第15話 はぷにんぐ!

学園社交界当日、私は主であるエスターニア様のお支度を終え、一緒に生徒会棟へ向かっています。


「ごめんなさいね付き合わせてしまって。」

「いいえ、エスターニア様のお手伝いが出来るのは、光栄にございます。」

主であるエスターニア様は生徒会の役員をされておられ、開催当日の今日は何かとお仕事が大変なんだそうです。

及ばずながら、私もお手伝いを買って出たわけです。


「もうリアは、二人の時はお姉様って呼んでくれてもいいのに。」

「そう言うわけにはまいりません。私は侍女なのですから。」

「相変わらず固いわね。ふふ。」

エスターニア様はそう言ってくださいますが、私だってホントはお姉様って呼びたいんです!

ですが、お姉様にご迷惑はかけられません!だから私の心の中だけ呼ばせていただいてるんです。


やがて私達は生徒会棟にある「会議室」と書かれている扉の前にきました。


「なんだか中が騒がしいわね。」

扉の中から何やら複数の方のお声が聞こえてきます。

エスターニア様がノックして扉を開けられます。


「エスターニアか、おつかれさま、悪いがちょっと問題が出てきたんだ。」

一人の男性の方がそう言って声を掛けられてきますが、エスターニア様を呼び捨てにするなんて何様ですか!


私が『むっ』とした顔に気づかれたのか、その男性が「この子がリリアナ?」と尋ねてきました。

えっ!?私の事を知っているんですか!?


「ええそうよ。可愛いでしょ?」

エスターニア様がそう言って私を前に押し出します。


「初めましてリリアナ、僕はエリクシール・レーネス・レガリア、妹がいつもお世話になっているみたいだね。」

「!!」


まさか王子様がおられるとは思ってもいませんでした。

そういえば、エスターニア様と同じお歳でしたね。妹さんとはアリスさんの事ですよね?やはり愛されてるんですね。


「ご丁寧にありがとうございます。エスターニア様の侍女をしております、リリアナと申します。」


「それで問題ってなんですの?」

私のご挨拶が終わったのを見計らって王子様に尋ねられます。そうでした、呑気にご挨拶をしている時ではありませんね。

私になにかお力になれることがあればいいのですが。


「それには私がご説明します。」

王子様のお隣におられた方が前に出て来られます。


「音楽隊のリンダ、ピアノ担当の者が昨日急きょ実家の関係で領地に戻っていたんですが、今日こちらに戻る途中悪路でどうやら到着が遅れてしまうそうなんです。」

「遅れるというのはいつ頃に到着予定なの?」

「おそらく午後を少し回ってしまうそうなんです。」

音楽隊といのはおそらくダンス用のバックコーラスをされる方なんでしょう。中でもピアノは音楽の花形ですから。


「だれか代役はいないの?」

「ピアノを弾ける方は何人かいるんですが、練習もなしにいきなりというのはさすがに。」

貴族のご令嬢様は淑女のたしなみとしてピアノは定番なんですが、あくまで弾けるという程度ですから、社交界などで披露される音楽は何曲もある為、練習なしでは難しいのでしょう。


「そうね、ヴィクトリアの生徒だと、急に、となると難しいわね。」

エスターニア様が顎を手に乗せて迷われています。私がお母さんのようにピアノを弾ければいいんだけれど。


「「・・・・・あっ!」」

私が声を上げたのと同時に、王子様も声をあげられました。


「リア、誰か心当たりがあるの?」

エスターニア様が一度王子様を見て、そのあと私を見てから訪ねて来られます。


「えっと、差し出がましいのですが、一人心あたりがおられるのですが・・・。」

そう言って王子様の方を見てみます。


「それはスチュワートの生徒?」

「はい、そのアリスさん・・、アリス様なのですが、以前ピアノは幼い頃から習われていたとおっしゃっていましたので。」


「アリスさんって、ティアラ様の妹さんの事よね?」

「いや、そこは僕の妹と言ってほしいんだけどね。」

王子様がちょっと拗ねたようなお顔をされています。そんなお顔もされるんですね。


「ふふ、あら、ごめんなさい。それでエリク様、アリスさんのピアノはどうなんでしょう?」

「たぶん行けるんじゃないかな、以前姉上がピアノは自分と引けを取らないレベルだって言っていたから。」

「ティアラ様と同じレベルでしたら問題なさそうですわね。」

ティアラ王女様の事はよくお噂にはお聞きしますが、なにをやってもプロの方と引けを取らないと言われているんです。

まさに王女様の中の王女、プリンセス・オブ・プリンセスなんです。


「じゃちょっとアリスを呼んでくるよ。」

「あっ、私が行きましょうか?」

「ん~、いや、君はエスターニアの手伝いをしてあげてくれるかな。アリスの驚く顔も見てみたいしね。」

そう言いながら颯爽と扉の外へ出て行かれました。


「ふふふ、エリク様は妹さん達のことを可愛がっておられますから。」

「あら、エスニアだっていつもリアちゃんの事嬉しそうに話してるじゃない。」

お部屋におられた女性の方が言ってこられます。お姉様はエスニアって呼ばれているんですね。

いや、それより私の事を話されているんですか!?


「そんなの当然じゃない。私の可愛い妹よ。」

そう言いながら私の後ろから抱きついて来られます。

あわわ、ちょっと人前でこれははずかしいですよぉ〜、おねえさまぁ。

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