第8話 似たもの

「・・・・・・、追っ手を撒くからって・・・・・・こんな」

ネイトは息を荒くして森の草をかきわけて歩いていく。

「すまんな、だがなるべく安全な道を選択してる」

レイは空を見上げた。

「あの、暑くないんですか?」

ネイトは、不思議そうに前を歩くレイを見た。

レイは、斥候のローブに身を包んでいた。

「意外と快適なんだ」

二人の雰囲気は良く似ていた。

いや似てきていた。

ネイトは以前より喋る様になったし、レイはあまり喋らなくなった。


レイは、すこし一心不乱に歩きすぎていた。

「後ろ確認してなかった・・・・・・」

ネイトはしっかりと着いて来ていた。

「やっぱ勇者ってだけの事はあるな」

レイは呟いた。

森の道を歩き始めて1日くらい経っただろう。

ネイトがしっかりと着いてくるものだから、レイはプロの斥候の部隊と同等のペースで歩いていた。

「ここら辺で休憩するか」

「・・・・・・はぁ」

少しホッとした様な表情をネイトはした。


「時間がなくて、食料を持ってきてないが・・・・・・」

レイは周りを探り始めた。

「肉とかは・・・・・・」

ネイトは少し困った顔をした。

「お前肉は残してたもんな・・・・・・」

レイは近くのトゲだらけの硬そうな皮に包まれた木の実を短剣で刺した。

穴から木の実の汁が滴り落ちる。

レイは木の実の汁を水筒に移していく。


「ニードル・ナッツは、そこそこ栄養がある」

レイはニードル・ナッツの汁を飲み始めた。

「あんまりおいしいものじゃないけどな」

レイは顔をしかめた。

ネイトは近くのニードル・ナッツに短剣を刺した。

その汁をレイがしたように水筒に移していく。


水筒に溜まった汁をネイトは息もせずに飲んでいた。

「お前そんなに喉渇いていたのか」

レイは少し呆れたような表情をした。

「別に我慢はできるんですけどね・・・・・・」

ネイトは少し空を見上げた。


「このまま・・・・・・ずっとこうやって」

そう呟いた時、急にネイトの瞳孔が開き息を荒くし始めた。

「どうしたんだ・・・・・・?」

レイはネイトの様子が変だと気づき近寄る。

「呼んでる・・・・・・誰かが」

ネイトは森の中を一心不乱にかきわけて走った。

レイもネイトを追うが、さっきまでとは比べ物にならない速さだった。


「泣いている声・・・・・・早く・・・・・・」

そう呟きながらネイトは走り抜けていく。

そして着いた場所には、一人の魔族の少年が居た。

角が髪の毛の間から飛び出していて、鋭い牙を持っていた。

なにより、魔物らしい月のような目をしていた。

「なんで・・・・・・人間が」

「別に・・・・・・君には危害を与えないよ」

ネイトには、助けを呼ぶ声がずっと聞こえていた。

魔族の少年は警戒した表情で剣を構えた。

だがすぐに剣を落とした。

そして何も興味がなさそうな表情になった。

そして少し寂しそうにしゃがみ少年は言った。

「・・・・・・あのさ、一人で死ぬの怖いから一緒にいてもらっていいかな」

「死ぬって・・・・・・、どうして?」


「俺さ、魔法が得意で・・・・・・人間に化けてずっと冒険してたんだ、人間のバルトとして」

バルトは話を始めた。

虫や風、鳥の声しかしない森の中だった。

「大切な友達ができて、一緒に冒険もした、だけど魔物との戦いで動けなくなって、魔法解けて、それで、そいつにばれちまって・・・・・・」

バルトは一粒の涙を流した。

ネイトは話を聞くだけで心が痛くて張り裂けそうになった。

「そいつの母親、魔族に殺されたんだ・・・・・・だから俺の事も冷たい目で見てきて・・・・・・二度と近づくなって・・・・・・」

バルトは剣を取った。

「それは死にたくなるよね」

意外な反応にバルトは驚いた。


「僕も死にたくなる時はあるよ・・・・・・好きにすればいい、でもなんで君は助けを呼ぶのさ・・・・・・」

「俺は助けなんて・・・・・・」

ネイトは少し俯いて呟いた。

「聞こえるんだ、心の声が・・・・・・、君は誰かに助けてもらいたいと思っている」

バルトは笑い始めた。

「おかしい奴だな・・・・・・、もしそうだとして、あんたに何ができる?」

ネイトはすぐさま答えた。

「僕も同じ悩みを抱えているからわからないよ」

バルトはとても不思議そうな顔をした。

「でも君が死ぬと助けられなかったことを悔やみ続けると思う」

「・・・・・・、はぁ、心の声が分かる奴なんているんだな」

バルトは少し諦めた表情をした。

「じゃあ、あんたがいないところで死ぬとするわ」

バルトは立ち上がった。

「悪かったな、呼んじまって」

バルトは森の奥へ歩いていった。

「待って・・・・・・」

ネイトは呼び止めた。


「なんだよ、俺を助けること無いだろ」

「違うんです、僕が辛いんだ・・・・・・」

ネイトは泣き始めた。

「おいおい、やめろよ、辛いのがどっちかわかんねーって」

「あなたと話してると僕を見ているようで・・・・・・レイもきっとこんな気持ちだったんだ・・・・・・」

バルトは溜め息をついた。

「すごい自分勝手な事を言うけど・・・・・・僕の為に生きていてはくれませんか」

「・・・・・・、それ約束して守ると思ってんの?」

「だって、あんまりじゃないですか、せっかく仲良くなれた友達に裏切られるって・・・・・・それで自殺って」

ネイトが泣いているのを見てバルトも徐々に耐えられなくなってきた。

「わかってるんだよ・・・・・・自分でも、こんなの悔しいって、報われねぇって、だけど怖いんだ、生きるのが・・・・・・」

バルトは我慢ができなくなり、顔を腕で隠した。

涙が隠せず零れ落ちていた。


「俺はそんなに強くないんだよ・・・・・・人が怖いし、信じられなくなって他の魔族みたいになっちまうかもしれない自分も怖い・・・・・・、ここで死んだら全て楽になるような気がして・・・・・・」

バルトは思いを全てネイトにぶつけていた。

言葉一つ一つがネイトに響き渡る。

ネイトは自分によく似たバルトの言葉を否定することはできなかった。

むしろ納得していた。

「もしかしたら・・・・・・死んだほうがいいのかもしれません、僕もあなたも」

ネイトはもう訳がわからなくなっていた。

「だって・・・・・・死ねば僕が死んだことによって苦しむ人を僕は見なくていい・・・・・・だったら正解なのかもしれない」

「・・・・・・悔しいけど、死ぬしか・・・・・・」

二人とも疲れきって座り込んでいた。

「苦しい・・・・・・」

「生きるのが怖い・・・・・・」

ずっとそんなことを呟いていた。


「おい、ネイト」

レイが息を荒くして来た。

「レイさん・・・・・・ごめん、やっぱり生きるのが怖いよ」

「やっぱ死ぬしか・・・・・・」

どんよりとした空気が流れていた。


「おい、まさか二人で死のうってんじゃねーだろうな」

レイは呆れた顔をした。

「だって・・・・・・彼の言ってることがよくわかります・・・・・・僕も死んだほうがいいような気がして・・・・・・」

「馬鹿が、ミイラ取りがミイラになるんじゃねーよ」

レイは二人の服の首元を後ろから掴んだ。

「ったく、魔族のお前も災難だったな、こいつ死のうとしてる奴を助けれるような奴じゃねーんだ、こいつも死にたがりだしな」

二人を引っ張ってレイは歩き出した。

「ちょっとどこへ・・・・・・」

「なんなんだよぉ」

とても魔族とも勇者とも思えない光景だった。


「結局お前ら、ずっと引きずられてんのな」

着いた場所は崖だった。

「こっから、飛び降りるんですか?」

ネイトは呟いた。

「あぁ・・・・・・後悔しない自信あるかな・・・・・・ああでも俺生きるの辛いし」

バルトは頭を抱えながら呟いた。

「ちげーよ、海が綺麗だと思ってな」

レイが下に広がる海を眺めた。

海に星や月が映し出されていた。

清清しい潮風が吹いている。

「あのな、お前らウダウダ考えすぎ、事情はよく知らないが、死ぬくらいの覚悟があるなら生きるのなんて、それに比べれば怖くないさ」

ネイトとバルトは海を眺めていた。

「・・・・・・こんな綺麗だったっけ、この世界」

「わかんねぇけど、もう少し生きてみようかな・・・・・・」

レイはため息を深くついた。


「もう少し遅かったら本当にやばかったな」

レイはその後少し間をおいて真剣なトーンで呟いた。

「この崖から落ちること想像してみろ」

「・・・・・・怖い」

「・・・・・・やっぱり怖い」

レイはその言葉を聞いて少し安心した表情をした。

「その気持ちをしっかり持ってたら大丈夫だ」


三人は何もせず時間を過ごしていた。

「あのさ、頼みがあるんだ」

バルトは呟いた。

「なんですか?」

ネイトはとっても穏やかな表情だった。

「また死にたくなるかもしれない・・・・・・、だからそばに居て欲しい、そうなるのが怖い」

「・・・・・・レイさん」

「別にいいさ、好きにしろ」

レイは少し考えて呟いた。

「名前は」

「バルトだよ」

「そうか、バルト、こいつは勇者だが訳あって俺らは追われている」

バルトは困惑した。


「おいおい、思ってた勇者と・・・・・・」

「ごめんなさい・・・・・・ごめんなさい」

ネイトは俯いて呟いた。

「んで、こいつには色んな声が聞こえるってのは知ってるよな、だからこいつはすぐ精神がおかしくなっちまう」

ネイトは申し訳なさそうな顔をした。

「そういう時は、逆にこいつのそばに居てあげてくれ」

「わかった」

ネイトは泣き出しそうな顔をした。

「僕なんかの為に・・・・・・」

「貴重な水分を消耗しようとすんじゃねー!」

レイは呆れていた。

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