所に角が生えていた。

ネイトはその恐竜に剣で切り掛かる。

だが、骨が硬くてびくともしない。

「ちょっと、ナイト君!?」

「大丈夫です」

その魔物は、尻尾を振り回してネイトの足を狙った。

咄嗟にネイトは回避した。

「聖剣を持っていないな? 助かったぜ」

魔物はネイトに向けて喋った。

「そんなものなくたって、僕はあなたを倒しますよ」

ネイトは剣を捨て、魔物へ走り出す。

「甘いなぁ!勇者」

魔物は尻尾を振り回し応戦しようとする。

「・・・・・・!?あいつが!?」

「勇者って本当なのか?」

「まずいぞ、ばれたか・・・・・・」

レイは呟いた。

「あー、ばれたか」

バルトはネイトの戦いを見ていた。

強い敵に対して戦う時、獣人の体というのはネイトにとって戦いにくいものらしかった。

なんとか攻撃を避けるが、動きが少し相手のほうが早い。

「解除!」

バルト、レイ、ネイトの三人の擬態が解除される。

「おい!!」

レイは驚くが、すぐに溜め息をついた。

「まぁー、あとでなんとかすっか」

「おい、あいつお尋ね者の勇者だぞ!?」

「捕まえたら賞金だってな!」

「でも、魔物と戦ってるし悪い奴じゃないんじゃ?」


「姿が変わったか!」

魔物は、ネイトの速度が変わった事に気付かず同じような大振りで尻尾攻撃をした。

ネイトはその尻尾を掴んだ。

「何!?」

「はぁぁぁ!」

ネイトはその尻尾を強く殴った。

すると尻尾は崩れ去った。

「すげー、やっぱり勇者だ!」

周りのギャラリーがざわめく。

「おい・・・・・・お前、何者だ!?話通り、勇者の装備を何も持ってないはずなのに・・・・・・」

「さぁ終わりです・・・・・・」

素早く近づき、その魔物の背骨を掴みネイトは言い放った。

「やめてくれ・・・・・・仲間みたいに死にたくない・・・・・・」

その魔物の恐怖の声は本物だった。

ネイトは迷った。

人を傷つけ、これまでも人を殺してきたであろう魔物を殺すべきかどうか。

普通の冒険者や勇者なら殺していただろう。

だが、ネイトはにはそれはできなかった。

ネイトは人間ではなく命を守ることを決意したからだ。


「・・・・・・悪さをしないって誓いますか?」

「わかった・・・・・・からやめてくれ」

ネイトは手を離した。

「僕がそうしたように命を大切にしてくださいね、自分の命も・・・・・・自分以外の命も」

「いいのか・・・・・・?」

魔物はネイトの行動に驚いた。

それを見た、人々はネイトの行動を理解できなかった。

「おい、なにやってる止めを刺せ!」

「殺せ!」

「はやくしろ!」

民衆に罵声を浴びせられる魔物とネイト。

「やはり・・・・・・魔物は許されざる命か・・・・・・」

魔物は深く溜め息をついた。

「皆さん・・・・・・、もう争う必要はないんです!」

ネイトは叫んだ。

「うるせぇ!やっぱお尋ね者ってだけあるな!」

血の気の多い冒険者達が武器を抜き、ネイトと魔物に切り掛かる。

「はぁ、ほんと怖いもの知らずだな」

レイとバルトは割り込み冒険者の攻撃を防ぐ。

「なんだ・・・・・・!?お尋ね者斥候のレイ?」

「次はありません、もしその命に未練がないというならば、次は運命と戦うために使ってください!」

「今回の勇者は・・・・・・面白いな」

魔物は大きく跳躍し、全速力で去っていった。


「魔物を逃がしたぞ!!」

「反逆者だ!」

「・・・・・・すみません、こんなことに」

ネイトは呟いた。

「はん、いいよ」

レイは冷静だった。

「でもよぉ、処刑とかになんねーかな」

バルトは少し心配気だった。


「そこまでよ!」

アイリスは杖を持って、こちらを睨んだ。

「魔物に味方するなんて許せない」

「くそ・・・・・・体が」

「ちっ、めんどくせー魔法使いやがって」

バルトとレイは身動きが取れなくなっていた。

「何をする気ですか!」

ネイトは叫んだ。

「ナイト君・・・・・・じゃなくてネイト君か、君がそんな奴だとは思わなかったわ、大人しく連れて行かれれば、仲間の命は保障するわよ?」

ネイトは手を挙げた。

「捕まえろ!」

駆けつけた衛兵に取り押さえられ、三人は牢獄へ連れて行かれた。


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