第14話 純粋
初めてリリィに会った日から、何度か抜け出して彼女に会っていた。
外の世界の事を色々と教えてもらっていた。
ネイトにとってリリィは初めての生きる希望だった。
ネイトはリリィがしてくれたように奴隷の仲間に食べ物を分けてあげたり、積極的に人を助けようとした。
自分の事を犠牲にしてでも、人を助けることに喜びを感じていた。
そうしていくうちに、奴隷達の間で少しだけ人間らしさが生まれようとしていた。
だが、その行為は主にとっては都合が悪かった。
奴隷達の間で絆ができれば反発される可能性があったからだった。
ネイトは、寝る前に主に呼ばれた時に、その主がナイフを持っていたのを見て一目散に逃げ出した。
「他の奴隷に示しがつかん、逃げた奴を殺せ」
脱走を主に知られたのは初めてだった。
月が出てない夜だった為なんとか一時は撒くことができた。
街の路地まで逃げ込んで何度も呼吸をした。
「リリィ・・・・・・?」
なぜだか、そこにはリリィが居た。
だけどネイトの知っているリリィじゃなかった。
人間から血を吸っていて、その人間は生気を失い倒れた。
リリィがその死体に手をかざすと、塵となって消えていった。
「・・・・・・ネイト君、見ちゃったね」
リリィはネイトに近づいていった。
「リリィ・・・・・・どうして!?」
ネイトには状況が分からなかった。
だけど、リリィが人を殺したというのは理解した。
「どうして・・・・・・殺しちゃったの?」
ネイトは泣き出していた。
「うーん、私はリリィじゃなくて本当はリリス、悪魔なんだ」
それを聞いてネイトは更に訳が分からなくてなっていた。
「優しいリリィがこんなことするわけない・・・・・・」
ネイトは認めたくなかった。
「遊んであげてただけなのにね、人間の振りするのも結構楽しいからさ」
ネイトはローブにうずくまった。
そしてローブの中でただ泣いていた。
「ウィンデーネの子供はよく泣くね・・・・・・、噂通り、悲しみと共にあるんだね」
リリスは、ナイフをネイトの顔に突きつけた。
「君の悲しみが私を癒してくれる・・・・・・君の水のように純粋な所が・・・・・・もっと見せてよ」
「リリィ・・・・・・優しいリリィに戻って・・・・・・」
「・・・・・・最初から私はこうだよ?」
リリスはネイトに何をしようかと、わくわくしていた。
その時だった、誰かが駆けつける。
「やっと見つけたぞ、悪魔!」
司祭だった。
司祭は、リリスを魔法で捕縛した。
白い光がリリスに向けられ、リリスは苦しそうに息を荒くした。
「しまった・・・・・・光・・・・・・やめて」
リリスは苦しそうに悶えた。
「さぁ、聖なる光で灰となれ」
司祭は光を一層強めた。
「体が・・・・・・私・・・・・・死ぬの?・・・・・・やだ・・・・・・怖い」
リリスは苦しそうに呟いた。
ネイトは、リリスを見るのが辛かった。
「やめて!」
ネイトは司祭に体当たりをした。
予想もしてなかった自体に動揺し、司祭の魔法は途切れ、司祭は地面に倒れる。
「ふふ、ありがとう」
リリスは自由になった。
「何をしているんだ・・・・・・」
ネイトはリリスの落としたナイフを拾い司祭に突きつけた。
「リリィを傷つけたら許さない・・・・・・リリィ・・・・・・逃げて」
リリスは不敵な笑みで司祭にゆっくり近づいた。
「リリィ・・・・・・?」
リリスは司祭に手を当てた。
すると司祭は苦しみ始めた。
「やめてよ・・・・・・リリィ!やめないと・・・・・・無理矢理にでも止めるよ・・・・・・」
ネイトはナイフを両手で持って言った。
「ふーん、君にできるのかな?私を殺すことが」
ネイトはナイフを手から落とした。
ネイトにはリリスを傷つけることができなかった。
「お願いだから・・・・・・やめて」
リリスに訴えかけても、リリスはやめなかった。
司祭は息を失い灰となった。
「・・・・・・ふふ、あなたのせいで一人死んじゃったね」
ネイトは頭を抱えてしゃがみこんだ。
リリスはネイトを優しく抱き寄せた。
「嫌だ・・・・・・僕はただリリィを・・・・・・」
「かわいい・・・・・・、本当に純粋なんだね・・・・・・、ただ遊ぶだけには惜しくなってきちゃった」
リリスはネイトの頭を撫でた。
「私と契約して眷属にならない?君のその純粋さを私だけのものにしたい」
「けんぞく・・・・・・?」
ネイトはリリスに包み込まれて少し落ち着いていた。
「悪魔になって、人を不幸にして、人の血を吸って・・・・・・、二人でずっと生きていくんだ・・・・・・とても幸せなことだよ」
ネイトはそれを聞いてリリスの元から逃げ出した。
足が震えて倒れこみ地面に手を着いてリリスを見つめた。
「逃げちゃだめだよ・・・・・・」
「来ないで・・・・・・悪魔にしないで・・・・・・」
怖がるネイトを見て、リリスは少し冷たい目でネイトを見た。
「ふーん、じゃあ君がもっと人間の醜さも、人間の辛さも知った時に会いに来ようかな」
リリスはそう言って消えていった。
黒い羽を辺りに残して。
朝になり、ネイトは街の路地で起きた。
昨日会ったことが嘘のように思えた。
付近に自分を追っている人がいないか確認してきょろきょろしていた。
「奴隷商の一団が殺されたってな、奴隷を除いて」
「目撃者が言うには悪魔が居た・・・・・・らしいぜ」
街の人同士の会話を聞いたネイトが、リリスによるものだと察するのはそう難しいことではなかった。
「・・・・・・僕がリリスを助けたから・・・・・・人がいっぱい・・・・・・」
ネイトはまた泣き始めた。
「・・・・・・息苦し・・・・・・」
自分がやった事の罪を思うと息が苦しくなった。
その頃からネイトは自分がしたこと、しなかったことによって人が不幸になるのを極度に恐れるようになった。
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