第2話 ファントム・ペイン

「レイ、苦しい‥‥ちょっと薬いいかな」

ネイトは散々ネガティブな事を呟いた後、泣きじゃくった。

その後しばらくの沈黙の中彼が言った一言である。


「思うんだが、お前の飲んでるこれ、大丈夫なやつか?」

「‥‥‥‥痛み止めさ、心のね」

ネイトの目には、光がなかった。

「都合のよい勇者になれば、いいんでしょ?」

ネイトの持っている薬を奪い取り、ネイトはその薬を飲んだ。

「あは‥‥いくか」

ネイトの人格が薬を飲んだときだけ変わる。

みんなの言う、勇者になるのだ。

「ネイト‥‥お前の力を利用するためにこんなものまで、みんな用意して‥‥やっぱり間違ってる‥‥よな」

レイは、従者になって数日、ネイトに薬を決まった量与えた。

国には、勇者本来の姿を取り戻す治療薬と聞いてたがどうもおかしい。

「行こうよ、モンスターが殺したくてゾクゾクする‥‥!」

ネイトはそのまま飛び出して行った。

「待て!」

仮にでも勇者である、ネイトはかなり速いため追い付くのは無理だ。


「この森のはずだが、どこだろう」

辺りには気配はない。

結局夕方まで探すと、魔法により隠されていたオークの集落を見つける。

集落の中にはいると、血の匂いがした。

そこには、泣きじゃくるネイトが居た。

「また、薬のせいで‥‥」

だが、この集落には、人間から略奪したであろう物がたくさんあった。

「人間に危害を与えるオークの集落を見つけて、制圧したんだ、きっと助かった人もいるだろ」

レイがそう言ったところで、ネイトは泣きじゃくるだけだった。


「お前そんな嫌だったら飲まなきゃいいじゃねーか」

レイは呟いた。

「苦しくて‥‥痛みが‥‥あれがあれば、痛みを忘れられて‥‥」

ネイトに動く気力はなかった。

血だらけになったネイトを背負って森から出るレイは、ネイトに言った。

「お前がそんな苦しいなら‥‥もう戦わなくていい、俺らみたいな大人のために苦しむ必要はない」

ネイトはなにも答えなかった。

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