第9話 感情
ネイトとバルトが起きると、レイが食料をたくさん取ってきていた。
全て山菜や木の実などだった。
「バルト君・・・・・・」
「なんだ?」
「・・・・・・ごめん何も話すこと考えてなかった」
「別にいんじゃね」
この二人の会話は独特だった。
「・・・・・・、人間が怖いって言ってたけど僕達のことはどうなの?」
少し考えてからバルトは言った。
「わかんねぇけど、仲良くなるのは怖い」
「・・・・・・そっか」
バルトはネイトの悲しそうな表情を見て慌てた。
「ごっごめん、大切な友達を失った時から・・・・・・、臆病になって」
「僕もよくわかってないんだ、人と接するのがとても怖いのに、二人が居ないのはもっと怖い」
バルトは少し驚いた表情で呟いた。
「それかも・・・・・・、わかんないけど一人でいるより怖くない」
「・・・・・・、本当は森でゆっくりと暮らしてもいいんだがなぁ」
レイが言った。
「・・・・・・それは許されない」
ネイトが呟いた。
「なんでだよ・・・・・・、勇者だからか」
「きっとこうしてる間にも・・・・・・僕が居ないところで・・・・・・」
ネイトは急に声が震え始めた。
「僕がしっかりしていれば・・・・・・生きてた人がいて・・・・・・」
レイはため息をついた。
「あんまりそんな・・・・・・気負うなって」
バルトは困惑していた。
「僕は何をやってるんだ・・・・・・自分の為に人を犠牲に・・・・・・」
ネイトは、短剣を取り出した。
「まずい」
ネイトの手を掴み、レイは自傷行為を止めた。
「・・・・・・ネイト、どうしてそんな悲しい事しようとするんだよ」
バルトは自分まで悲しくなってしまった。
「だって・・・・・・勇者なのに・・・・・・その役目を忘れて、どこかで苦しんでる人の声を聞こうともせずに・・・・・・、自分への罰を与えないと・・・・・・」
「おいおい、そんなことに意味はないだろ」
バルトは言った。
「これくらいにしようか・・・・・・俺も変なこと言ってすまなかった」
レイはネイトの感情をなんとか穏やかに持っていこうとした。
「意味が無い・・・・・・、それ言われたら・・・・・・僕は・・・・・・逃げ場が」
ネイトは苦しそうに嗚咽し始めた。
「ごめんよ、そういうつもりじゃ・・・・・・」
バルトも見ているのが辛くなって泣きそうになっていた。
「どうしよう・・・・・・俺ネイトの事傷つけちゃった・・・・・・」
バルトは、レイの方を見て助けを求めた。
「すまん、俺こういう時は、精神的には何もやってやれなくてな・・・・・・」
「苦し・・・・・・」
ネイトは、胸が締め付けられて、息もままならなかった。
「ネイト・・・・・・、大丈夫か、ごめんよ、辛さから逃げるためにやってたんだもんな・・・・・・、意味がないなんて否定されたら辛いよな・・・・・・」
バルトは、ネイトの肩に手を置いて、ネイトの体を支えていた。
「ごめんなさい・・・・・・、せっかく僕の為に一緒に逃げてくれたのに・・・・・・」
「・・・・・・俺の事は気にすんな、そんなに辛いなら急いで森を出て、人を助けに行こう、しかし街に入れるかどうか・・・・・・・」
レイは考え始めた。
「俺、人の見た目とか変えれるからそこは大丈夫・・・・・・だけど、俺には人を助けることも・・・・・・良いことばかりじゃないような気がして・・・・・・」
バルトは少し考えた。
「今までもあっただろ、助けた分逆に人を傷つけたり・・・・・・自分が傷ついたり・・・・・・」
「・・・・・・バルト君、僕の事心配してるの?」
ネイトは顔をあげてバルトを見つめた。
「多分な、わかんないけど放っておけないんだ」
「・・・・・・、ごめんこれ以上心配させたら、だめだよね」
ネイトは、涙を手で拭った。
「いいよ、心配させても、お前が感情を我慢するほうがきっと俺は辛い」
「本当は・・・・・・怖いんだ、助けれなくて人が傷つくのも自分が傷つくのも・・・・・・、戦うのだって怖い」
バルトと話していくうちにネイトの臆病な弱い所が露見していった。
「・・・・・・みんなを安心させないといけないのに」
ネイトのその言葉を聞いてバルトは呟いた。
「お前みたいな優しくて弱い奴が勇者で良かったかもって俺は思ってるよ、魔族の俺を受け入れてくれたし」
バルトは笑って見せた。
「今まではそんな事なかったのに・・・・・・いつか、僕も戦いで死んでしまうかもしれない・・・・・・それが怖い」
ネイトはまた泣き出した。
「・・・・・・ネイト、お前はどうしたい?」
バルトは言った。
「普通に生きたい・・・・・・、でも僕にしかできないなら、犠牲になっても皆を救いたい、このままでずっと居たい・・・・・・わかんない」
ネイトは力の無い声で震えながら言った。
「そっか」
バルトは優しい表情をしていた。
「あの・・・・・・ずっとこのままだけど・・・・・・いいの?」
ネイトは少し困惑した。
長い時間が流れていた。
「こうやって、人に支えられてるのが安心するんだろ」
バルトは、肩に手をずっと置いて体を支えていた。
そして、ずっと真正面からネイトを優しく見守っていた。
バルトは言った。
「うん・・・・・・でも、もう落ち着いたから大丈夫」
それを聞いてバルトは手を離した。
少しネイトは寂しそうな顔をしたが、すぐに穏やかな顔になった。
「ごめんね、とりあえず、わからないけど、人助け続けてみようと思う」
ネイトは言った。
「じゃあそれでいいか」
レイはあくびをして言った。
「そっか、よし行くか」
三人は歩き始めた。
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