第3話
ここは……どこだろう。
どこまでも続く真っ青な空には、雲1つない。
辺りを見回してみるも、何もない。
地面はまるで鏡張りのように、真っ青な空を映し出してて。
ん~……僕は死んだのか?
そりゃそう思って当然だよね。
さっきまで病院のベッドに寝ててさ、唇さんに脳内エロ妄想全力投球してて、急に身体が異常に熱くなってのこの現状。
普通に考えて、目覚めてこんな場所に居たら、自分死亡説発動するよね?
でも、綺麗な場所だなぁ……。
パソコンの画面でしかまだ見たことないけど……ウユニ塩湖だっけ?
あの写真でしか見たことない世界に酷似した場所が、今僕の現在地。
よく死んだら【三途の川を渡る】とか聞くけど、平成生まれは【ウユニ塩湖】になったのか?w
こんな場所なら僕的にはwelcomeだなっ!
……なんて、絶景を目の当たりにして、ただその何もない青い世界を楽しんでいた。
■■■■■
『若造! オイッ若造!』
意識を無くした僕にオッチャンは叫び続けていた。
医師がやって来て、僕の脈を測ったり。
唇さんが医師の指示でパタパタ動き回る。
『取り敢えず、解熱剤を投与しました。 体温が40℃を越えていますので、予断を許さない状態ではありますが、今はまず熱を下げるのが優先です。 採血したので、ウイルス感染等がないかも早急に調べます。』
淡々とした口調で話す医師にオッチャンは食って掛かる。
『若造は大丈夫なんだろうなっ!』
『今は何とも返答しかねます。』
『アンタ医者だろが! まさか死んだりしねぇだろな!?』
『ですから、採血の結果を見てみないことには何と……。』
『早く調べろよ!』
医師の言葉さえ遮り声を荒げる。
それ程までに心配しているのだろう。
元々血の気の多いオッチャン。
自分の店の常連であるだけではない。
息子のように思う男が、今目の前で意識を無くしてベッドに横たわっている。
その現実が耐えられないのだ。
■■■■■
オッチャンには、奥さんがいた。
本人曰く、【世界一御膳上等な女】だそう。
奥さんは150㎝程の小柄で色白。
美人よりは可愛いという言葉がピッタリな人。
よく笑い、その小柄な身体のどこに入るのかわからない程よく食べる人だった。
オッチャンが中華料理屋に見習いで働いていた時に、バイトでホール担当だったのがその未来の奥さん。
180㎝あるオッチャン。
普通に前だけ見て歩いていたら、未来の奥さんとなるその人は、視界に入ってこない。
その身長差30㎝。
当然である。
小さいその人がちょこまか動くのが面白かった。
からかうと頬を真っ赤にして怒るのが可愛いと感じ始め、しょっちゅう虐めた。
『あの頃は、俺も若かったなぁ。ガハハハハ!』
若かったって……気になる子虐めるとか、昨今小学生でもしないからっ。w
そんな小学生以下かもしれない恋愛下手なオッチャンが恋に落ちた。
正確には、その恋に気づいた。
???
薄暗い橋のたもとに人影?
こんなとこで何やってんだ?
あっ、アイツ……。
空を真っ直ぐに見上げる彼女が目に入った。
『まるで映画のワンシーンみたいだった』とオッチャンは感慨無量に頭をウンウンとふった。
空を見上げる彼女の目から、ポロポロと溢れ落ちる涙。
理由はわからない。
この人は、空を真っ直ぐに見上げて、何を思い涙を流しているんだ。
こいつの心の中を知りたい。
- 俺は、こいつに涙を流させない。-
オッチャン曰く『面倒くさい駆け引きやらは苦手だからよ、猪突猛進よっ! ガハハハハ!』だそうだ。
現在は60代前半のオッチャン。
白髪混じりの短髪で、目尻のシワが優しさを感じさせる。
若い頃はイケメンだったんだろうなと思わせる大きくて切れ長の目に、端正な顔立ち。
そんなイケメンだったろうオッチャンだが、未来の奥さんgetには、かなり奮闘したらしい。
オッチャンの奮闘劇は割愛。w
結果、その想い人を手中に収めるわけだけど。
現在のお店も軌道に乗り出した6年後、御膳上等なその奥さんは、オッチャンの前から姿を消した。
ポツリ、ポツリと普段のオッチャンからは想像つかないくらいの、淋しさと苦しさの入り交じった声で話し出す……。
『アイツはいつも最高の笑顔で笑っててな……、アイツの涙を見たのは、俺が惚れたあの時と、アイツの最期の時だけだったな……。』
急性白血病。
病院に行った時には、もう手遅れだった。
白血病本体の急性転化。
入院してから3週間。
あっという間に、オッチャンの最愛の人がこの世を去った……。
『俺の見えないとこで苦しんでたんだよアイツは……。 俺は、気づいてやる事さえ出来なかっ……。』
声を絞り出しながら、オッチャンの目から一筋の涙が流れた……。
オッチャンは、どれだけ自分を責め続けているんだろう。
最愛の人を失う。
話す事も、触れる事も出来なくなってしまう現実。
その存在が無くなった時の虚無感は計り知れない。
『アイツが最期に言った言葉がな、今の俺を支えてくれてんだ。』
頬を拭いながら、少しいつもの声色を取り戻して言う。
『貴方の全部が大好きよ。 来世でも私を見つけてね。 その時はもっと腕上げて、私のお腹もまた満足させてね。』
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