第10話 変化
走り抜けて、街までやって来た。
王都ライズの近くに位置するが、モンスターがよく出没するため、その街にはあまり人が居なかった。
ネイトは、色々な声に戸惑っていた。
感情による曖昧な声が渦巻く。
「嬉しい」
「疲れた」
「退屈」
「不安」
そんな声が街には渦巻いていた。
だが、それ以上に今自分の置かれている状況に心を動かしていた。
「ばれてないかな‥‥‥‥」
フードの中には、獣人の姿をしたネイトが居た。
犬の顔をしていて、鼻が長かった。
耳は垂れ下がりそれでも目はネイトらしさがあった。
黒色と金色にも見える茶色の模様があり、鼻から口が茶色で、全体は黒かった。
「すげー、似合ってる!」
バルトは、兎の獣人の姿をしていた。
片方の耳が立っていて片方の耳が垂れ下がっていた。
「バルトもいい感じだよ‥‥‥‥あはは‥‥‥‥僕のは、ちょっと頼りないような気がするけど‥‥‥‥この感じ‥‥‥‥」
ネイトは、街のショーケースに映る自分の顔を見た。
その後、とても嬉しそうな顔をした。
「追われる身としては、仲間にいるとかなり便利な能力だな」
レイは狼のような顔の獣人だった。
耳はしっかりと立っていた。
「ちなみに、俺の魔法はその人がもし別の種族、性別だった場合の姿に変える、つまり偽物ってわけでもない、動物とか魔物には無理だった、あくまで人じゃないとだめだ」
バルトは少し声を明るくして説明した。
「自分でいるのが、嫌だった時、気がついたら使えるようになってた、ユニークスキルって奴かな」
自分でも不思議そうにしていた。
ネイトは、それを少し羨ましそうな目で見ていた。
「すごいなぁ‥‥‥‥」
「また使うことあるだろ、てかこの姿で生活する方が長くなる‥‥‥‥」
レイは、狼のような獣人になった自分の体の変化を確かめていた。
「耳に感覚がある‥‥‥‥音も聞こえやすい」
筋肉も獣人のモノに変化していた。
「擬態よりも高度な気がするがなぁ」
レイは、感覚に慣れるように尻尾を動かしていた。
「でも魔力とか大丈夫?」
ネイトは心配そうな顔でバルトを見た。
「うーん、魔力はさほどかな、意識失った時に多分解ける」
バルトは首をかしげながら言った。
「お前冒険で、人と組んで、寝てるときとかどうしてたんだ」
レイは少し引っ掛かるといった顔をした。
「別の場所で寝れるときは寝て、一緒のときはなるべく暗く、そして誰よりも遅く寝て、誰よりも早く起きた」
バルトは、少し得意気に答えた。
「まぁ、そのユニークスキルで体に負荷がないならそれでいいんだけどな」
レイは、ネイトが喋らないので横目で見た。
ネイトはなぜか泣いていた。
「おいおい、なんか辛いことあったか」
ネイトは首を振った。
「バルト‥‥‥‥ありがとう‥‥‥‥自分でもこんなに嬉しいなんて」
レイは、少し驚いた。
「まぁ、気に入ってくれたならよかったよ、だけどいつものお前も良いと思うよ」
バルトは、ネイトの頭を撫でた。
「うわー、犬触り心地いい!」
ネイトはじゃれられて嬉しそうだった。
「ネイト‥‥‥‥そいつ、同い歳か、下手したら年下だぞ」
しかしネイトはさほど気にしていなかった。
歩いていくうちにネイトは少しずつ笑顔じゃなくなり、歩くのが遅くなった。
そして、ネイトは、少し立ち止まった。
「‥‥‥‥どうしよう、とても怖くなってきた」
ネイトは、俯いてしゃがんだ。
「‥‥‥‥普通の感覚だ、気にするな」
レイは言った。
「少しわかるな‥‥‥‥」
バルトは、ネイトの手を握った。
「前よりもずっと、失うのも傷つくのも‥‥‥‥声を聞くのも怖い、助けを求められるのも怖いんだ」
ネイトはバルトの手を強く握った。
「僕は、勇者をやめてしまえれば、とまで思ってしまっている、助けを聞かないようにすれば‥‥‥‥聞こえなくなれば‥‥‥‥」
ネイトが震えながら呟く。
レイはなにも言わなかった。
「もしそうなったとしても、俺はお前と一緒だし、気にすんな」
バルトは肩を叩いた。
「立てるか」
バルトの呼掛けにネイト頷いた。
「ごめん‥‥‥‥弱音吐いてばっかじゃだめだよね、それでも、勇者として悲しい声を減らしたい‥‥‥‥」
その時だった。
まるで、ネイトの覚悟を打ち消すかのような事が起きた。
ネイトに、助けを呼ぶ声が聞こえた。
だが、人間の声ではなかった。
直感で魔物だと分かった。
「‥‥‥‥この声だけには答えられない‥‥‥‥あれおかしいな‥‥‥‥同じ悲しみのはずなのに‥‥‥‥」
以前の事から人間以外を助けることに恐怖を感じていた。
ジレンマに陥ってしまい頭を抱え始めるネイト。
「魔物の声か」
「どうして、聞こえるんです‥‥‥‥人の声だけで、助けてもいい声だけで、いいじゃないですかぁ‥‥‥‥」
ローブにうずくまり、ネイト泣きはじめた。
ネイトはまた悲しみの中に閉じ籠った。
その時擬態は解けてしまった。
「感情が高まると擬態が解けるのかな‥‥‥‥それも負の感情か、それとも嬉しさとは比べ物にならない悲しさなのか‥‥‥‥」
バルトは呟いた。
しかし顔をローブに隠し泣きじゃくる姿を見て、周りは恐らく誰も勇者だとは気づけないだろう。
「大きな力には大きな覚悟がいる‥‥‥‥そういう悲しみを救えず背負わないといけない、きっとこれまでの勇者は悲しみを背負ってきたんだ、あるいは目を背けて、だけどネイト、お前には両方できないんだな」
レイはネイトを背負いながら言った。
だけどネイトには聞こえていなかった。
「途方もない難題を、答えのない問題を解くようなもんだろ‥‥‥‥」
バルトは背負われても嗚咽を続けている壊れてしまったネイトを見て悲しそうな顔をした。
「出会った時より、ある意味で弱くなっている、自暴自棄だったのは、生きる楽しみを無くすことで失う事を避ける為だった、あるいは、助けれなかった命への償いか、このままじゃ本当におかしくなってしまうかもしれない」
レイは、不安な表情をしていた。
「俺も迷っている、こいつのやるべきことは勇者としての役目なのか」
バルトは、少し考えて、力強く言った。
「あいつを自由にしてあげたい」
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