第7話
「ここはドラゴンロードの中なんだ。ドラゴンホースしかここを歩けない。それに俺から離れれば、他の竜魔士がお前を捕まえるだろう」
やっとのこと引き上げられ、カリンはうずくまったままたずねた。
「竜魔士!?」
男はカリンのまえに腰を降ろした。
「ドラゴンマスター。ドラゴンを操るんだ。もう何百年もドラゴンは現れていない。おまえは今竜魔士の注目の的なんだ。実際ねらっているのは俺と界域を同じくするダークウルフだけどな」
しかし、カリンはそんなことが知りたい訳ではなかった。怒りで頭の中がワヤクチャになってしまっていた。
「ドラゴンマスター!? 一体なんのことよ !? どうしてあたしが他のだれかに狙われなきゃならないのよ !!」
「落ち着いて」
男がごそごそ腰元を探り、一本の木の枝をカリンに渡した。
「これを噛んでいれば落ち着いてくる」
カリンは始めはいぶかしんでいたが、木の枝を口に含んだ。ミントの味がする。
「あの界域で俺がお前を見つけられたのは本当に何千分の一かの可能性だったんだ。ダークウルフに先を越されてもおかしくなかったんだけどな……これでドラゴンを見つけられれば、別の界域へ自由に移動できる」
「あんたの言うことなんか信じられない」
気分は落ち着いてきたけれど、カリンは頑固に言い放った。
「信じられないなら信じなくていいよ。だけど、ドラゴンは見つけてもらう。もうこの界域は壊滅寸前なんだ。早く逃げ出したい」
カリンは木の枝を噛みながら、男を見つめた。
男はまじめな顔でカリンを見返している。
どうやら、ドラゴンを見つけなければ、自分もこの変人と一緒にこの霧だらけの世界で恐ろしい目に合うようだ。
「いいわ……でもドラゴンロードからは抜け出せないの?」
「もう無理だ。ただひとつ、ドラゴンロードの道の狭間にはまれば、界域を抜けられるけれど、死ぬ」
さっき落ちかけたのが、その狭間なのだろうか。カリンはゾッとした。
「それならどうやって竜魔士が来れるって言うの」
「この霧に紛れて竜魔士はやって来る。霧がある場所でしか長く存在できないんだ」
「でも狙ってる竜魔士はダークウルフだけなんでしょ?」
「ダークウルフは何千年も生きてる奴だ。俺では勝てない」
「じゃあ、どうするって言うのよ!」
「ドラゴンホースになればなんとかなる。けど、俺が諦めたり死んだりしておまえから離れれば、おまえはダークウルフのものになる。ただし、奴が狙って来るのはおまえがドラゴンホースの姿になったときだけだ。おまえを変身させることのできるのは最初に触れた俺だけだからな」
嘘か本当か、カリンには見当がつかなかった。ただ黙って、この男に従うしかないのだろうか。自分には選択したり、決定したりする権利はないのか!?
また、カリンはひどくはがゆい思いに駆られた。
「なんで竜魔士なんかになったのよ!」
男は静かに言った。
「ここに産まれ出る人間はみな竜魔士なんだ」
「じゃあ、親も?」
「そんなものは居ない。俺たちは霧から産まれるんだ」
カリンは男の言葉にゾッとした。
「そんな……妖怪人間ベムじゃあるまいし……」
「妖怪人間?」
「いやぁ……そんなことはどうでもいいんだけど……名前くらいあるんでしょ?」
「ナイトホーク」
「あたしはカリン、相馬カリン」
ナイトホークはしごくまじめな顔をして、カリンの言葉を聞いている。無表情だがそれがとても美しく見えて、カリンはどきまぎして目をそらした。
「名前を聞かれたのは初めてだ」
「仲間同士で話し合うこととかないの?」
「ないね。みんな一人だ。けど、ぎっしりみんなここにいる。俺たちの話も全部聞かれてるよ」
「えっ !? そうなの?」
カリンは気味悪く感じ、辺りを見回した。
「大丈夫。カリンにちょっかいをかけたりできない。カリンは俺の属する界域の人間だからだ。気をつけなければいけないのはダークウルフだけだ。だから、変身したときに気をつけるんだ。カリンをドラゴンホースに変えられるのは最初に触れた俺だけだから」
「でも、霧相手に何ができるの?」
ナイトホークは立ち上がった。
「ドラゴンホースになれば分かる。そろそろ行こう……早くドラゴンが見つかれば、カリンを元の界域に連れて行ける」
ナイトホークはそう言うと、カリンの額の石に手を触れた。
「はみはやめてよ。それからおなかをけるのも」
変身しながら、カリンは言った。
「分かった」
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