第18話 社交界に秘められた闇

学園内に奏でられる音楽、庭園には季節の花々が咲き誇り、ある生徒達は歓談し、またある男女はワルツを踊る。

生徒会長エリクシール・レーネス・レガリア様の挨拶のもと、学園社交界が始まりました。


「エリク様、お疲れ様でございます。」

「ありがとう、なんとか無事に開催することが出来たようだ。」

エスターニアから渡されたグラスを受け取り、ようやく一息がつけたところだ。


優秀な生徒会役員や、それぞれのリーダー達が各々キッチリ役目を果たしてくれた為、大きな問題もなく当日を迎えることができた。

まぁ、当日にピアノ伴奏者の到着が遅れるというトラブルもあったが、なんとか代役も立てることができたのは、 ひとえに妹のおかげではあるが。


「アリスさんも音楽隊の皆さんと、上手く演奏をなさっておられるみたいで、お兄さんとしては鼻が高いのではございませんか?ふふ。」

エスターニアは昔から時折、僕をからかう様なセリフを言う。

王子として幼い頃から厳しい教育を受け、集まる大人や何処かの令嬢達は、我先にと自身の自慢や僕のこと褒めたやす者ばかり。

そんな中エスターニアは唯一僕を王子扱いしない存在。

少し意地悪なところもあるけれどね。


だからこんな時は笑顔でこう言うのだ。

「もちろん自慢の妹だからね。」っと。


********************


私はイリア・コアヤメ・クリスタータ、クリスタータ男爵家の三女

兄や姉達が名門のヴィクトリア王立学園に通っていた事は私の自慢だった。


ヴィクトリアに通う姉達を見て、いずれ私も着るであろう制服を夢見ていた。

だけど突きつけられた現実は信じられないものだった。


幼い時から欲しいものは全て手に入れた、気に入らない侍女は翌日には屋敷からいなくなっていた。

それは私だけではなく、2番目の姉やお母様だって同じだ。

そうやって育ってきたのだから・・、これからもずっとそうだと思っていた。

だけど・・・。


お父様から告げられたのはお母様との離縁。

理由はお母様と私達兄弟が贅沢な暮らしをし、領地の経済を圧迫しているからだと。


結局お父様の元には母違いの兄と姉が残り、お母様と2番目の兄姉と共に私達は屋敷から追い出された。


卒業している姉を除き、すでに学費を払い終えている兄はそのままヴィクトリアに通うことになり、入学前の私はスチュワートに通うことになったのだ。


唯一の救いは両親の離縁は公にはされておらず、私は未だ男爵令嬢として名乗ってもバレないこと。

こんなことが知り合いの令嬢に知れたら、どんな陰口を叩かれるか分かったもんじゃない。


生活費として月々困らない程度のお金は約束されたのだけど、まったくと言っていいほど足りていないと、母や姉はいつもボヤいている。




入学式当日、お母様はピンクの派手なドレスを着て、隣の色眼鏡を付けた怪しい夫人と、何かを話されながら参列者の中にいるのが見える。

娘から見てもそのドレスは明らかに似合っていないから。


教室にもどり自己紹介をするのだと知ると、私は嬉々として男爵の令嬢だと名乗ってやろうと考えた。

貧乏平民とは私は違うのだと。


それなのにあの小娘のせいで私の紹介が霞んでしまった。

淑女のダンスや礼儀作法を学んでくる侍女がどこにいるのよ!


その後もことあるごとに私の邪魔をし、自身はクラスの人気者になり、嘘で固めた私の周りには利益目的の者だけが残った。


全部あの小娘が悪い。


学園社交界は兄のお掛けで男爵令嬢として出席することができた。

私はこの社交界であの小娘に嫌がらせをするつもりで、指定侍女に指名した。

けれどすでに高位の貴族から指名されてるですって!

ますますあの小娘に対する嫌悪感が私の中で深まるのがわかる。


そして今、あの小娘はなぜか私の目の前でピアノを演奏している。綺麗なドレスに身を包んで。

「たかが平民の分際で。」

私は会場内にいるであろう兄の姿を探しに行った。


********************


ダンスタイムが一旦終了し、音楽一時鳴り止んだ時


「アリスさんありがとうございます。リンダさんが先ほど到着しました。」

生徒会役員のお一人が私達音楽隊にだけ聞こえる様な声で教えてくださいました。


「それでリンダは?」

「今準備をされています。もう間もなく来られると思います。」

「わかったわ、ありがとう。」

ミツバさんが役員さんと簡単な確認をしして


「今のうちの少し休憩しましょう。アリスさんありがとう助かったわ、リンダが来たら交代ね。」

「はい、わかりました。」

ミツバさんと音楽隊の皆さんからもお礼の言葉をいただきました。


ふぅ、なんとか大きな間違えもなく頑張れたと思います。私頑張った!


それから程なくリンダさんが来られたので交代いたしました。

「アリスさんね、ごめんなさい、ありがとう。今度改めてお礼をさせてもわうわ。」

改めてお礼だなんて別にいいんですが。

簡単なご挨拶をして退散します。




さてお仕事も無事終わり、これからどうしよう?

①社交界でダンス・・・ないわ!

②ミリィに合流・・・目立つでしょ!

③お兄様に合流・・・周りの令嬢の視線が怖い

④控え室に退避・・・ココリナちゃんが気になる


うん④番かな。

私は目立たない様、控え室に戻るのでした。

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