第5話 ミリィの決意(前編)
翌朝、雨はすっかり上がり雲一つない青空が広がっていました。
私、ミリアリアは国王騎士団、通称ロイヤルガードの訓練施設に向かっています。
ロイヤルガードとは、私達王族とアリスの護衛のみを行うエリート中のエリート騎士、その為人数もわずか十数名のみ、6年前の事件以降、父様が『アリスを守る為に作った』特別な騎士団。
「まったくどこまで過保護なんだか。」
まぁアリスの秘密を知った今、あの時になぜ無かったのかと文句を言いたいくらい。
「今更何を言っても時間は戻らないけれど。」
昨日は姉様のおかげで、アリスをいっぱい堪能できたから、今日はとても気分がよかった。
私に聖女としての才能も力も無いとわかったのは、いつだったか忘れたけど、かなり小さかったと思う。
もっともレガリア王家は父様の何代か前に、流行り病で王族が大勢亡くなった為、遠い親戚筋が王位についた事があるらしい。そのせいか受け継がれてきた、聖女様の血が薄くなったと言われている。
普通なら周りの侍女たちの噂話から聞こえ、気づかされる事が物語ではよくあるけれど、そこはさすが、お城勤めの優秀な侍女、そんな話は全く聞いたことがなかった。
なぜわかったかと言うとアリスの存在。
私より2ケ月遅く生まれたのに、幼くして神殿の巫女たちのレベルを軽く超える力を持っていた。
「しかも本人は全く自覚なかったし・・・。それは今もか。」
ただの侍女の娘が、王族の、しかも聖女の末裔である私を軽く凌駕しているのが許せなくて、よく意地悪をした。
今思うと当時の私は正直とても良い子供だったとは言えない、侍女にもいっぱい嫌な思いをさせたと思う。
そんな私の事をアリスは、アリスだけは咎めてくる、「そんな事していたら嫌われるからやめよう」っと。
私にとってアリスは友達なんかではなくただの侍女の娘、だから虐める、才能がない自分が、才能のある娘を虐める事で自分を保てるから。
そんな私の虐めに対し、アリスは一向に離れようとしない。
自分に対しての嫌がらせは何も言わないのに、だれかを虐めたら咎めてくるのだ。目に涙をいっぱい貯めながら、泣くのを我慢して。
「あぁ、もうなんて嫌な人間だったんだろう・・・。」
あの日、母様と私達兄妹三人は庭園で遊んでいた、当然のごとくアリスもいたけど。
母様は侍女であるアリスの母親と楽しく話しているのがみえた、姉様が私に、赤いお花で作った冠をくれたけど、ピンクの花がいいと、だだを捏ねた。
姉様は赤い冠をアリスに被せ、少し離れたところにあるピンクの花を摘みにいったとき、侍女の一人が何かを叫びながら姉様のほうへ駆けていき、直後足元から崩れ倒れた。
後で知ったが、突然現れた侵入者が毒の付いた短剣を姉様に投げつけ、それを侍女が自身を盾にし庇ったのだと。
倒れた侍女の姿をみた母様の叫び声、いや悲鳴が庭園内に響き渡った。
侍女たちはすぐさま母様や私達の前に立ち塞がり、隠し持っていた暗器を手にし臨戦態勢に入った。
私の隣から叫び声が聞こえる。
振り向くとアリスが叫びながら泣いていた、普段あれほど泣くのを必死で我慢している子が・・・あぁそうだ、あの倒れた侍女はアリスのお母さんだと他人事のように思った。
そのあとは夢でも見ているような感じだった。
気づけば侵入者が倒れていて、アリスが「お父さん」と泣き叫びながら倒れている騎士に走っていく。
母様と姉様はアリスのお母さんの処に駆けつけていく、その姿を最後に侍女達に囲まれ、お城の中へ連れていかれた。
数日後アリスの両親葬儀が静かに執り行われ、式の間アリスは泣いていなかった。
葬儀後、アリスを除き私達家族と、誰だかわからない大人達が、一人残ったアリスをどうするかで話が行われた、アリスには身寄りと呼ばれる人が居ないらしい。
誰かが修道院にと話した気がする、それを聞いて一番に叫んだのが姉様だった。
「修道院なんかに行かせない自分が育てる」と、気が付けば私も思わず叫んでいた「アリスは私の友達だから誰にも渡さない」と。
「うん、我ながら嫌な子供だったな。」
「何がいやだって?」
「わっ!」
訓練所の前で、自分の独り言を偶然兄様に聞かれてしまったらしい。
「考え事しながら歩いてたら危ないぞ。」
兄様、私たちの3つ年上のエリクシール・レーネス・レガリア第一王子が、私の顔色を見ながら覗き込んでくる。
「急に話かけないでくださいよ。」
「わるい、脅かすつもりはなかったんだけど、さっきからずっと独り言を言いながら歩いてるから。」
「えっ!?私一人でしゃべってたましたか?」
うわぁ、何しゃべってたんだろう・・・・。どこかの穴に入りたい気分だよ~。
「あぁ、アリスがどうの自分がどうのと。」
変な事喋ってないよね?って、さっきから聞いてたなら、もっと早く声をかけてよ。
「で、どうしたんだ?」
心配そうな顔で兄様が聞いて来るから、つい口を尖らせて。
「ちょっと昔の、あの事を思い出してただけです!」
それだけ聞いたら察してくれたのか、私の頭を軽く撫でてれます。もうアリスじゃないんだから、乙女の髪を触るのは失礼ですよ。
「・・・アリスの事、父上達から聞いたんだろう?」
少しの沈黙の後、おもむろに兄様が困った顔で訪ねてきました。
「・・聞いたからここにきたんですよ、お兄さま。」
私はとびっきりの笑顔で兄様へ振り向いた。
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