第5話 正義の定義

「胸が・・・・・・」

ネイトは胸に手を当てて震えていた。

「ずっと苦しい・・・・・、はぁはぁ・・・・・・」

ネイトが弱音を見せるのは、人が見てない前だけだった。

「やっぱり薬あったほうが・・・・・・」

レイはネイトの苦しむ様子を見てられなかった。

「でも・・・・・・レイが僕の為に・・・・・・捨ててくれて・・・・・・、答えないと・・・・・・」

ネイトは苦しんでいたがいきなり耳を押さえ始めた。

「うわぁぁぁ!」

ネイトは叫び始めた。

「やめてください・・・・・・助けを求められたら・・・・・・」

ネイトは涙を流しながら立ち上がる。


「どうした!?」

それはネイトが一番恐れていたことだった。

「魔物が・・・・・・助けを呼んでる・・・・・・」

ネイトはふらふらしながらも素早い速度で近くの森へ走っていた。

レイも全速力で追った。

そして、着いたところには、狩り人の集団が居た。


「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・」

ネイトは今にも吐きそうに口を押さえた。

「希少な魔物の素材を取るための・・・・・・狩猟・・・・・・」

レイは立ち尽くしていた。

「やめてください・・・・・・」

ネイトは叫んだ。

「どうしてだ!?ていうかあんたら何だ!?」

狩り人はそのまま、鹿のような魔物を狩り続けていた。

「やめてください・・・・・・その子達・・・・・・苦しんでるから」

ネイトは口から血を吐きながら必死で頼んでいた。

魔物の声を全身で感じ取り、体が持たなくなっていた。

「できねーよ!俺らも生活かかってるんだ!」

ネイトは頭を抱えた。

レイは何も言えなかった。


ネイトは武器を地面に捨てた。

そしてあの魔物との戦いを超える速度で狩り人達の武器を奪い去る。

「逃げてください・・・・・・」

鹿の魔物達は驚いた様子だったが、逃げて行った。

「おい・・・・・・何しやがる!」

狩り人達の怒り方は尋常なものじゃなかった。

「ごめんなさい・・・・・・でも・・・・・・」

狩り人の一人がネイトに近づき顔を強く殴った。

殺す気があったようだった。

「ごめんなさい・・・・・・ごめんなさい」

そう呟きながらネイトは体に力を入れず立ち尽くしていた。

「やめろ!」

レイは狩り人の一人の殴ろうとする手を止めに入った。

「やっと見つけたのに・・・・・・田舎の母さんの病気治すために・・・・・・」

その言葉を聞いてネイトは一層苦しみ始める。

「その病気は・・・・・・」

ネイトが呟いた。

「魔人病・・・・・・体が人間のそれじゃなくなって死ぬんだ・・・・・・村で流行ってて・・・・・・、もう明日が治療するギリギリなんだ!」

「僕のせいで・・・・・・」

ネイトは体の力が完全に抜けて、倒れこんだ。


「僕のせいで死んでしまう命が・・・・・・増えた」

ネイトは血の涙を流し始める。

「殺してください・・・・・・命は命で償うしか・・・・・・」

狩り人は困惑していた。

「・・・・・・そんなことしたって何にもならないですよね・・・・・・」

ネイトはふらふらと立ち上がる。

「魔人病治す・・・・・・治す・・・・・・魔人病・・・・・・」

ネイトはブツブツ呟き始めた。

「おい、大丈夫か・・・・・・!?」

ネイトはとても苦しそうだった。

「お金・・・・・・ですよね、殺してしまったマナエルクは売るしかありません・・・・・・、それでも足りないから・・・・・一刻も早くだったら・・・・・・」

ネイトは何か決心したように頭を抱える手を止めた。

「何人ですか・・・・・・あなたの母親だけではないでしょ・・・・・・」

ネイトの目は完全に死んでいた。

いつも以上にだった。

「実は村に10人くらい・・・・・・」

「わかりました、レイさん・・・・・・着いて来ないで・・・・・・」

そう言い残しネイトは走り出した。


「ほんっと、領主様も貴重品集めるの好きだよな」

王国の兵士が呟いた。

「貴重品だけにこれだけ人員割くんだもんなぁ」

「ごめんなさい・・・・・・」

ネイトは王国の倉庫の正面の入り口を守る王国兵士に近づく。

「ちょっと、ここは立ち入り・・・・・・ぐ」

ネイトは王国兵士の二人の腹を強く殴った。

王国兵士が二人とも倒れた。

「ごめんなさい・・・・・・」

中には王国の兵士が巡回していた。

「貴重品・・・・・・村の人救えるだけの・・・・・・」

兵士に気づかれないように忍び込み、貴重品を盗む。

これがネイトに出来る救う方法だった。

「もう大丈夫・・・・・・かな」

ネイトは入り口から出て呟いた。

「ここの領主様は・・・・・・優しいからきっと」

そのときだった、ネイトは誰かに見られている事に気づく。

「なぜそれが必要になるのかね・・・・・・」

声の正体は領主だった。

領主は近づく。

周りには兵士がたくさん居た。

「お願いです・・・・・・僕の顔を見ないで・・・・・・」

ネイトは潰れそうな声で言った。


「あなたが必死で集めた、大事なものです、わかってます。聞こえるんです・・・・・・、あなたを主として認めている・・・・・・」

ネイトは苦しそうに俯いた。

「見ないでください・・・・・・、もし見てしまえば、あなた達はきっと正義を信じられなくなる・・・・・・」

領主は普通の盗人ではないのだけが分かった。

「なぜ見られれば困るのかね、もしかして私は君の顔を知っているのか?」

ネイトは何も答えられなかった。

「もしかして君は・・・・・・」

ネイトはもう嘘をつくのが辛くなっていた。

領主がフードを少し取ると顔を見てすぐに戻した。

「・・・・・・すみません、領主様、恩を仇で返すような事を・・・・・・して」

領主は後ろに腕を上げ、兵に下がれとだけ命令をした。


「私は何も見ていない・・・・・・」

領主はそう言って、その場を去ろうと歩いて行った。

「ごめんなさい・・・・・・あなたしか頼れなかった」


ネイトは貴重品を森の中に持ち帰った。

「これで・・・・・・村の人救ってあげてください」

レイは出所がわからない貴重品をすぐに盗んだものだと分かった。

「ネイト・・・・・・」

「ありがとう・・・・・・誰だか知らないが・・・・・・」

「でも、あの顔どこかで・・・・・・」

狩り人達は、貴重品を村へ持ち帰っていった。


小屋へ戻るとネイトは泣き出した。

「人の優しさを利用したんだっ・・・・・・・僕は能力でわかってた・・・・・・」

ネイトはナイフ持ち自分に刺そうとした。

「やめろ!」

レイがその手を掴んだ時、確かに胸に刃が少し刺さっていた。

「本気・・・・・・だったのか?」

レイは、血を流し始めたネイトに、すぐさま包帯を巻こうとする。

「僕はね・・・・・・、盗んだんです・・・・・・、それも優しい人から」

レイが包帯巻こうとするとネイトは後ろに後ずさりをした。

「盗んでも許してくれるような人から・・・・・・わかってて・・・・・・」

ネイトは苦しそうで、痛そうな表情だった。

「友情を・・・・・・、善意を・・・・・・、能力を自分の為に利用するなんて・・・・・・」

ネイトは壁に持たれて座り込んだ。

「生きる価値がないんですよ、あの人だけは・・・・・・あの人だけは僕を理解してくれたのに・・・・・・僕は信用を裏切ったんだ」

「死ぬつもりなら・・・・・・俺は止めることはできない」

レイはそう呟いた。


「・・・・・・わかってるんでしょ?僕が死ねないことを!」

血を流した胸を押さえながら、ネイトは言った。

「だから自分に罰を与えるんです・・・・・・、信用を裏切った分・・・・・・何かが悲しんだ分・・・助けれなかった命の分・・・・・・!」

ネイトは血を流し続けていた。

「あの王国の兵士さんは何も悪いことをしてないのに・・・・・・僕は殴ったんだ・・・・・・」

「盗んだのが僕だってばれないように隠れたんだ・・・・・・、苦しいから自分の為に・・・・・・これは人助けなんかじゃないんだよ・・・・・・」

「死にたいよ・・・・・・僕はさ・・・・・・死にたいんだよぉ!」

そしてネイトはその時意識を失った。


レイは意識を失ったネイトに手当てをして、ベッドで寝かせた。

寝ているだけならただのローブを着た少年だった。

「こいつが休まる時は・・・・・・、意識がないときだけ・・・・・・なのか」

レイは見ているだけで胸が潰れそうだった。

「人を救う為に戦って・・・・・・人を救う為に死ねなくて・・・・・・」

レイは何もできない自分が嫌になった。


寝ているネイトを見守っていたレイだったが、ふとネイトが呟いた。

「ごめんなさい・・・・・・、あなたは何も悪くないのに・・・・・・」

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