第19話 王都にて
「・・・・・・準備はいいか」
レイは荷物をリュックに背負って言った。
「大丈夫です」
一方ネイトはほとんど私物というものが無かった。
唯一大事なものが着ているローブだった。
几帳面に洗濯されているのでくたびれてはいるが、汚れはないようだ。
「じゃあいくか!」
バルトは元気良く言った。
今日は王都ライズへ向かう日だった。
「お前らがいなくなると思うと寂しくなるよ」
親父さんがあまりにも優しいのでネイトは、擬態魔法を使うことが申し訳なくなった。
「あの・・・・・・」
「よせ」
レイは呟いた。
「うん・・・・・・」
結局最後まで本当の姿を見せることは無かった。
王都へ歩いて数時間が経ったであろう。
道中では冒険者を多く見かけた。
街の門が見えてくるが、ネイトがピタリと止まる。
「声の量が・・・・・・」
ネイトは口を押さえ始める。
すると、ネイトの擬態が解けてしまった。
「おいちょっと、離れた木の陰へ連れて行け!」
レイは急いでバルトに指示する。
「おうっ!大丈夫かよ」
バルトはネイトを担いで木の陰へ向かった。
「気分はどうだ?」
バルトが心配そうに根意図を見つめていた。
「うん、まぁなんとか」
再び獣人の姿になったネイトが答えた。
「その・・・・・・声の聞こえる範囲とか量ってのは下げられないのか?」
ネイトは少し考えて頭を悩ませた。
「うーん、個人差があるみたいだからね」
恐らく歴代の勇者の中で一番「声」が聞こえるのはネイトであった。
そのせいか、歴代の中でも一番身体能力が高い。
「僕は全て聞くよ・・・・・・」
ネイトは再び歩き出す。
「おい、また吐いちまわないか心配なんだが!」
ネイトは少し立ち止まった。
「次は・・・・・・大丈夫」
バルトは不安だったがネイトを信じてみることにした。
「・・・・・・、やっぱりすごいな・・・・・・声の量」
ネイトは頭がくらくらしそうだった。
「僕は全てを背負ってみようって決めたんだ・・・・・・僕にしかできない事の為に」
王都を目の前にしてネイトは決意を露にした。
「みんなの声だ・・・・・・僕はその声を全て・・・・・・」
一歩ずつ王都に近づくたびに声が大きくなっていく。
「大丈夫・・・・・・」
「・・・・・・ほら、僕には幸いそれだけの力があるんだ」
ネイトは王都の門を潜った。
「なんとかなったみたいだな」
レイは少し安堵の表情を見せた。
「まぁ、俺は大丈夫とは思ってたが・・・・・・」
そう言いながらも冷やっとしていたのはバルトも同じだった。
「で、これからどうする?」
レイは街中をきょろきょろして言った。
「冒険者ギルドで仕事を請けて、人助けかな・・・・・・生活費も手に入るし」
ネイトは言った。
「いいが・・・・・・大丈夫か?」
バルトは言った。
「うん」
ネイトは以前よりも迷いがなかった。
「まぁ、俺はなんでもいいが」
レイは少しネイトの様子を心配していた。
「仕事か・・・・・・だったら、最近暴れまわっている外の森にあるゴブリンの群れ処理してきてくれ」
ギルドの依頼受注担当が答えた。
「人の為になるなら、それでいいですよ」
ネイトが答えた時、レイとバルトは少し驚いた。
「まぁ被害は減るだろうな・・・・・・じゃっ頼んだぜ」
レイとバルトはネイトの変化を不思議に思いながら三人は、地図にあるゴブリンの群れへと向かった。
「・・・・・・」
ネイトはゴブリンを見つけ剣を構える。
だが、ネイトはすぐに剣を鞘に納めた。
「邪悪な感じがしない」
「・・・・・・そうか」
レイは予想していたようだった。
「お前がしたいようにすればいいんだ」
バルトは優しく声をかけた。
「ありがとう・・・・・・僕は殺せないな」
ネイトは少し立ち止まって考えていたようだったが、すぐに何かに気付き動き出す。
「ここまでだ!ゴブリン!」
走り抜けた先に居たのは、若い冒険者の集団だった。
ゴブリンの集団がいて、前にはゴブリンの戦士が傷だらけで戦っていた。
ゴブリンの集団の中には子供がいるようだった。
若い冒険者の戦士の一人がゴブリンの戦士に斧を振り下ろす。
ゴブリンの戦士はそれを受け止めるが、遠くから弓兵が矢を放った。
ネイトはそれを見て、咄嗟に自分の剣を鞘から抜いて投げ、そのまま矢に当て弾いた。
「おい、今の・・・・・・人間業か?」
冒険者達は剣を投げた正体を探す。
ネイトは剣を拾い、冒険者に向けた。
「やはり邪悪な感じがしない・・・・・・戦う必要がない、原因を探って解決してあげればいいんだ」
冒険者達はネイトの言葉を理解したが、それでも納得はできなかった。
「仕事なんだから別にいいだろ、それにこいつらのせいで被害が出たのは事実だし・・・・・・確かに王国の開拓で生態系が破壊されたのが原因だろーけどよ」
リーダー格らしかった戦士が不満そうに言った。
ゴブリンの戦士は何が起こってるのか、わからなかったが、目の前のネイトが自分の味方であることは理解したようだった。
ネイトにはそうさせる何かがあった。
「・・・・・・そうか、お前は自分が正しいと思ったことをやるために、世界に目を向けることにしたんだな」
レイは呟いた。
「もし・・・・・・このゴブリンの子達を傷つけるなら僕は戦います」
ネイトは剣を構えリーダー格の戦士を睨んだ。
「・・・・・・獣人風情が!」
戦士が持っている斧をネイトに振り下ろす。
ネイトはそれを剣で受け、足元を蹴る。
戦士は転倒する。
ネイトは自分の剣を首元に近づける。
「死ぬのは怖いでしょう・・・・・・魔物だって同じなんだ」
「あが・・・・・・化け物!みんな助けてくれ」
戦士は仲間に助けを求めた。
6人はいるであろう仲間が小声で話始める。
「あんなの無理だ・・・・・・」
「くそっ獣人は魔物の味方か・・・・・・」
「厄介な仕事だ・・・・・・」
「あいつ置いて逃げるか?」
「本当めんどくさーい」
「もういっちゃお」
仲間達は街の方へ帰っていった。
取り残された戦士はただ恐怖に涙するのであった。
「助けてくれ・・・・・・」
「もういいですよ」
剣を鞘に納めネイトは戦士の手を取って起き上がらせた。
「あんた・・・・・・一体何者なんだ?」
「命を守る者・・・・・・かな」
ネイトは呟いた。
それがネイトのしたい事だった。
戦士は一目散に逃げて行った。
「・・・・・・、出る幕無かったけど、ネイト良く頑張ったな」
バルトはネイトの肩に手を置いて叩いた。
「うん・・・・・・まぁなんとか」
すっかり取り残されているゴブリン達は不思議そうにネイト達を見ていた。
「うーん、獣人だから警戒してないとこもあるのか?」
レイは不思議そうに言った。
「人の住む場所を荒らすのをやめてくれたらいいんですけど・・・・・・仲間やこの森の別の集落にも伝えて欲しいな」
ネイトはゴブリンの戦士に話しかけた。
「・・・・・・・!」
ゴブリン達はなぜ自分たちが追われる様になったか理解したようだった。
「お前、ゴブリンと話せるのか?」
レイは驚いて呟いた。
「わかりません、でもある程度の事ならできますよ」
ネイトはゴブリン達を見送った。
「・・・・・・!」
ネイトは少し驚き頭に手を当てた。
「今まで鳴き声みたいに聞こえてたゴブリン達の心の声が・・・・・・感情が分かる程度には・・・・・・聞こえるようになったみたいです」
ネイトはゴブリン達を見てにこりと笑った。
ゴブリンの戦士はぺこりと頭を下げてゴブリンの集団の中へ戻っていった。
その後集団は集落へ戻っていくらしかった。
「その・・・・・・おめでとうか?」
レイは少し不安に思った。
ネイトの能力の上昇に伴い聞こえる声がより詳細になるなら、恐らくネイトの精神がどこかの段階で持たなくなるのではないか。
「まっ、便利だよきっと!」
バルトは能力の上昇には肯定的だった。
「うん・・・・・・そうだね」
ネイトもそう言われて少し嬉しそうだった。
「やっぱ、ああいう奴がいないと・・・・・・だな」
レイは聞こえないようにバルトを見て少し呟いた。
「だーかーら、解決したっていってんだろ、もう村襲わないんだから、賭けてもいいぜ」
レイはギルドに戻ると長いこと問答していた。
「うーん、じゃっじゃあ、そういうケースもあるなら・・・・・・でもなぁ」
ギルドの役員がレイの周りに数人集まっていた。
「処理って言ったよな、これが処理じゃなきゃなんなんだ?」
レイの狼の姿は非常に怖かった。
「そうですね・・・・・・ハイ、では後日確認でき次第、報酬は差し上げますので」
レイは満足したのか、うむ、と頷いた。
「うわー、すげー」
バルトはレイの交渉を目を輝かせて見ていた。
「助かったよー」
ネイトは、ゴブリンの村が無事になることを心底喜んでいたようだった。
「なぁ・・・・・・もしあの冒険者が戦うって決めたらどうするつもりだったんだ?」
バルトは言った。
「戦うよ」
ネイトはすぐさま答えた。
「・・・・・・いいのか?」
「殺さない程度にね」
それを聞いてバルトは少しほっとした。
「はは、命を守るために命を奪うなんて決断はまだ・・・・・・、でももしとにかく魔物が嫌いな人間が相手で、またゴブリンを傷つける恐れがある場合なら・・・・・・僕はより正しい方の為に戦って命を奪う・・・・・・そしてその罪を背負う、許されることはないだろうけど・・・・・・償えないその罪を」
少しバルトは不安そうな表情で聞いた。
「それって魔物の為に人間を殺すこともあるってことか?」
「ある・・・・・・僕がすべきことは人間に肩入れすることじゃない、魔物の声が聞こえるってことはそういうことなんだ」
ネイトは決意を決めていた。
「じゃあ、もし相手が俺やレイだったら?」
バルトは真剣な表情で聞いた。
「・・・・・・君達を信じてるから僕は何もしない」
その言葉を聞いてバルトは笑い始めた。
「やっぱネイトらしいな、甘さが残ってて安心した」
バルトは吹っ切れた顔で呟いた。
「何もかも捨て去るわけにはいかないよ・・・・・・大事なものだから」
ネイトは答えた。
「じゃあ、決闘や戦争だったらどうなんだ?お互いがお互いを憎んでる・・・・・・そしてお互いが何かを守ってる」
バルトはネイトが何を思い戦うのかとことん知りたかった。
「戦いを望まない命が居れば僕はその命の為に戦う」
ネイトは呟いた。
「そうか、お前は弱い人の味方でありたいんだな」
「うん、たとえそれが魔物でも魔王でも・・・・・・悪魔でも・・・・・・」
レイがたまには一人で酒でも飲みながら食事を食べるというので、バルト達は宿屋の食事を部屋で食べていた。
「もしレイやバルトが、僕が信じた人がしたいことがあるなら僕は邪魔しない・・・・・・」
自分に言い聞かせるようにネイトは呟いた。
「・・・・・・、そっか」
バルトはネイトが一番自身に対して不安なのだな、と思った。
「・・・・・・・、人間も殺す・・・・・・か♪」
「楽しみだな、君が全てに絶望した時が」
リリスの声が聞こえてくる。
「僕は・・・・・・絶望なんかしない、信じ続ける・・・・・・全ての命を」
「ネイト怖い顔してるけど大丈夫か?」
バルトが心配そうに見ていた。
「うっうん・・・・・・・」
ネイトは少し不安になりながらも笑顔を作って見せた。
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