第16話
近くの喫茶店で時間を過ごした私は、待ち合わせ場所に戻って来ましたが、まだそこに彼の姿はありませんでした。
30分が過ぎ、更に10分……。
15分過ぎたところで電話をしてみました。
プルルル、プルルル……。
呼び出し音が続くだけで、彼は出ません。
時間に間に合わない時は、必ず連絡をくれる彼。
もしかして、また急患連絡が入ったのだろうか。
少し心配になりましたが、また少し待ってみることにしました。
■■■■■
既に待ち合わせの時間から1時間が過ぎていました。
彼の携帯は、呼び出し音が続き、持ち主の不在を伝えてくるだけ。
流石に心配になった私は、急患がいないか確認する為に、病院へ電話をかけました。
『ハイ、尾喜総合病院です。』
『お疲れ様です。 神城です。 あの、石尾先せ……』
『神城さん!? 落ち着いて聞いて。 石尾先生が急患で搬送されてきて、今緊急オペ……』
私の言葉を遮って伝えられた内容が理解出来ない。
……先生が急患?
緊急オペ?
先生が?
『もしもし! 神城さん!? もしもし!?』
伝えられた言葉を理解した瞬間、全身の血の気が引き、気がつくと私は病院へと走り出していました。
■■■■■
手術室の前で項垂れる私。
全身汗だくになり暑いはずなのに、血の気が引いている為か、現実を目の当たりにした為か、ずっと震えが止まらない。
先生……先生……。
心の中で祈り叫びながら、ただ時間が過ぎるのを待ちました。
どれくらいの時間が経ったのか、遠くから聞こえていた診察に来ている患者さん達の声もなくなり、ふと顔を上げた私の目に【手術中】の赤いランプが消えるのが見えました。
私は勢いよく立ち上がり、扉から出てきた医師を捕まえて、『先生は!? 先生は!?』廊下に響き渡る声で医師に詰め寄りました。
『神城さん、落ち着いて。 命に別状はないから大丈夫。 ちゃんと説明するから、まず落ち着いて。』
……よかった。
本当によかった。
医師の言葉を聞いて、安心した私はその場に泣き崩れました。
■■■■■
総合相談室に、医師と私が向かい合い腰掛けて座り、彼の経緯や状況の説明が続いています。
急患の処置を終えた彼は、自宅に帰る途中で事故に巻き込まれた事。
ここへ運ばれてきた時、心肺停止状態であった事。
一命はとりとめたが、頭蓋骨骨折、脳挫傷……。
更に医師は言葉を続けました。
『君も看護師だ。 これから先の石尾先生に起こり得る後遺症は何だ?』
『……意識障害、失語、視力障害、精神……障害……。』
自分が看護師である事をこんなにも苦しく感じた事などありませんでした。
『理解しているんだと解釈した上で言っておく。 看護師だからわかると思うが、石尾先生のこれから先の現実を受け入れる事がどれ程大変か、君にとっては……地獄になるかもしれない。 その覚悟はあるのか? もし、今一時の感情でしかないなら、この場で終わりにしなさい。』
『……嫌です。』
『そうか。 長い道のりになるかもしれない。 君が決めた事だ。 貫きなさい。 白旗を上げなたくなったら、その時は私がいくらでも相談にのるからなっ。』
私はこれから始まる彼との現実を受け入れる覚悟を決めました。
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