第10話

「カリン……」

 呼ぶ声がする。カリンはそっと目を開いた。

 ナイトホークが心配げにカリンを見下ろしていた。

「ダークウルフは?」

「消滅した。そして、カリンも死なずにすんだ」

「じゃあ、ドラゴンは諦めるんだね……」

 しかし、ナイトホークはカリンがドキッとするほどの笑顔を浮かべ、ドラゴンを指さした。

 黒い滑らかな台座にくっきりとドラゴンホースの姿が映り、その鏡映に剣が刺さっていた。

「じゃあ、あれは」

 カリンの問いにナイトホークはうなずいた。

「ドラゴンホースを殺すんじゃない。その影の血が必要だったんだ」

 気づいてみれば、カリンはもとの人間の姿に戻っている。

 台座にはもう一本剣が突き立っていた。

「ダークウルフは自分の剣で自分の影を貫いてしまったんだ」

 ふたりの見守る中、台座のドラゴンホースの影から、じわじわと虹色の光が広がっていった。 

 影は白色のきらめく光を放ち、足元からドラゴンを照らした。オパール色の光はドラゴンに吸い込まれるように、灰色の石を染め変えていく。灰色のうろこが光を放ち、ドラゴンは見る間にオパール色に輝き出した。

 目覚めたドラゴンはシャリシャリと翼を広げ、首を下ろし、主がその背に乗るのを待ち受けた。

「カリン、これでおまえの界域に連れて行ける」

 差し出されたナイトホークの手を取り、カリンはドラゴンの背にまたがった。

 カリンは頭上を見上げ、

「天井にぶつからない?」

 と、心配して言った。

「大丈夫、ドラゴンは移動するんだ。飛ぶのは次空と次空の狭間で、空間じゃない」

「ナイトホークの言ってること、なんだか分からない」

「乗れば分かる。本当に一瞬に俺たちは移動する」

「さよならは言えるの? また会えるの?」

 ナイトホークは表情を緩め、カリンを見つめた。

「会えるときはいつでも会える。さよならはまだ早いかもしれない」

 ナイトホークは虹色のドラゴンの首筋をなでた。

「さぁ、出発だ」

 カリンはナイトホークにしがみつき、目をつぶった。

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