第15話 絆
「ふふ、色々思い出したでしょ、君はとても純粋で弱い、だから私と契約して悪魔になって、私だけにその純粋さを捧げれば楽になれるんだよ」
リリスはネイトに語りかけた。
「リリス・・・・・・それでも僕は、君がしてくれたように誰かを助けたいんだ」
「嘘でも・・・・・・本意じゃなくても・・・・・・助けてくれたことが嬉しかったんだ」
ネイトはベッドから起き上がった。
「リリス、君が助けてくれた事を鮮明に思い出せた・・・・・・とても嬉しかったよ、だから僕も同じように人を幸せにしたい・・・・・・リリスが居たから僕は勇者になれたんだ」
そう言った後、ネイトは宿屋の階段を降りていく。
「君って、ほんと面白いね、君を超える楽しみはないよ、私も会えてよかった、もっと早く会おうかと思ったけど、少し成長した君を見てみたくてね」
優しくリリスは言った。
リリスは、ネイトの甘い考えが嫌いではなかった。
「リリス、もう少し見守っていてくれるかな」
ネイトは呟いた。
「勇者が悪魔に言うセリフがそれでいいのかわからないけど、いいよ、君がどうなっていくか見てあげる・・・・・・誘うのはやめないけど、少しだけ手加減してあげるよ」
リリスはなぜか、ネイトには少し甘かった。
(今日はもっと酷いことするつもりだったけど、まーいっか)
リリス自身もそれがどうしてなのかわからなかった。
勇者であるネイトがリリスを傷つけることができないように、リリスもまた悪魔であるのにネイトに対しては少し情があった。
「ネイトじゃん!起きるの遅かったな!」
ネイトが起きてきたのを見てバルトは料理を運ぶ手を止める。
ネイトに目を合わせるとネイトの姿が獣人の姿に変わった。
客は話に夢中で誰も気づいてなかった。
「おいおい、せっかく宿代チャラにしてやってんだから手を止めるんじゃねぇ」
宿屋の親父が叫んだ。
「ごめんって!」
バルトは笑って言った。
「俺やっぱ決めたよ!お前には考える時間も材料も必要だってな、だから冒険者みたいにとりあえずは生きていこうぜ、人助けはもちろんするけどさ!」
バルトは吹っ切れたような顔をしていて元気が良かった。
「うん・・・・・・ありがと」
ネイトはバルトに近づき笑顔で言った。
「目合わせるだけでできるんだね」
ネイトが呟いた。
「ん?なんのことだ?」
目の前の兎の獣人はにこりと笑った。
「ったくこんだけ人が居る中でお前は警戒心がねぇなぁ」
狼の獣人の姿になったレイが、厨房で呟いていた。
「ていうか毛・・・・・・大丈夫なのかな」
ネイトは厨房のカウンターに座り呟いた。
「そう間単に抜けないって、獣人の料理人だって世の中たくさんいるしな」
「そっか」
ネイトは不思議な感覚を覚えた。
閑散とした街の中でも比較的人が集まり賑やかな宿屋兼酒場で、楽しそうな人達の姿を見て少し胸を躍らせた。
「きっとまた辛くて泣き出してしまうときもあるかもしれないけど・・・・・・でもこういうちっぽけな幸せ・・・・・・忘れちゃだめだよね」
ネイトは自分に言い聞かせるように言った。
「私と契約したほうがもっと幸せになれるんだけどなー」
リリスは不満そうに呟いた。
「まぁ・・・・・・自分に自信がないからそんな時が来るかもしれないけど・・・・・・考えたくないなぁ」
ネイトは呟いた後溜め息をついた。
リリスを許容すればする程、悪魔との契約が現実味を帯びてくる。
レイは少し不思議そうにネイトを見た。
「お前何一人で話してるんだ?」
「いいや、な、なんでもない」
ネイトは慌ててすぐさま答えた。
「心で思うだけで分かるんだからわざわざ口に出さなくていいんだよ」
「そうだよね・・・・・・」
心の中でそう答えた。
「・・・・・・リリス、もし僕が死ぬような事があったら逃げてね」
善悪という概念を超えて、大事にしたい人だったからこそネイトはそう心の中で呟いた。
「言われなくてもそうするけど、私はどんな手を使っても君を眷属にしたいから、死なせないけどね」
「はは・・・・・・心強いような・・・・・・恐ろしいような」
悪魔に心を許している状態は非常に危険と言えるだろう。
だがネイトにはその事についてこれ以上深く考える精神力が残されていなかった。
窓から見える良い天気を見て、ネイトは外へ出ようと思った。
「ちょっと、採集してくる、少しでもお金になればいいけど」
ネイトはそう告げて宿屋を出た。
「がんばってこいよー!」
バルトは元気よく見送った。
ネイトは森へ歩いていった。
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