ドラゴンロード

藍上央理

第1話

 夏の課外授業はキライだ。

 窓際の席に座り、机のうえに開いているのは難解至極な数学の教科書。

 カリンはペンシルの先で頭を掻いた。

「……であるからしてぇ、この公式に当てはめると……」

 窓は開いていて、カリンの心は外へと向けられている。眠たい。赤点の末、夏休みを削ってまで受ける授業なんかつまらない。

 ペンシルが広げたノートにミミズのような線を引いていく。

 太陽は東、まだ昼前だと分かる。日光を遮る雲さえなく、太陽の日差しがジリジリと教室に差し込んでくる。

 カリンの耳は蝉の声を聞いている。日本語とも思えない教師の発する数式は雑音としてとらえていた。

 早く終わらないかな……帰りたい……

 ぼんやり考えていると、ふいに日が陰った。

 カリンは空を見た。

 黒雲がいつの間にか太陽を遮っている。それも太陽だけを隠すように丸くなって。虹色の稲妻らしき閃光が黒雲の表面に映る。

 カリンは目を見張った。

 閃光はチリチリと音もなく、地上へツルを伸ばそうとうごめいている。オパール色のきらめく光がパシンと校庭の中心に突き刺さり、消えてしまった。

 それは本当に一瞬の出来事だった。

 カリンはじっと校庭の中心を見つめた。そして空を見上げると、あの黒雲はかき消え、またあのしつこくじりつく太陽が顔を出していた。

「ま……そうま……相馬!」

 カリンはハッとして立ち上がった。

「相馬、答えは外なんかに転がってないだろ! そんなんで大学受ける気か」

 数学教師は巨大な三角定規をビシッとカリンに向けて、そう言い放った。

 カリンはふざけて、

「先生、あたし、文系ですから数学はほどほどでいいんです」

「おまえはァ、どうしてそんなかわいくないことが言えるんだ」

「反抗期だからです」

「反抗期でも何でもいいから、おまえ、この公式解けるか?」

「解けませーん」

 カリンは明るく大きく答えた。

 後ろからこづかれ、カリンは振り向いた。

「やめときなって、あんた、それ古典の時も言ったじゃない」

 カリンの通う学校はレベル中くらいの女子校だ。ほとんどの生徒が付属の女子校へ進学していく。カリンも仕方なくそうするつもりだった。だからどうしても真剣になれない。

 数学ができなくったって、世の中渡って行けるのよ! カリンは教師が別の生徒に当てるのを見て、座った。

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