第12話 ご指名侍女は誰の手に

学園社交界の開催が発表されてから、私たちは連日パーティーの準備に追われています。


私たちのクラスは大半、当日ヴィクトリアのお嬢様方の準備を担当する事に決まりました。

とはいえ、1年生はまだ素人のレベル、その為ヴィクトリアの生徒は各自お屋敷から1名専属の侍女さんが来るようになっているんです。

また、当日ヴィクトリアのお嬢様方の担当の侍女役は、お嬢様方からの指名がない限りはランダムで指名されるんです。


お嬢様方の指名というのは、リリアナさんのようにすでに公爵様にお仕えされている方や、優秀な侍女を指名することで、卒業前に確保しておこうとの狙いもあるんです。

優秀な侍女や執事は、お屋敷の運営に大きく影響する為、喉から手が出るほど欲しいのです。




「リリアナさんはエスターニア様のご指名があるんですよね?」

「ええ、いずれはエスターニア様の侍女として、お仕えするのが私の夢ですから。」

リリアナさんが顔を赤くして答えてくださいます。

その気持ち分かるなぁ〜、私もミリィの側に居たいと思うもの。


「いいなぁ、私は指名してくださる方とかいないから。」

「指名があるのは成績が優秀な生徒だから、リリアナさんみたいな場合を除けば、普通1年生で指名されることなんて無いみたよ。」

カトレアさんがそう説明してくださいます。

たしかに1年生ではまだだれが優秀とか、分かんないですからね。


「アリスちゃんは指名があるんだよね?」

そういえばココリナちゃんにはミリィの事を話してたんだっけ。

まぁ、王女様だってのはバレないと思うから大丈夫かな?


「ええ、私は・・・」

「ちょっといいかしら。」


突如私たちの前に現れたのは、なんと悪楽令嬢ことイリア様でした。


「・・はい、なんでしょうか?」

恐る恐る尋ねてみると


「わたくし、パーティー当日は男爵令嬢として出席する事になっておりますの。」


「はぁ。」


「あなた、私の侍女役をさせてあげてもいいわよ。」


「・・・・・・・・・・・へ?」


ナニイッテルノ、コノヒトハ。


私がイリア様の侍女役をする?しかも何この上から目線は!まぁ実際貴族様なんですが。


「あのぉ、私ではなくイリア様にはお付きの方(お友達?)が二人もおられるので、どちらかをお選びになられた方がいいんじゃないんですか?」

後ろのお二人は何だか複雑なお顔をされていますよ?


「私がわざわざ指名してあげているのに嫌だというおつもり!」


「ですが、私をご指名される意図が分かりません。それに私・・・」

「なんですって?男爵令嬢の私を侮辱するおつもり!」


もうイヤだこの人、言ってる意味がわかんないよ・・・。


「イリア様、申し訳ございませんが、アリスさんはすでにご指名を受けておられますので、お引き取りいただけませんか?」

パフィオさんがそう言って、すっと私の前に出て庇ってくださいます。


「指名?どうせ、どこかの成金商人の愛人目当でしょ?」

どこから成金商人が出てきたのか分かりませんが、愛人目当てって、もうこの人頭おかしいんじゃないの!?


「いいえ、アリスさんをご指名されている方はとてもご高位のご令嬢様ですわ。」

今度はリリアナさんがパフィオさんの援護射撃をします。

でもハッタリとはいえ、ご高位のご令嬢様って、違っていたらどうするんですかねぇ。

まぁ実際に高位も高位、王女様だからいいんだけど・・・。


イリアさんの『高位のご令嬢』という言葉にピクッっとされたのがわかりました。

貴族様ですからね、爵位には敏感なんですよ。

しかもイリア様のお家は、爵位の中で一番下の男爵で、高位というと自分より確実に上の地位になるわけですから。


おっと、イリアさんが大きな声で叫んでおられたのでクラス中の生徒が私たちを見ていますよ。


その視線を感じたのか

「ふん、あとで後悔しても知りませんから!」

捨て台詞を言い残し、去って行かれました。


「一体何を考えておられるんでしょうね?」

思わず持っていた事が口に出ちゃいました。


「あの方は普段からアリスさんを目の敵にしていますから、おそらく自身の侍女役に付けて、嫌がらせでもと考えていたんじゃないですか?」

パフィオさんが呆れ顔で教えてくださいます。


嫌がらせですか「私そんなに嫌われる事したかなぁ?」


「アリスさんは何もしていないと思います。あの方も貴族様ですから、嫉妬も含め、普段アリスさんの立ち居振る舞いから何かを感じられているのではないでしょうか?」

「あっ、私、独り言漏れちゃっていました?」

「だだ漏れですわ。ふふふ」

イリアさんに独り言を聞かれ赤面しちゃいました。

でも嫉妬って?私の立ち居振る舞いって?どういうこと??




その日の午後の授業で、当日の侍女役を与えられた1年生は全員会議室に集められ、クジを引くことになりました。

ご令嬢様をクジで決めるのは失礼じゃないの?って思ったのですが、どうやらこれは毎年決まっていることで、公平制を重視しているそうです。


私たち1年生は指名がない限り、基本ヴィクトリアの1、2年生を担当することになっています。

少人数のヴィクトリアにくらべ、スチュワートの生徒は多いですからね。




リリアナさんと私はすでに指名が入っていた為、遠くから見学中です。


「アリスさんは結局、パーティーには参加されなかったのですか?」

リリアナさんが小声で私に聞いてこられます。


たしかにお兄様からお誘いのお話はあったのですが、きっぱりお断りしました。

社交界なんて、そんな堅苦しい事、私には向いていませんからね。


「えっと・・・。」

どう答えようか、私が言いよどんでいると。


「ごめんなさい、余計なことを聞いてしまいました。」

リリアナさんは申し訳なさそうな顔をして、私から顔をそらしました。


「・・・もしかしてエスターニア様から私の事を聞いておられますか?」(ボソっ)


ここ最近リリアナさんの言葉に違和感を感じていたのですが、

「そうですね、ティアラ王女様の大切な妹だとお伺いしております。」(ボソっ)

あはは、ですよね〜、そうじゃないかとは思ってました。


「なんとなくそうじゃないかなぁって、思っていたんですが・・・。」

「ふふふ、アリスさんやはり覚えておられませんよね?」

「ほぇ?」

「私、以前に一度だけお会した事があるんですよ?」

「えっ!?」


リリアナさん、一度会った事があるって、私全く覚えていないんですけど、

いやいやその前に、それって始めから私の事を知ってたって事にならない!?

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