第9話

 倒したはずのダークウルフが、ドラゴンロードに立っていた。

 胸の傷に手を当て、やはり片手には黒い剣を携えていた。

「し、死んでなかったの !?」

「この程度でこのチャンスを諦めるものか」

 ダークウルフは剣の切っ先をナイトホークに向けた。

「わたしにはハンデがある。これでお前と対等だ。それとも、もう降参かな?」

「戦う……」

 カリンは驚いた。

 ナイトホークは顔をきっと上げ、もう一度言った。

「戦う。そして、カリンをもとの界域に帰す」

 ダークウルフはあざ笑った。

「おまえはやはり未熟者だ。この界域はあと数十年ももたない。おまえはこの世界とともに滅びるのだ」

 カリンはハラハラしながら二人を見つめた。

 黒ずくめの二人はジリジリと間合いをせばめ、剣の切っ先を擦り合わせた。

 キュイーン!

 剣と剣が音叉のような音を発し、弾け飛ぶ。確かに二人は互角だった。

 カリンは台座の前にたたずみ、ただぼうぜんと戦いを見守るしかなかった。

 しかし、だんだんとナイトホークは追い詰められ、カリンににじり寄ってきた。

 ひゅっ ひゅっ

 ダークウルフの剣がカリン目がけて振り下ろされる。

 それをやっとのことでナイトホークは押し止どめた。

 明らかにダークウルフはナイトホークではなく、カリンを狙っている。

 狭いドラゴンロードの上では逃げ場もなく、カリンはおろおろするだけだった。

「カリン!」

 ナイトホークが叫んだ。

「絶対おまえを死なせない! ドラゴンなんて所詮俺には無理だったんだ」

 カリンは目頭がほてってくるのを感じた。

 そんなことない、そんなこと……!

「ナイトホーク! やっぱり、諦めちゃだめ! ドラゴンはナイトホークのものだよ!」

 カリンは思わず叫んでいた。でも後悔してなかった。

 あたしには分かった。何にもしないより何かした方がいい。何もしないで諦めるより、失敗してもいいから挑戦した方がいい。

 だから、あたしはナイトホークのために死ぬ!

 ナイトホークとダークウルフがギュインと剣をあわせた。

 力と力のせめぎ合いに剣が悲鳴を上げ、二人の手から離れた。

 二本の剣がカリン目がけて迫ってくる。

 カリンは悲鳴を上げて、目をつぶった。

 カリンと同時に悲鳴を上げたものがいた。

 だれの悲鳴なんだ? 

 薄れゆく意識の中でカリンは思った。

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