第2話

 学校はつまらない。

 高三になったカリンが考えることはそればかりだ。数学と古典さえなければ、自分の偏差値も下がったりしない。そこそこにいい大学に入れる。今なら推薦を受けるのも可能だ。

 けれど、それはできない。なぜなら、親に全面反対を受けているからだ。特に父親がカリンを県外に出したくないのがその理由の一つだ。後は訳が分からない親の都合のような理由。

 思い出すだけで腹が立ってくる。それにもっと腹が立つのは自分が諦めかけていることだった。親の不合理な命令に屈している自分が大嫌いだった。

「カリン」

 気付くと授業は終わり、辺りは解放感にざわめいていた。 

「カリン、怖い顔してどうしたのよ?」

「あたしは親の人形なんだって、考えてたとこ」

「またその話?」

 友人は複雑な顔をする。どう答えていいものやら口ごもってしまうからだろう。

「なんか、あたしには自由がないって感じ」

 カリンは友人にかまわず続けた。

「このまま短大行って、親の選んだ男と結婚して、子供産んで、親の言いなりのまま年取っていくんだ」

「そんなことないって、カリン。考え過ぎだって」

「でも本当のことだもん」 

 進路のこととなると、カリンにはそういう考え方しか浮かばなかった。どうしても明るい展望を見つけることができない。

「大変だね、カリン」

「本当、そうだよ」

「ねぇ、帰りにマクドに寄ろうよ、それともカリンお弁当?」

「ううん、いいよ……」

 カリンはそう答えてから、慌てて言葉を濁した。

「やっぱ、遠慮する。ちょっと用事があるから」

 あの稲妻の落ちたところを見てみたいと好奇心に駆られたのだ。稲妻が落ちたところはちょうど校庭の中心だった。

 カリンはわらわらと校庭を抜けていく群れから外れて、ゆっくりと校庭の真ん中へ歩いていった。

 光を受けてキラリときらめくものが落ちている。 

 かがみこんでよく見てみると、オパール色の親指大くらいの石があった。カリンは疑うこともせず、すっと自然にその石を拾った。

 手の中で転がすと、それは滑らかな光沢に輝き、その中心部にはゆらりと赤いもやが見て取れる。

「カリーン! 何やってんのぉ?」

 友人の声にカリンは振り向いた。

「あ、あのねぇ……」

 石のことを知らせようと、カリンは石を握った右手を振った。そして、はたと気付いた。

 石の感触がない。

「なぁに?」

 寄って来た友人から隠すようにカリンは右手を開いた。

 石はなかった。消えうせていた。

 カリンはぼうぜんとしながら、答えた。

「な、なんでもない……やっぱマクド寄るよ」

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